黒子の特訓
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「10本中、6本。こないだより悪くなってねーか?」
後日、再び黒子の練習を見に集ったのは美桜、青峰、高尾。進捗状況を知るために、いつも通り黒子にシュートを10本してもらう。その様子をジッと眺めていた青峰は、黒子のシュートの確率が下がっていることに、顔を顰めた。
「1本も入らなかった頃に比べたら、目まぐるしい成長だけどなぁ…」
「でも、この確率だと大事な場面で使えないよね…」
青峰同様、この状況に高尾と美桜も困惑する。そして、それは黒子自身も同じだった。縋るように黒子は青峰に尋ねる。
「青峰くんはどうやってシュートしてるんですか?」
なかなかシュート率が上がらない、何か参考になればと青峰に尋ねた黒子だが、すぐ後悔することになる。
「どうって…」とボールを受け取った青峰はいつも通りボールを放り投げて入れた。「こうだよ」と当然だろと黒子を見る青峰。
「もう少し具体的にお願いします」
言葉というかコツを知りたいのにとげんなりとした表情になる黒子。思わず美桜はそのやり取りに笑ってしまった。
「あはは!大輝は感覚派だからね。説明しろって言われても無理だよ」
「うるせーぞ、美桜!」
笑われた青峰は、額に青筋を浮かべる。カチンときた彼は、拾ったボールを思いっきり美桜に投げつけた。
「ちょっと!私が取れなかったどうするの!」
「お前が、こんなボールを取れないわけがないだろ?」
突然のことに、咄嗟に手を出してボールを取った美桜は、青峰を睨め付ける。だが、本人はどこ吹く風と言い返す。
「なにこれ?いつもこんな感じ?」
「はい、美桜さんと青峰君は喧嘩するほど仲がいいんです」
「へぇー」
バチバチと火花を散らして言い合いを始める2人を高尾は遠い目で見る。この状況に耐え切れず、高尾は黒子に問いかける。だが、彼と違ってこの状況が日常茶飯事である黒子は苦笑いを浮かべていた。
「だったら、お前ならどうするんだよ?やってみろ」
「...んーと」
いがみ合っていた美桜は、青峰の挑発に対して、ボールを構える。そして、いつも通りにシュートを放った。
「入るイメージを浮かべてシュートする!」
「いや...やってます」
「おめぇーも一緒じゃねぇーか!」
「言葉足らずの大輝よりはいいでしょ?」
美桜のアドバイスに、黒子は思わず内心、頭を抱え込んだ。
黒子が知る限り「シュートが上手いのは誰か?」と聞かれたら真っ先に青峰と美桜の名を挙げる。だからこそ練習を見て欲しいとお願いしたのだ。だが、だいたい二人とも感覚派だ。理論的に説明ができるわけが無い。黒子は人選ミスしてしまったのかと、今更ながら己の判断を悔い始めた。
「なぁ、テッちゃん」
「…なんでしょう?」
「テッちゃんって、パスするときはどういうイメージでしてるの?」
「僕の場合は、パスは掌で押す感じで…
でも、どうして?」
「いや、究極論だけどさ…
結局パスもシュートも一緒じゃね?って思ってさ…
だってボールを、誰かに投げるか、ゴールに投げるかの違いだろ?」
そんな黒子に高尾はふと頭を浮かんだことをぶつけた。その問いに黒子は不思議そうに答えた。その2人のやり取りに、言い争いを繰り広げていた美桜と青峰がピタッと動きを止めた。
「....」
「えっ?何、2人して...
俺の言ったこと、的外れ?」
群青とエメラルドの双眼が高尾に向けられる。無言な2人の眼差しに高尾は、ビクッと身体を強張らした。
「「...それだ!!」」
だが、高尾の着眼点に対して美桜と青峰は、一種の考えが思い浮かんでいたのだ。どうして今まで気づかなかったのだろうか?と頭をガツンと殴られた心地に至っていた。
「えっ?」
「やるじゃねーか、カズ。お手柄だ」
突然、声を揃える両者に高尾は目を丸くする。そんな彼の肩に青峰は手を置くと、そのままその手を肩に回した。
「どういうこと?」
「テツヤには、普通の打ち方は合わないってことだよ」
未だに状況を呑み込めない高尾に、美桜は意味深な言葉を口にした。
「ってことで、テツ!もう1回打ってみろ」
「テツヤが打ちやすいように、掌で押すように今度はやってみて」
高尾同様、黒子自身も2人が一体何に閃いたのか呑み込めていなかった。その中でシュートをもう1回やれと言われて、黒子は不思議そうに目を見開いた。そんな彼に、美桜が補足するかのように付け加えた。
「掌で...ですか?」
「そう!かずが言ったようにゴールにパスするつもりで打ってみて!」
「...やってみます」
美桜が言ったように。黒子は小さく頷くと、ゴールに向かって構えた。今度は掌でボールを押し出すため、構え方は独特。それでも、黒子が放ったボールは一直線にゴールへと吸い込まれた。
「...なるほどな」
先ほどと比べて愕然とシュート率が上がった黒子を見て、合点がいったと青峰は肩を竦めた。
