交叉する運命
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「さっきの霧学のメガネのやつ、なんか感じ悪かったよな
郁也にも会えないしさ!!」
苛立ちを露わに旭は戻った途端に不平を漏らし始める。そんな彼を貴澄が宥める中、蒼は酷く落ち込んでいた。
「まぁまぁ急に押しかけたのは僕たちなんだし」
「ごめんね…」
「蒼が謝ることなんかねーよ!!」
その声にハッとした旭は慌てて口を開いた。カッとしていて忘れていたが、よくよく思い出すと蒼は親し気に今愚痴ってしまったアイツと接していたのだ。気分は良くないだろう。仲がいいやつの悪口を聞くことに。やってしまったと旭はそっぽ向いて口を噤んだ。
「いつもあんな感じなの??」
「全然そんなことないよ!
でも…」
そんな旭の代わりにふとした疑問を貴澄が問いかける。それに蒼は少し考え込むように顎に手を当てた後、苦笑いを浮かべながらこう答えるのだった。
「度がつくほど過保護だから、たまにやりすぎな面もあるかな…」
「あ、始まるよ。郁也の混メ」
そして笛と同時に混メ決勝が始まった。群を抜いて先頭を泳ぐ郁也の姿に蒼以外は目を見張った。専門種目のブレ以外の種目を泳ぐ郁也の姿に。だが、なによりも皆が驚いたのは郁也のフリーだった。
「え!?ハルのフリー」
「ストロークのリズムは似てるかも。でもただのコピーじゃない」
パッと見で遙が泳いでいるフリーに重なって見えた。だが、ただのコピーではなかった。それをずっと遙の泳ぎを見ていた真琴にはわかった。
「郁也って確か平泳ぎ泳いでなかったっけ?」
レースが終わり、貴澄がふとした疑問を投げかける。それに旭が答える。
「あぁ、専門はブレだった」
「中一の夏、フリーも強くなりたいと言っていた」
「フリーだけじゃなくバッタもバックも完全に自分のものにしている」
「郁也は全部一人で泳げるようになるために人一倍努力していたからね」
蒼は懐かしいと思いながら遠い目をしてプールを眺めていた。その時、聞いたことがない声が背後から聞こえてくるのだった。
「お前はなぜフリーしか泳がない?
お前はそれでいいのか?
まぁゆっくり考えろ」
それは先程霧狼学院の応援席を教えてくれた男だった。彼はまっすぐに遙の事を見て、意味深なセリフを残して去っていった。その後姿を追いかけながら一行は何者なのだろうとぼやくのだった。
「なんだよ、あのおっさん」
「さぁ?」
「どこかのスカウトかコーチじゃない?」
「そうなのかな?」
旭、蒼、貴澄、真琴が思い思いに口にする中、旭が思い出したようにそれどころじゃないと声を張り上げた。
「って!それより郁也だ!!」
その言葉にハッとした一行は慌てて席を立ちロッカーへ走り出すのだった。
*****
「ちょっと日和……
いくらなんでも初対面の人に対して意地悪しすぎじゃない?」
納得いかない様子の一行を見送った雪菜は呆れた表情で席に座ると隣の日和を冷ややかな眼差しで見る。
「悪い??
別に僕は馴れ合うつもりないからいいでしょ
それより...」
口を噤んだ日和は腰を浮かせ前のめりになるとグッと雪菜に顔を近づけた。
「なんでアイツらと親し気なの?」
先程仲良く喋っていた様子を思い出しながら日和は眉を顰め、目の前の彼女を追及する。そんな彼の思わぬ行為に雪菜は珍しいものを見たと云わんばかりにポカンとした表情を浮かべた。
「え...あ...あぁ...」
なぜそこまで不機嫌な表情になるのかと、疑問を抱きながらも雪菜は答えた。
「去年の地方大会で蒼を通じてね...
