黒子の特訓
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「どっからでも来ていいぜ」
「ん?じゃあ遠慮なく」
コート上で対峙する青峰と高尾。青峰の一声で二人の1on1の火蓋が切って落とされた。
視界の先で構える青峰を、正直言うと抜ける気がしない。それでも、今自分の持っているものをぶつけるだけだ。ダークブルーの瞳を鋭くした高尾は、ドライブを切り出した。
「…ッ速い!」
初めてみる高尾のプレイに青峰は目を見開いて驚いた。
だが、あくまで俺が相手じゃなかったらの話だがな…
脇を通り抜けようとする高尾の動きに対して、青峰は反射的に付いていく。青峰がすんなりと通してくれるわけがない、彼が追い付くことなど、高尾は想定内だ。
「こっからだぜ!本番は!!」
高尾はギアを上げて加速すると、切り替えて逆サイドから抜く。
「…マジかよ」
予想外の彼の動きに驚くが、直ぐに楽しげに口角を上げた。
「いいねぇー、そうこなくちゃ」
「...っ!」
スゥッと目を細めた青峰の手により、高尾が持っていたボールが弾かれた。
「これで...攻守交代だな」
「...そうすんなりと点をくれねぇーよな」
淡々とボールを突く青峰と向き合った高尾は、流れ落ちる汗を腕で拭った。
「すごい、高尾くん…」
黒子のシュート練習を眺めていた桃井は、横目で捉えた光景に思わず感嘆の声を漏らした。その声に、黒子と美桜はその手を止める。
「2人とも楽しそうですね…」
「…ホントだね」
汗水流しながら走りまわる2人の表情は少年のように無邪気な笑みを溢していて…。美桜らは、釣られるように表情を緩めた。
「でも、1on1で青峰君に付いていけるなんて…
一体、どんな練習してるんですか?」
「えっ?ただ私と1on1してるだけだよ?」
桃井同様、黒子自身も、高尾が青峰とここまでやり合えるとは思ってなかったため、不思議そうに美桜に問いかける。その問いに対して、美桜は心当たりがないと首を捻った。
「あぁ、そっか!」
「えっ?なに?」
「高尾君のプレースタイル、美桜と似てるなぁーって思ってたんだよね!」
傍らで一緒に聞いていた桃井が腑に落ちたと声を上げた。通常の試合を見ているだけでは気づくことができない。だって、それが現れるのは、個人技の時だけなのだから。
美桜自身は気づいていないが、彼女と1on1すること自体が、並大抵のプレイヤーには難しいことなのだ。
「驚いたぜ...あんなに動けるなんてな...」
「そりゃーどーも」
「一瞬、美桜とやってるんじゃないかって目を疑ったぜ」
「...そんな似てるか?」
見ている桃井が気づくのだから、当然対峙している青峰が気づかないはずがなかった。逆に当の本人は、驚きのあまり足を止めてしまう。さっきまでのが嘘のように大きく目を丸くして、高尾は青峰に尋ねていた。
「なんだ、気づいてないのか?お前の動き、美桜にそっくりだぜ」
青峰の動きの速さに、平然と付いてきた高尾は、何食わぬ顔でスティールをしシュートを打っていた。若干舐めていた青峰は、高尾のプレイに目を見張った。まるで、美桜と1on1をしているかのように感じたのだ。
「えっ、マジ?」
「お前、気づいてないのか?」
「だって、誰も教えてくれねーし」
「そりゃーそうか!自分じゃわかんねーもんな!」
「美桜にも言われたことねーよ」
「アイツもわかってねーからな…
普段の自分の動きなんて」
初めて指摘された高尾は驚きの声を上げる。チームメンバーにも、美桜にすら何も言われたことがない。時間が許す限り、彼女とやることで、最近ようやくまともに彼女の動きに追いつけるようになった気がするが、到底彼女とやるのは力不足だと感じていた。
思わず拗ねる高尾の様子に、青峰はたまらず表情を崩して笑みを溢した。そこから青峰と高尾の距離は急速に縮まった。そしていつの間にか名前で呼び合うくらい仲良くなっていた。
十分黒子と練習した後、美桜は視線をバスケをしている二人に目をやった。
「なかなかやるじゃねぇーか!カズ!」
「伊達に真ちゃんの相棒努めてないっつーの!」
視線の先には、ハイタッチをする二人の姿があった。
「すご~い」
「高尾君...いつの間に」
いつの間にか仲良くなっているのを見て、目を見開いて黒子と桃井は驚きの声を上げた。
相変わらず私の彼氏のハイスペックぶりには恐れ入るわ。
美桜は思わず苦笑を浮かべる。そんな彼女に桃井はそっと近づいた。
「ってか美桜、私に言ってないことあるんじゃない?」
「...っ!」
耳元で囁かれた美桜は勢いよく桃井へ振り向く。彼女の目に映ったのは、悪巧みを企むような表情を浮かべる桃井だった。
「えっ...なんのこと?」
「しらばくれても無駄だよ。
高尾くんと付き合い始めたこと、ちゃーんと知ってるんだから」
徐々に表情を青褪める美桜に反して、桃井は喜色満面の笑みを零す。
美桜の初恋は恐らく大ちゃんだろう...
当時の美桜はホントに鈍感で、ずっとずっと一緒にいた桃井にとっては歯がゆかったくらいだ。だがいつの間にか関係はこずれてしまい遂にはすれ違ってしまった。青峰はバスケの楽しさを忘れ、美桜はバスケ自体を止めてしまった。そして二人の関係は回復することなくバラバラに。今まででずっと一緒にいたからこそ桃井は見ていて苦しかった、そして悔しかった...自分には何もできないのかと。代わりに彼女は願った、暗闇にいる二人を誰か救ってくれと。
その願い通り、彼女はいつしか自身の光を取り戻していた。1人の青年によって。
幼馴染の自分がなし得なかったことを、まだ彼女と知り合って日が浅い彼がやってのけてしまった。
「...美桜、いい人選んだね」
嫉妬がないと言えば嘘になる。大事な幼馴染を横から掻っ攫わられたのだから。
でも、彼女を1番輝かせる事が出来るのが彼なのであれば素直に喜ぶべきだ。
だって...美桜の幸せを願ってる気持ちは誰にも負けないんだから
桃井の柔らかい表情につられて美桜は、表情を緩めた。
「ありがと、さつき」
照れくさそうに美桜は、桃井に笑いかけた。そんな彼女が可愛くて、桃井はたまらず彼女を抱きしめた。
どうか、美桜がずっと幸せでいられますように
桃井は強く願った。
次こそは彼女の輝く光が無くならないようにと。