番外編
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ピンポーン!!
とある扉の前で大きな荷物を抱えた人物が立っていた。胸元まであるブラウン色の髪を揺らす彼女はいっこうに応答がない扉の向こう側にいるはずの人物を睨みつけた。
今日は練習もないし、何処か行く予定がないことも友人達から事前聴取済みだ。それにちゃんと根回しはしておいた。絶対に家の中にいるはずなのだ。
ピンポーン!!
「......」
ピンポン!ピンポン!!ピンポン!!!
イラッと額に青筋をたてた彼女は、鬱憤を晴らすようにひたすらインターホンを連打しまくった。
ガチャ
「何のよう??」
ようやく扉が開いたかと思うと、半開きの扉から機嫌悪そうに顔を歪ませる青年が顔を覗かせた。そんな彼にようやくかと彼女は不貞腐れた声を漏らした。
「居るならサッサと出なさいよ、バカ日和」
「いやぁ〜、そんなデッカイ袋持ってるから誰だかわかんなくてさぁ〜」
「嘘付け!わざとでしょ」
「えぇ〜彼氏疑うの〜??」
「胡散臭い」
「胡散臭くて悪かったね」
「とりあえず中入れてよ」
「ハイハイ」
軽口を叩くのはもう二人にとっては日常茶飯事の挨拶だ。家の家主である日和は小さく息をつくと半開きにしていた扉を全開に開ける。これ以上彼女の機嫌を損ねても良いことがないのを知っているからだ。扉が開いたのを確認した雪菜はよいっしょっと袋を抱え直す。その重たそうな袋に日和は眉を顰めた。
「ってか、何入ってるの?それ?重そうじゃん」
「…開けてからのお楽しみ」
日和が手を伸ばそうとするが、やんわりと断った雪菜は魅惑的な笑みを向けながら靴を器用に脱いで上がる。
「はぁ…ホントに何しに来たんだよ」
リビングに向かう雪菜の背を追いながら日和は後ろ手で扉をゆっくりと閉める。いつも軽く一言連絡を入れてくる癖に今回はいきなりの訪問。最初は誰だよと思っていたら怒涛のピンポンダッシュ。こんなことをしでかすのは一人しかいないと覗いてみたら予想通りの人物だったというわけだ。
「……日和??」
ちょこんと一向に来ない日和を不思議に思って荷物を置いた雪菜が顔を覗かせた。
「いつまでそこにいるの?早く来なよ」
「自分の家のように発言しないでよ」
「だったらそんな発言させないようにしなよ、家主さん」
クスクスと愉しげに笑いながら雪菜は覗かせていた顔を戻した。そんな自由すぎる雪菜にやれやれと肩をすくめると日和はゆっくりとリビングへ足を踏み出すのだった。
「日和〜、キッチン借りるね」
「キッチン!?何する気??」
「決まってるでしょ!夕食の支度よ」
ようやく来た日和に一言雪菜は言いながらブラウン色の髪を一つに束ね始める。そんな彼女に日和は怪訝な眼差しを向けた。でも、よくよく荷物の中身を覗き見すると正体は大量の食材。言ってくれれば必要なものは取り揃えたのにと日和は小さく息をつく。
「……手伝う??」
「大丈夫!日和は家主らしくソファーでふんぞり返って待ってて」
「雪菜、何企んでるの??」
「別に何も企んでませんよ〜
腕によりをかけて作りますよ!!」
流石に素直に待っていられないと日和は手伝いを申し入れるが、雪菜は断固拒否。いつもなら問答無用に手伝わせようとする彼女が手伝いを拒否したことに日和は勘くぐる瞳を向ける。が、雪菜は小さく笑いながら手を横に振りながら日和に背を向けた。互いに一度これと決めたことを簡単には覆さない頑固者同士。問いただすのは無理だと早々に日和は諦めるとソファーに腰を下ろすのだった。
*****
「……!?!?」
「なに反応しちゃってるの??」
「誰だって背後からいきなり抱き寄せられたらビクッとするでしょ!!」
調理の手を止めた雪菜は肩元に顔を近づける日和に声を上げた。ビクッと反応した雪菜の腰にはさりげなく日和の手が回されていたのだ。仮に今この場に一人の状態だったら今持っている包丁を間髪入れずに向けるところだ。
「雪菜の初な反応、可愛い」
「もう!!これじゃあ何も作業進められないじゃないの」
「雪菜が一向に構ってくれないのが悪い」
「…子どもか!!」
「たまにはこういうのもいいでしょ??」
たまらずツッコミを入れる雪菜に悪戯っぽい笑みを日和は浮かべて返す。その返しっぷりに雪菜は小さくため息をつくとやんわりと日和を引き剥がそうとするが、おどけながら日和はそれを拒んだ。
