WC(誠凛対桐皇)
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第3クォーターが始まり、青峰はギアをさらに上げた。スピードもキレも増した彼を誰も止めることができない状態が続いた。が、その中でただ1人、青峰の動きを止めたのだった。
「青峰君に僕の動きがわかるなら逆も言えるでしょ。過ごした時間は一緒です。つくづくバスケだと気が合いますね...青峰君」
彼を止めたのは、コートに戻ってきた黒子だった。青峰に当たり行った黒子は、衝撃で尻もちをつく。それでも、彼を止めた黒子は口角を上げて、青峰を見上げたのだった。そんな黒子を見て、誠凛は勢いを取り戻していった。
「…誠凛、遂に逆転か」
小さな声で呟かれた高尾の言葉に、美桜はハッと慌てて点数を確認する。49対48…誠凛はいつも間にか逆転していた。
だが押されている状態にも関わらず、桐皇学園は動じる気配がなかった。
「大したもんや。やはり彼がいるとチームの質が全然ちゃうねん。
でも、健気やな。健気すげて...涙出るわ。
ただな、真面目に頑張れば必ず勝てる?とかそんな世の中、甘ったるくできとらんで?」
そう呟いた今吉は悪巧みするような不敵な笑みを零すと、黒子のマークについた。
「流れはうちにやて?随分見くびられたもんやでホンマ...知っとるか?鏡越しにしか見えないもんもあるらしいで?」
意味深なセリフを零した今吉は、黒子の動きを完全に封じた。
「テツヤが止められた?」
「どうなってんだ?」
この状況に高尾と美桜は目を見開いた。黒子だけではない、誠凛の攻撃は桐皇学園により完全に封じ込められてしまっていた。誠凛の攻撃への対策はすでに講じられていたのだ。分析力に特化する桃井によって。
桐皇学園には天賦の才能を持った青峰ともう1つ。
桃井の予測とデータを取り入れたディフェンス力があるのだ。
「どうやって今吉さんは、テッちゃんを止めてるんだ?」
「ミスディレクションを発動させると、味方側も彼を見失ってしまう。そうならないために、必ず連携をする相手とアイコンタクトを取る必要があるの」
どこから突然来るボールをいくら凄腕プレイヤーでも受け取ることはできない。相手を認識できてることでボールの受け渡しができる。
「つまり、アイコンタクトした相手の目線の先にテツヤはいる」
「はぁ?!」
美桜の説明を聞き終えた高尾は素っ頓狂な声を発した。
「今吉さんはテッちゃんを見ずにそっちをみてるってことかよ?
出来るもんなのか、普通?!」
目を丸くし驚く高尾の問いに美桜はゆっくりと首を振る。中学時代から見てきた美桜ですらこんな光景を目の当たりにするのは初めてだ。もともと影が薄い黒子の視線を把握するなんて広い視野がない限り不可能に近い。なのにそれをやってのけてしまう今吉が異例なのだ。
「こっちもそろそろ第2ラウンドといこうか…火神!」
火神のマークに付いていた青峰が口端を釣り上げる。パスを回せない状態である火神は、青峰へと対峙することを選ぶ。だが、一歩踏み出そうとする彼の脳裏には、青峰にボールを取られる残像が過った。
「集中力たりねーぜ」
その一瞬をつき青峰がボールを弾く。そのまま前に駆け出す。止めようと立ち塞がった日向を、青峰は前後の重心移動で抜かす。その一瞬を使い火神は青峰の前に回りこんだ。
「行かせるか!」
飛び上がる火神。だが、青峰は飛んだ体勢のまま体を一回転し、彼をかわすとそのままシュートを決めた。
その1プレイに一同が呆気に取られる中、美桜は嬉しそうに笑みを零す。そんな彼女の様子に、ジッと黙っていた緑間が口を開いた。
「嬉しそうだな…美桜」
「だって…大輝があれを使うの久しぶりに見たんだもん」
嬉しくないわけがない…ずっと憧れてたんだ。哀しげな表情を浮かばせながらも笑顔を浮かべる美桜。
「野生を使ったってことは…それだけ本気で大輝がプレーしてるんだよ」
「たく…喜んでる場合かよ。点差開き始めたぜ」
「それだけではない。黒子のミスディレクションは時間切れなのだよ」
