番外編
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「ん…ッ…」
窓際につけられたカーテン越し。そこから木漏れ出るのは太陽の光。その朝日は布団にくるまってベッドに寝ていた一人の青年を目覚めさせた。
11月の中旬。段々と寒さが厳しくなる季節。もちろん室内も冷え切っており未だ夢心地の青年は暖かさを逃さないようにと隣で寝ているはずの彼女を抱き寄せようとする。が、その青年の手は宙を切ってしまった。
「あれ?蒼??」
重たい瞼をゆっくりと持ち上げた真琴は、彼女の名を呼ぶ。が、返答は返ってこず、瞼を開けた真琴の視界に映ったのは真っ白なシーツだけだった。すでに彼女の匂いも温もりも失って冷え切ったシーツは暫く前に彼女は起床していることを物語っていた。
「…??」
不思議に思い真琴はゆっくりと上半身を起こした。二人揃って今日の講義は午後からということもあり、どうして彼女がそんなに早く起床しているのかと不思議に思いながら真琴は床に足をつけるのだった。
ヒンヤリとしたフローリング。ブルっと身体を震わせながら真琴は扉を開ける。すると向こうの部屋の暖かい空気が伝わってくるのと同時に香ばしい匂いが真琴の鼻孔を燻ぶった。
「蒼??」
「あ、真琴!」
眠たげに瞼を擦りながら真琴は彼女の名を呼ぶ。その朝特有の掠れた声に反応して元気いっぱいの蒼の声が響き渡った。鈴のように嬉しそうな声色と同時に近寄ってくる足音気づいた真琴は、無意識に口元を緩めていた。
「おはよ、蒼
今日は早いね」
「おはよ!真琴!!
ちょっと今日は張り切ってみたんだよ」
身長が高い真琴を見上げて蒼は満面の笑みを浮かべた。そんな彼女を真琴は直ぐ様腕の中に閉じ込めるのだった。
「....ッ!!」
「起きた時蒼が居ないのが悪い」
拗ねる声を上げながら真琴は堪能するように彼女を抱きしめた。そんな真琴に蒼は急なかれの行動に驚きながらも彼の背に手を回すのだった。彼女の温もりを味わっていた真琴だが伏せていた顔を上げると彼女の肩越しに見える木机に既に朝食が並んでいることに気づいた。
「...随分と張り切ったね」
「だって今日は真琴の誕生日だからね!
めいいっぱいお祝いしなきゃ!!」
普段慌ただしい朝では考えられない食卓に並ぶ朝食。それは、蒼が真琴の為に朝早く起きて作ったものだった。その自分を想っての彼女の行動は予想外で真琴は意表を突かれてしまう。そんな真琴に対して悪戯が成功した子供のようにクスクスと笑みを溢した蒼は彼の胸の中から抜け出してサッと彼の背後に回り彼の大きな背中を押すのだった。
「うわぁ!!」
「ほらほら!!
早く顔洗ってきてよ!!」
突然押されたことに慌てふためく真琴、それと対照的に蒼は楽し気に声を上げるのだった。
*****
「ではでは、真琴の誕生日を祝してカンパーイ!!」
「カンパーイってまだ朝だよ、蒼」
「アハハ、そうだね!」
マグカップを持ち上げ陽気な声を上げる蒼。その真正面で釣られる形でマグカップを持ち上げた真琴は苦笑いをしながらも流れに身を任せてお揃いのマグカップに手に持ったマグカップを合わせるのだった。
「「いただきます!!」」
両手を合わせ終えた真琴は、目の前の料理に手を出す。その真琴の反応を見ようと蒼は料理に手を出さずジッと彼を窺っていた。
「どうどう??」
心配そうに真琴を窺う蒼。そんな彼女に真琴は眉尻を下げて嬉しそうに目を細めた。
「すっごく美味しいよ」
「ホント!!そりゃあ良かった~」
「ありがとね、蒼」
ようやく安堵したのか緊張した面持ちを崩して蒼は頬を緩める。そんな蒼に真琴は優しい声音で礼を述べるのだった。
「大変だったでしょ?」
「そ…そんなことはないよ…」
朝早く起きて大変だったろうと思って声を掛けた真琴の言葉に対して蒼は紛らわすかのように声を上ずらした。頬を染めて蒼は追求を免れるかのように料理に手を出し始める。そんな彼女の行動が可愛らしくて真琴は思わず笑みを溢していた。
「ほ…ほら!!
早く食べて外出かけようよ!!」
「そうだね…
午後からそれぞれ講義が入ってるしね」
「そ…それもそうだけど…」
「そうだけど??」
ゆっくりとした時間が午前中しかとれない。それもそうだが、蒼には別の魂胆があったのだ。それを言葉に言うのが恥ずかしくてどもる蒼に対して、真琴は不思議そうに首を傾げた。
「………」
「蒼??」
言いずらそうにモジモジと顔を下に向けてだんまりの蒼に真琴は小さな声で優しく彼女の名を呼んだ。その声に釣られる形で蒼はゆっくりと口を開いた。
「折角だから二人の時間を増やしたいなぁーって思って…
ほら、夜は皆で集まるでしょ?」
ボソボソと蒼は恥ずかしそうに小さな声で言葉を発した。今日は放課後に一同集まって盛大にお祝いする予定になっているのだ。だからこそ短い時間精一杯楽しみたいと蒼は思っていたのだ。だが、それは自分だけで毎日一緒にいるのに別にいいだろうと逆に思っているのではないかと蒼は縮こまっていた。完全に俯いてしまった蒼に真琴はゆっくりと手を伸ばした。そして優しく彼女の頭を撫でていった。その行為に蒼は驚き顔を上げる。すると、嬉しそうに目を細めて頬を緩ます真琴がいた。
「ま…こっ」
「俺も蒼と同じ気持ちだよ」
「……ッ!!」
「一緒に住んでてもやっぱり外で蒼と二人っきりで楽しみたい気持ちは俺も一緒だよ」
ドクッと蒼の心臓が跳ね上がる。たった一言、真琴の一言で蒼の気宇していたことは一気に吹き飛んだ。
真琴が自分と同じ気持ち…
それだけで蒼は心が舞い上がった。
「よぉーし!!
そうと決まれば急いで朝食を済ませちゃおう!!」
「もう少しのんびりと味わって食べたかったな…」
急に元気を出して料理に手を出し始める蒼に苦笑しながらも真琴は手を伸ばす。その彼がふと嘆くように独り言を漏らした。その声はしっかりと蒼の耳にも届いていた。
「真琴の為ならいつでも作るよ」
リスのように頬張っていた状態から一気に口の中に詰め込んだ物を咀嚼しきった蒼は、嬉しそうに言い切った。
「ありがと…蒼」
「いえいえ!!
真琴の為だったらなんだってするよ!」
トンッと胸を張って言い切った蒼を横目に真琴は無意識の内に口元を緩ましていた。
毎朝同じベッドで目を覚まして
他愛のないことを言いながら朝食を作り食卓を囲む
毎朝同じことを繰り返しているはずなのに、いつもと少し違うだけで心が乱されてしまう。
懸命に自分の為を想ってくれる彼女と過ごせる日々が素敵なことなのだと真琴は噛みしめるように今日という日々を過ごすのだった。