「もう掌を使うことがテツヤの癖になっちゃってたんだね」
「...癖ですか」
「そう。だから私らと同じようなシュートをしようとしてもどうしても無意識に掌も使っちゃう。だから、シュートが入りづらかったんだよ。」
「だったらもうその癖をそのまま使ってあげたほうがいいだろ?って話だな」
納得がいったと2人はうんうんと頷く。その傍では、黒子がぼんやりと自分の手を見つめていた。何か考え込むような仕草に、高尾は思わず声を掛ける。
「どうした?」
「ちょっと思いついた事があって...」
「...?」
「あの...ちょっとやってみたいことがあります」
考えが纏まったのか黒子は顔を上げる。そして、3人をグルっと見渡すとある申し出をするのだった。
「って...まさかこんな形で組むことになるとはな」
黒子の申し出で実現したのは、2on2。そして黒子がペアを組みたいと言ったのは、青峰だったのだ。まさかの出来事に困ったように青峰は肩を竦めていた。
「さて...テツヤは何を思いついたのかな?」
必然的に高尾と組むことになった美桜は楽しそうに口元に弧を描いていた。
「さぁーな..」
2人にも黒子の策はわからない。が、何かしら仕掛けてこようとして来るのは明らか。高尾は、ダークブルーの瞳を細めた。
「何を仕掛けてきても取ってやろうぜ」
「もちろん、そのつもりだよ」
高尾の好戦的な眼差しにつられるように美桜は、自身の瞳の色を変えるのだった。
「テツ、俺は自由に動いて良いんだな?」
「大丈夫です」
青峰は黒子に再度確認すると、実戦練習の口火を切った。
「行かせないよ!大輝!」
「わりぃけど、抜かせてもらうぜ!」
青峰の進む道を即座に美桜は阻む。が、青峰は読んでいたと、口角を上げると彼女の脇をいとも容易く通り過ぎた。
「あっ...」
「...テツ!」
美桜をパスした青峰は、黒子へボールを回した。ゴール前にいた黒子は、胸の前でボールを構える。その目の前には当然のように高尾が立ち塞がっていた。
「さて、テっちゃんの編み出した技、見せてもらいましょうか!」
「...行きます」
静かに言葉を口にした黒子は、右手でボールを勢いよく押し出した。
「...?!」
高尾は目の前で起こった出来事が信じられず目を見開く。その後方では、ボールがゴールを揺らす音がした。
「...なんだよ、今の」
「今、ボール消えなかった?」
高尾同様、傍らで見ていた青峰と美桜もこのシュートに驚きを隠せないでいた。
「どうですか?」
対して、このシュートを打った本人は不安そうに3人の顔を眺めていた。
「いいんじゃねぇーか ?
これを試合で出せれば武器にはなるだろ?」
「消えるシュートなんて、チート過ぎだろ!」
「次当たるのあっくんだし、それを物にすれば、点を取る突破口になるね!」
黒子の不安げな問いに、三者三様。それでも黒子のその技が強力であることは一致していた。
特に次の試合当たるのは強力な防御力を誇る紫原敦がいる陽泉高校だ。彼からどれだけ点数を取ることができるかが勝負の決め手になってくるだろう。
「さて...俺の出番はここまでだな」
黒子のシュートを教える。無事になんとかやり遂げた青峰はもうお役御免だと帰ろうとする。そんな彼に黒子は口を開いた。
「青峰君...ありがとうございました。」
「バカ!何礼言ってんだよ。あまりヘボいから見てられなかっただけだ。」
感謝を伝える黒子の言葉に、青峰は照れくさそうに頭をガシガシかいた。でも、お礼を言いたいのは自分の方だと青峰は思っていた。昔の感覚を思い出させてくれた。そして再び美桜と並べることができた。感謝したいのは山々だったが、どうしてもその言葉は喉から出なかった。
「じゃあな、俺はもう行くぜ。次会うのは敵としてだ。負けんじゃねぇーぞ...テツ」
結局素直な気持ちを口に出すことは出来ず。青峰は彼に背を向けるとそそくさと行ってしまうのだった。
「...行っちゃった」
「行っちゃったな、大ちゃん」
「「...?」」
「なんだよ、美桜...それにテっちゃんも」
早々に行ってしまった青峰に、何も声を掛けられなかったと落胆していた美桜。その隣では同様に高尾も名残惜しそうに彼の背を見ていた。その彼が発した呼び方。思わず、美桜と黒子は驚きの表情で高尾を見上げる羽目に。その2人の視線に気付いた高尾は不思議そうに首を傾げた。
「ちょっと待って、大ちゃん?」
「おう!青峰の呼び方な!」
「... いつの間に」
「前回、バスケした時にな!」
「相変わらず、高尾くんは凄いですね。
あの青峰くんと短期間で仲良くなるなんて」
「そうか?」
青峰自身が彼を愛称で呼ぶようになったことにもびっくりだったが、まさか高尾の呼び方を容認したことに2人は驚いていた。それだけ、彼の懐の中に高尾が入ることができたということだろう。だが、高尾は高難度なことをしたことに気づいていない。いつも通り、呆気からんと笑みを浮かべる高尾に、美桜と黒子は困ったように顔を見合わせるのだった。