WC(誠凛対桐皇)
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くそっ!なんでこんなに俺はよぇーんだ
絶対勝つんだ!
嫌なんだよ、もう負けるのは
嫌なんだよ、こんなとこで終わっちまうのは
火神は悔しげに奥歯を噛み締めた。その彼の脳裏には、誠凛の仲間たち・黒子が悔し涙を流し、歯を食いしばる姿が横切る。そして、塵のようにその姿が消えた後、ポツンと1人立ちつくす少女の姿が浮かび上がった。
「任せたよ...大我」
マリーゴールドの髪を揺らし、振り返った少女は悲しげに微笑む。他校の敵なのに、自分に期待を込めてアドバイスをくれた美桜だ。
嫌なんだよ、もう泣いてる仲間を見るのは!
ここでやらなきゃいつやるんだよ!
沸々と火神の奥底から力が沸き上がる。
今まで閃光のように駆ける青峰を捉えられなかった火神の瞳にスローモーションのように映る。行ける!と火神は手を伸ばした。その手はドライブした青峰の持つボールに触れる。ついに火神は青峰を止めたのだった。その火神の瞳からは深紅の光の筋が出ていた。
嘘...ゾーンに入った大輝を止めた!?
驚きの光景に美桜は大きく目を見開いた。青峰に我武者羅にしがみついていた火神はついに新たな領域に続く扉を開けたのだ。ゾーンという扉を。
「前言撤回するぜ火神。サイコーだな。お前!」
ゾーンに入った火神を見て、青峰は嬉しそうに口角を上げた。
始まった火神と青峰のゾーン対決。青の閃光と赤の閃光がぶつかり合う。両者とも一歩も譲らないまま、点は入ることなく1分経過しようとしていた。
「両チームエース一片等っていうのはどうなんだ?
他の4人でボールを回せば...点取れるんじゃないか?」
「無駄なのだよ、恐らく結果は変わらない」
高尾の率直な意見に対し、ビシャリと緑間は否定する。
ゾーンはただ100%の力を発揮するものではない。不必要な情報はすべてカットする。その分目の前の相手だけでなく他の選手の位置や動きなど必要な情報の処理能力は向上する。要は視野が広がるのだ。今の状態で誰かが手を貸すことはできないのだ。二人ともゾーンに入って集中力と反射速度は最高を超えている。
片や高校最速の男…
片や高校最高の男…
「そんな二人のゾーンは、守備範囲は常人の域を越えてる。
今の二人を前に生半可な攻めは逆に危険だよ」
二人の散らす火花は観客を魅力する。
もう…こんなの見せられたら泣くに決まってんじゃん…
美桜にとって今の二人は誰よりも輝き楽しげにコートを駆け回っているように見えていた。彼女が懸命に押しとどめていた感情があふれ出そうとしていた。
誰もが思ったに違いない。
このまま終わらないで欲しいと。
でも、決着は突然訪れるのだった。
*****
火神が青峰を抜き、シュートを決める。95対92の3点差に。
「青峰のゾーンはタイムリミットのようだな」
その後も火神は青峰のスピードを上回るプレイをする。その光景に緑間は小さく息を吐き出すように呟いた。
ゾーンは100%の力を発揮できる反面反動が大きいのだ。
ゾーンが切れたくらいで負けるか!と青峰はフォームレスシュートを繰り出す。が、火神はそれを止める。青峰に無くて火神にあるものは支えだ。支えを力に変えて火神は戦っていたのだ。
青峰...お前はつぇーよ。
1対1じゃまじで勝てなかった。
タイムリミットなんて俺だってとっくに来てた。
それでもまだ戦えてるのは支えがあるからだ。
「みんなのためにぜってぇー勝つ!」
気迫で火神が青峰のシュートを止めたことで残り30秒で誠凛はついに1点差に。
「こっからだろうが?一番テンションが上がるのは」
火神と再び合間見れるの青峰。
「負けるかよ。勝負ってのは勝たなきゃ何も面白くはねぇーだよ」