「もう少しでできるからその手を離してくれないかなぁ〜」
「えぇ〜、どうしよっかなぁ〜」
「これ向けるよ」
「わかったわかったから、包丁下ろして」
もう最終手段だと雪菜は持っていた包丁を向ける素振りを示す。これには流石の日和もお手上げ。落ち着けと雪菜を必死に宥めた日和は、深くため息をつくと元いた場所に戻るのだった。そんな彼に申し訳ないと思いながら雪菜はすぐに支度を再開した。そして、雪菜の言ったとおりその後たいして時間が経過する前に雪菜は作った料理を日和の前に並べるのだった。
「どう?驚いた??」
自慢気に披露する雪菜に日和はようやく合点がいったような表情を浮かべた。どうしてここまで執拗に一人でやることに彼女がこだわったのか。
「まさか雪菜がこんな粋なことをしてくれるなんて思わなかったよ」
「ちょっと、それ聞き捨てならないんだけど」
「ありがと、僕の誕生日のためにここまでしてくれて」
日和の返しに雪菜は拗ねるようにそっぽを向いた。そんな彼女に、やりすぎたと日和は頬をかいた。でも、どうすれば機嫌を直してくれるかはすぐに分かった日和は即座に実行に移した。
もちろん雪菜はすぐに日和の声に振り向いた。振り向いた雪菜が見たのは幸せそうに笑う日和だった。そんな彼を見て、苦労した介があったと雪菜は嬉しそうに目を細めるのだった。
「…どういたしまして。」
「さて、折角雪菜が丹精込めて作ってくれた料理が冷めないうちにいただきますか!」
今すぐに抱きしめたい衝動に駆られる日和だが、ここはグッと抑えて目の前の料理に手を伸ばす。美味しそうに食べる日和に、雪菜はホッと胸を撫で下ろすと自分も食べようと箸に手を伸ばすのだった。
*****
「もう最後までやらせてくれたっていいじゃないの」
「これくらい僕にやらせてよ」
色々な話をしながら食事をし終えた日和は、片付けくらいはやらせてと最後までやりきると駄々こねる雪菜をソファーに無理やり押しやったのだ。そのまま自分は食器をテキパキと洗って片していく。そんな彼を横目に雪菜は不貞腐れた声を漏らす。が、こればかりは譲れないと日和は彼女ににこやかな笑みを向けるのだった。
「ねぇ?雪菜」
「なによ??」
いつの間にか片付けを終えたのか雪菜の知らないうちに日和は自身の隣に座っていた。それに内心驚きながらも雪菜は平然とする。ここで動揺を少しでも見せたら巧みに日和の言葉にのせられてしまうことは明白だからだ。
まだ怒っていると示そうと雪菜は拗ねた声を漏らす。が、素直じゃない雪菜の性格を知り尽くしている日和には筒抜け。
日和は未だにそっぽ向く雪菜の顎に右手をかけると強引に彼女を自分の方に向けさせた。そしてそのまま日和は噛み付くように唇を奪った。構ってくれなかった時間を埋めるように。
「ちょ…ちょっと!!」
主導権を完全に握られて、入ってきた彼の舌により口内を激しく舐め回された雪菜は、日和がやっと離れた途端に大きく息を吸い込んで、酸素を肺に送り込んだ。そして、ハァハァと息を荒げながらも突然の行動に雪菜は異を唱えようとする。
が、顔を上げた雪菜はやばいものを見てしまったと言わんばかりに顔を真っ青にさせた。雪菜の琥珀色の瞳に映るのは、良からぬことを考えているとしか考えられない日和の黒い笑顔だった。
「本番はこれからだよね?雪菜」
ニッコリと笑った日和は雪菜のブラウン色の髪に指を通す。絡むことなく通る雪菜の髪に日和は口づけをする。相変わらずその日和の行動に慣れない雪菜はビクッと身体を震わせる。が、威勢を崩したくない雪菜はニッコリと笑みを浮かべて、仕返しと日和の不意をつく。
「もちろん。だってまだ日和の誕生日終わってないでしょ?」
口づけをし終え、日和の顔から少し離れた雪菜はそう言い返した。
「流石、雪菜。
僕のことをよくわかってるね」
誘っている風にしか見えない雪菜の行動と言動に日和は愉しげに目を細める。
いつも以上に雪菜が可愛らしく色っぽいと思ってしまうのは今日が特別な日だからなのだろうか?
「誕生日おめでと、日和」
おいでと言わんばかりに両手を広げる雪菜の胸に日和はメガネを放り投げて飛び込む。もうお預けはゴメンだと、ここまで保っていた理性を日和は外すのだった。