遙君と真琴君、蒼の幼馴染なんだよ」
「へぇーー」
自ら話題を振ったくせに、日和は雪菜の返答に対し興味なさそうに相槌をうった。そんな彼の態度に雪菜は怪訝な顔つきになる。
「興味薄れるの早くない?」
「だって興味ないし」
「自分から聞いたくせに…」
「僕はただ雪菜がどういう経緯で彼らと知り合ったか気になっただけさ」
彼の崩れることのない態度に雪菜は心底呆れたといった表情を浮かべながら息を吐き出した。
「蒼の幼馴染でも興味沸かないの?」
「蒼は関係ないよ、ただ僕が気に入らないだけさ」
雪菜がなんと言おうと、蒼の知り合いであろうと関係ないと日和は冷たい声で受け流した。
きっと真琴くんが蒼の彼氏って知ったら噛み付いてくるんだろうに
蒼に近づいてくる奴らに睨みを利かせてた日和。そんな彼を横目に見て雪菜は己の膝に頬杖する。
「ふーん…」
「なに?その相槌??」
「別になんでもないし、
自分の出る種目は終わったからって
サッサと帰ろうとする日和を止める気もない」
雪菜は淡々と眼の前で片付けを始める日和の行動を述べていく。その言葉に日和はハッと驚きで目を見開いたが、すぐにその動揺を隠すように満面の取り繕った笑みを浮かべるのだった。
「さっすが雪菜!
僕が取ろうとする行動がよくわかったね」
「はぁ……
そんなに会わせたくないんだ、二人を」
爽やかすぎる日和の裏に隠された心情を察して雪菜は大きくため息をついた。もう日和の性格がわかっている雪菜はそう簡単にこれを覆せないとわかっているからだ。
「全部…郁也のためさ」
「しょーがないな…
みんなには私が伝えとくからサッサといきな」
真剣な眼差しで遠くを見つめて呟いた日和の言葉に雪菜は盛大にため息を吐きながら匙を投げる。サッサとどっかに行っちゃえと雪菜は手をあっちの方向に振る。嫌味を込めた雪菜の行動だが、日和は愛想笑いで受け流すのだった。
「ありがと、雪菜
リレーの健闘祈ってるよ」
「そんな思ってないこと口にしないの!
アンタがいないほうが清々するんだから!!」
ピクッと雪菜は眉を動かす。本当に気に食わない。でも、素直に受け取らない自分の方が気に入らない。この日和の表情は取り繕っていないことがわかっているからだ。でも雪菜は本心とは間逆なことを苛立ちを込めて言い捨てる。きっと彼にはお見通しに違いない。日和は一瞬だけ淋しげな笑みを浮かべると、すぐにヘラヘラといつもの表情に戻す。そしていつもの調子で軽口を雪菜に叩くと自身のバッグを肩に背負い込むのだった。
*****
「郁也」
「日和!?」
シャワーを浴びていた郁也は水を止めると驚いた様子で顔を覗かせる日和へと視線を向けた。
「今日はもう帰ろ」
「何…急に
まだ他の試合が残ってるだろ?」
「僕たちのは終わったからいいんじゃない?
ほーら…荷物持ってきたよ」
「…なにそれ」
ニコリと笑みを浮かべると日和はロッカーから持ってきた荷物を郁也が見えるように掲げてみせた。
「なにか美味しいものでも食べて帰ろ。
雪菜にみんなに伝えといてって頼んどいたからさ」
「日和、いいの?」
自分に目を合わせず、急かすように矢継ぎ早な日和の言葉を遮るように郁也が口を開く。その彼の意味深な問いかけに日和は口を噤む。いつの間にか、シャワーは止まっていて耳に入るのは二人の息遣い。ようやく視線を向けた日和は、自分の本心を見透かしていそうな真っ直ぐな眼差しを直視できる心境ではなかった。だからこそ仮面を被るようにへらっと笑みを浮かべた。
「……雪菜まだ試合残ってるでしょ」
「…逆に僕がいない方が雪菜はのびのびと泳げるよ」
ウソだ
互いに互いのことに関しては意地っ張りな両者は素直じゃない。そのため彼らの言葉の裏を返したものが本音だ。つまり、雪菜は日和が見ている前で泳ぎたいし、日和自身も雪菜の泳いでいるでいる姿を誰よりも見たいのだ。
だがそのことを本人に伝えても、違うと突っ張り返されるだけ。誰も彼らの本心に辿り着けないのだ。
「はぁ…」
未だに納得していない郁也は面倒くさそうにため息を吐き出すのだった。
****
「雪菜ちゃんに教えてもらうのはどう??」
ロッカーで待ち伏せしても会えなかった一行は観客席に戻って思考を練っていた。その時に名案を思いついたと貴澄が声を上げる。
「蒼、連絡いれといてくれるかな?」
「別にそれはいいけど…
雪菜見るかなぁ〜…」
試合前後はよほどのことがない限り彼女が連絡の有無を確認することはない。そのことを知っている蒼は、ダメもととわかっていながらも彼らの想いを無下にできず送信ボタンを押すのだった。