フォームレスシュートが放たれ、残り15秒で3点差。桐皇のトドメの一撃といってもいい。
「やべーぞ!時間がもう!」
高尾の焦り声が耳に入るが、美桜の視界はもう涙で遮られていて見えない状態。それでも彼女は俯かずに前を向く。全てを見届けるために。
誠凛には延長を戦う力はもう残っていない。スリー、1本で同点に追いついても確実に誠凛は負ける。誠凛が勝つにはさらにもう1本必要だ。
伊月→木吉→黒子→日向とボールは回る。一か八かと日向はバリアジャンパーをしようとする。すかさず黒子もオーバーフローを発動する。が、オーバーフローはもう効果切れ。完全に黒子は限界に来ていた。これではシュートできない…焦る日向の耳にキャプテン!と呼ぶ火神の声が入る。
「頼む!決めてくれ、火神!!」
運命は火神に託された。ダンクシュートを決めようとする彼に、青峰が喰らいつく。
駄目だ!このダンクは止められる…どうすればいいんだ。
焦る火神の脳裏にかつて言われた言葉が過ぎる。
『まさか、空中戦なら勝てると思ってないだろうな?』
『…それでよく空中戦で勝負しようと思ったね』
その言葉は、夏合宿のときに緑間と美桜に浅はかな考えであったと気付かされたもの。その時に決意した。最後まで跳べるだけの体力の向上と、左手で自由にボールを操れるようになることを。
俺は空中で自在に動けるようになるって決めたじゃねーか!!
ダンクをしようとした火神は、左手で木吉へパスを送ったのだ。
火神は左手のハンドリングを向上させるためにずっと練習してきた。そしてこの土壇場で火神はそれをものにしたのだった。受け取った木吉は若松のファールを誘いシュートを放った。
ディフェンスプッシング。1スローが誠凛に与えられる。
「残り5秒、決めれば同点...延長か」
「いや、誠凛が勝つにはここで逆転するしかないのだよ」
高尾と緑間は横目で得点を確認する。このフリースローを決めれば同点。残り時間的に延長が決まる。だが、少ない人数で戦っている誠凛には延長を戦う余力は残っていない。
「そうだな…
誠凛は勝つためにこのスローは外すだろうな」
高尾は小さく頷く。
次のプレイ、鍵になるのはリバウンドだ。フリースローを敢えて外してくる誠凛がボールを物にできるか、そのプレイを桐皇が阻むか。
観客が固唾を呑んで見守る中、審判により笛が吹かれる。
フリースローを木吉が放つ。弧を描いたボールは目論見通り、リングに当たった。そのリバウンドボールを取ろうと選手たちは一斉に跳んだ。
そのリバウンドボールは、火神がものにする。空中でボールを掌に収めた火神はそのままゴールへと叩き込もうとする。が、それを青峰が拒む。そして、力でねじ伏せ青峰はボールを弾き飛ばした。
フリーになったボールはコートで跳ねる。このボールが桐皇の手に渡った時点で誠凛の負けが濃厚になる。
そんな中、小さくバウンドするボールをある者が拾い上げた。
これをとられれば誠凛の負け。その中で、ボールへ追いついたのは黒子だった。
「ちょっ待てや…
なんでお前がそんなとこにおんねん!黒子!!」
青峰が阻んだことを確認し走り出した今吉は、視界の先にいる黒子の姿を見て、思わず驚きの声を上げた。
火神のシュートは青峰に阻止される。
それを見通していないと、このような行動を取れない。
「火神でなく、青峰を信じたのか?!」
「いえ…少し違います。僕が信じたのは両方です。
でも、最後に決めてくれると信じてるのは1人だけだ!火神君!」
動き出しが早かった黒子がボールに追いつき、イグナイトパスを繰り出した。力いっぱい押し出されたボールは、勢いよくゴールへと弾きだされた。
そのボールに火神と青峰が同時に手を伸ばし跳びあがった。
「いけぇ!!火神!!」
誠凛の皆の思いが籠もった声援を受け火神は、最後の力を振り絞り、ゴールへと手にしたボールを叩き込んだのだった。