夏休みの一幕
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ミーンミンミンミーーーーン
雲ひとつない青空。そこに輝くのは燦々とした太陽。空から地上に向けて照りつける光。その直射日光により、地上は蒸し風呂状態。そしてアスファルトの道路上ではゆらゆらと陽炎が立ち込めていた。
「アチィーー」
「高尾...うるさいのだよ」
「そう言ってる真太郎も覇気がないよ」
灼熱地獄の中、道を歩く部活帰りの高尾と緑間と美桜。彼らの制服は自身の汗でビショビショに。全身からは大粒の汗が流れ落ちていた。
「あ!マジパある。ちょっと涼もうぜ」
「賛成なのだよ」
「早く入ろう」
もう限界と歪む高尾の視界に入ったのはマジパの文字。救いの手に見えた高尾はすぐさま賛同を得ようと声を上げる。もちろん高尾の提案にすぐさま二人はのったのだった。
「あーーー!涼しい」
店内は冷房がガンガン効いていた。入った途端にヒンヤリとした風を受けることで3人は生気を取り戻す。
「さてさて、何か頼みますか」
何時もの調子を取り戻す高尾はメニューに視線を落とす。吊られるように美桜は彼の隣からそれを覗き込んだ。
「美桜、なに頼む?」
「んーとね…」
何気なく尋ねられた言葉に対し、美桜はあるものを指さす。その指さす先に書かれていた飲み物に高尾は珍しいと目を瞬かせた。
「えっ、珍しいじゃん」
「なんか無性に飲みたくなっちゃったんだよね」
普段頼むことがない飲み物。これは美桜にとってかつてのチームメイトが好んで飲んでいたメニューの一つだったのだ。脳裏に浮かぶ彼の姿に頬を綻ばせながら美桜はカウンターに向かう。そんな彼女の後姿を高尾は不思議そうに追いかけるのだった。
「えっ...なんで彼奴等いるんだ?」
「.........」
「あははは...」
注文した品を受け取り席を探していた3人は、あるテーブルを見て固まった。彼らの視界に入ったのは、机に大盛りに積み上げられたバーガー。そのバーガーを口に次々と放り込むのは火神の姿。その向かいにはそんな火神を見てきれいに整った顔を歪ませる黄瀬の姿があった。
「他の席探すぞ」
「まぁまぁ」
無言を貫き通していた緑間が踵を返し始める。そんな緑間を高尾は引き止めると愉しそうに、例の机へ引っ張り始めるのだった。
「ヤッホ!なーにしてんの、お前ら?」
「げっ!!なんでいんだよ!」
「あっれれ??みおっちに緑間っちに高尾君?」
聞き覚えのある声が聞こえ一斉に振り向くと、ブンブン手を振る高尾、そんな彼に引きづられる緑間、その傍らで苦笑いを浮かべる美桜がいた。緑間を視界に捉え一気に火神の顔が引き攣り、一方の黄瀬は驚いた顔になる。
その火神の表情を見て緑間は眉をひそめる。
「なんだ?居てはダメか?」
「そういうわけじゃねぇーけど」
「じゃあ何なのだよ!!」
高尾の手を外し、火神の前でクッと眼鏡を押し上げる緑間。そんな彼を見て火神は顔をさらに強張らせる。毎度恒例の火神と緑間のいがみ合い。流石にもう高尾達は止めようとは思わなかった。
「涼太は帰省中?」
「そうなんすよ!んで、たまたまマジパに寄ったら黒子っち達がいたんでご一緒させて貰ってたですわ」
「え?黒子いるの?」
黄瀬の口から出てきた名前に二人は首をかしげる。どう見てもこのテーブルにいるのは未だに緑間を睨めつける火神と今話している黄瀬だけなのだ。
「ここにいます」
「うわぁ!!黒子!?」
「テツヤ!?」
突如として黄瀬の隣から黒子が顔を出す。お気に入りのバニラシェイクを啜りながら不服そうな表現を浮かべいていた。
「二人揃ってわかってくれないなんて...心外です」
「ごめんごめん!涼太の放つオーラが凄すぎて」
「そうだな、黄瀬君の隣りにいる黒子が悪い」
普段なら高尾達は持ち前の視界の広さで黒子を見つけられるのだが、今回はイレギュラーの黄瀬がいた。黄瀬の存在感は遠目から見ても凄まじい。恐らく、黒子の影の薄さが黄瀬の放つオーラでかき消されてしまったのだろうという結論に二人は辿り着いたのだ。