少しずつ点差は開き始めた。それだけでなく黒子のミスディレクションの効果が切れた。いつの間にか、黒子のマークは諏佐に変わっていた。誠凛にとって、黒子は最後の切り札のはず。それが無くなってしまった。もう誠凛に勝ち目はない。それでも、美桜は信じられずにはいられなかった。黒子はここで終わるようなやわな奴でない。きっと何かしらの策があるはずだと。
「恥じることでもないで?むしろほんま大したもんや。1・2年生のチームだけでウインターカップ出場...後一年あったらもっとええ線に行くやろ?また来年チャレンジしいや?」
「そんなに待てません」
今吉の言葉に黒子は即座に否定した。
黒子が思い起こしたのは昨日小耳に挟んだ内容。たまたま控室に入ろうとしたらそこには木吉と日向がいたのだ。その二人の話を偶然にも聞いて知ってしまった。木吉の膝は限界を迎えつつあり、彼とバスケをできるのが今年で最後なのだと。確かに誠凛は3年生がいない。来年も同じメンバーで挑戦することが可能だ。でも...それではダメなのだ。来年のチームには笑顔を絶やさずに皆を支えてくれる彼はいないのだ。誰一人欠けてはいけない。黒子はこのチームメンバーで勝ちたいのだ。
桃井との約束を叶えるために…
美桜と青峰が再び並んで笑いあっている姿を見るために…
そして、青峰の光を取り戻すために…
「また今度じゃダメなんです。次じゃない...今勝つんだ!」
「ほら見てよ...誠凛の人の目は誰一人死んでないよ」
美桜の視界に広がるコートは散らばる誠凛のメンバー誰一人欠けることなく、彼らの瞳は闘争心で溢れていた。
万策が尽きた様に見られる誠凛。だが彼らの目は死んでいなかったのだ。
「切り札のミスディレクションも効果切れや。気合いだけじゃ何も変わらんで?」
「それはちょっと違うな。切れたんじゃない、切らしたんだ!」
伊月が今吉の言葉を訂正する。その瞬間、彼は今吉の視界から消えた。まるでバニシングドライブのように。桐皇が戸惑ってる中、彼はシュートを決めた。その後、他の選手も次々と黒子のバニシングドライブみたいに視界から消えていく。
一体...どんなからくりを
何かしら策があるとは思っていた美桜だったのだが予想外すぎて頭の中は混乱していた。張本人である黒子は物凄く息切れてたことから黒子が何かしらやったことは明らかなのだが…美桜はわからなかった。
「コート上で圧倒的な存在感を放つ火神を利用することで相手の視線を誘導する。それがバニシングドライブの原理だった。」
美桜の隣で緑間が重たい口を開く。
このカラクリに気づいてしまった緑間は神妙な面持ちを浮かべていた。
「ってことは、今はテッちゃん自身が火神の代わりを?」
「テツヤ自身が見えてることで、相手の視線を味方から外して消えた様に見せかけたってことね」
「ただし、その技には恐らくいくつかのリスクがあるのだよ...
一つは、時間。試合終盤しか使えない上に、黒子自身に視線を誘導するのはそう長くは持たないはず。」
「テッちゃん自身で火神4人分の役割を果たそーつうんだからな」
「そしてもう一つ、誠凛は未来を一つ捨てている」
「え?」「どういうこと?」
緑間の口から告げられた言葉に、高尾と美桜は目を丸くする。
答えを聞こうと前のめりになる彼らを一瞥した緑間は、もう1つの重大なリスクを説明するのだった。
「今の黒子はネタばらしをしながら手品をやっているようなものなのだよ。つまり、この試合が終われば桐皇相手にミスディレクションはもう2度と使えない。お互い同じ東京地区。この先も戦うことは何度もあるだろう。だが、火神や他の選手が成長したとしても切り札のない状態で勝てるほど桐皇は甘くない」
「つまり誠凛はこの大博打を仕掛けるためにこの先桐皇に勝つための可能性を捨てたってことか?まじかよ」
未来のことよりも今を優先した。
黒子にとって今…この瞬間の試合に勝ちたいのだ。
それだけではない。
テツヤならできるよ…
信じてるよ…
憂いた表情を帯びる美桜が掛けてくれた言葉が浮かぶ。信じてくれた彼女のためにも勝ちたいのだ。観客席で見ている彼女に、自分が勝つ瞬間を見届けてほしいのだ。
「それでもここで負けるよりマシです。先のことはまたその時考えます」
大きな決断をした黒子は、晴れやかな表情をしていた。