「え?俺そんなにオーラ凄いっすか?」
髪をシャララと煌めかせ後ろにかきあげる黄瀬。黒子はそんな隣にいる黄瀬を睨み付ける。
「なるほど...黄瀬君のせいでしたか。
直ぐに離れてください」
「え....え~~!せっかく久しぶり会えたのにそれはないっすよ!黒子っち〜」
さっきの表情とは一変し今にも泣きそうな表情を浮かべ抱きつこうと黄瀬はするのだが、黒子は華麗にそれをかわすのだった。
「あ...良かったら一緒にどうですか?」
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
黒子の一声で3人はそれぞれ席につく。黄瀬の隣りに緑間が座り、反対側にいる火神の隣に高尾と美桜がそれぞれ座った。火神と緑間は目を合わせることなく火神はひたすらバーガーを頬張り、緑間は飲物を啜るのだった。
「っーかよ...ホントに火神の胃袋どうなってんだ?」
「あはは...ホントっすよね」
もう何個目だかわからないバーガーに手を出す火神の姿に若干引き気味になる高尾と黄瀬。そんな二人を見て火神はリスのように両頬を膨らませながらポカンとした表情を浮かべる。
「え...これが普通なんだけど。逆になんでそんなに食べられないんだ?」
「二人共いちいち突っ込んでたら埒が明かないよ」
「そうですね。火神君本人は異常だと理解してないんで」
黒子と美桜は手に持つバニラシェイクを啜る。
「そうなんだけどさ...」
「みおっち珍しいっすね。バニラシェイクなんて」
「ん??なんとなく飲みたくなっちゃって。
まさかテツヤがいるとは思わなくて被っちゃったけど…」
「バニラシェイクほど美味しい飲み物はありませんよ」
「その考えは賛同しかねるんだけど」
黒子の意見に美桜は苦笑いを浮かべながらバニラシェイクを啜る。
「いやいやそう言いながら飲んでるじゃん」
「たまには飲みたくなるよ。
流石にテツヤみたいに毎度バニラシェイクは頼まないよ」
「まぁ確かにそうだよな。美桜がバニラシェイク飲んでるの俺初めて見たぜ」
わちゃわちゃと緑間を除く5人は思い思いの事を口にしていく。なんだかんだで時間は過ぎていき、いつの間にか窓辺のテーブルに座る彼らに西日が射し込んでいた。
「あ...もうこんな時間」
「涼みに入っただけなのに長居しちゃったな」
まさかここまでマジパにいるとはと高尾と美桜は顔を見合わせる。そろそろ解散かな?と思われたのだが、その空気を斬り裂くかのように黄瀬が口を開く。
「あの!!」
その声で一同は黄瀬に視線を向けた。その視線に若干緊張しながらも黄瀬は、少し前の自分では言わなかったであろう誘い言葉を口にする。
「せっかく集まったんすから...皆でバスケ、しないすか?」
らしくないセリフを口にした黄瀬は、早く反応をしてほしいと恥ずかしそうに目を伏せる。そんな彼をマジマジと美桜は見つめる。他の者もポカンとしているなか、意気揚々と火神が立ち上がった。
「お、いいぜ!やろうぜ!」
「楽しそうですね。やりましょうか」
「このメンバーでバスケか?面白そうだな!その話のった!!」
火神・黒子・高尾は黄瀬の魅力的な提案に賛同を示す。そして4人の目線は両端に座る二人に注がれた。
「はぁ...全く、騒がしい奴らなのだよ。やってやらなくてもないぞ」
「といいつつ、真太郎もやりたそうな目になってるよ」
「え?マジで!真ちゃん!さすがこのツンデレ」
「高尾の分際でうるさいのだよ」
アハハ!!と笑う美桜の声でこの茶番劇は一気に鎮静化する。そして一斉に彼らは美桜を見る。そんな彼らの視界に映るのは頬を緩ませ、今にも弾けそうな笑顔を浮かべる少女。
「やろ!皆でバスケ!」
勢いよく立ち上がると一目散に荷物を持ち、隣の高尾を急かす。
「ほら!!はやくはやく!!時間なくなっちゃう!!」
「わかった、わかったから!」
無邪気にはしゃぐ彼女の姿は彼らキセキの世代が待ち焦がれていたもの。そんな彼女を落ち着かせようとする高尾とのやり取りをキセキの世代達は微笑まし気に眺めていたのだった。