WC(誠凛対桐皇)
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「高尾、神田はどこいった?」
「あれ?さっきまでいたんすけどね」
高校バスケットボール3大大会。そのうち、最大最後のタイトルウインターカップの幕が開けられた。無事に初戦を終えた秀徳高校一行は、重要な1戦を見るために観客席へ向かっていた。だがつい先程まで居たマネージャーの姿がいつの間にか消えていた。
「俺、探してきます」
「あぁ、頼んだ。試合が始まる前には連れて帰ってこいよ」
端から高尾以外に頼む予定がなかった宮地は、直ぐ様行動を移した高尾を見送る。一方、高尾は観客席を一回り見渡すと迷うことなく彼女の下へと歩き出したのだった。
いよいよだ…
1人静かに柵に凭れかかりながら少女は、コートを眺める。コートを見るエメラルドの瞳。だが、実際にその瞳が見ているのは別のもの。無意識のうちに少女は小さく手を握りしめていた。
「なーにしてるの?」
そんな心あらずの少女の顔を覗き込むように青年が現れる。無機質だった瞳はその姿を捉えると、小さく瞬いた。
「あっ、かず」
だがそれは一瞬。再び感情の色を無くした彼女のエメラルドの瞳は再びコートに戻っていた。そんな彼女の隣に静かに高尾は並ぶ。
「たく…急に消えんなよ。探したぜ」
「ごめん…ちょっと1人になりたくて」
申し訳なさそうに美桜は目を伏せる。
次の試合は誠凛と桐皇学園。この試合で彼は思い出してくれるだろうか。もし彼があの頃のように戻れなかったら?
モヤモヤとした不安が胸を締め付けていく。
信じてないわけではない…でも、もしかしたらを考えたら怖いのだ。
「そういえば、よく私の居る場所見つけられたね?」
「舐めんなよ…美桜が何処に居ようとこの目で見つけてやるよ」
高尾は自信満々に自分の目を指さす。そんな高尾を見て美桜は表情を崩す。
「やっと笑ったな…」
その表情に高尾はホッとしたかのように肩を竦めた。高尾のホッとした笑みに美桜は困ったように笑みを浮かべた。
「自分が出るわけではないのにね…緊張してるんだ」
再びコートに美桜は視線を戻す。その横顔を高尾はジッと見つめていた。ずっと幼馴染の彼のことを想い、心を傷めてきた彼女の気持ちを計り知れることなんてできない。それでも少しでも彼女を安心させたい。高尾はそっと彼女の手に自分の手を添えた。
「大丈夫…俺はずっとそばにいるから」
美桜はひとりじゃない…これだけは高尾は伝えたかった。
「ありがとう、和成」
美桜は添えられた手を握り直す。いつも傍にいてくれる、不安になりそうな時さり気ない言葉を掛けてくれる。彼の存在のお陰でちゃんと向き合えることができる、前を向くことができる。
「こんくらいお安い御用さ」
屈託のない笑みを浮かべた高尾は彼女の手を引く。その手に誘われ、美桜はコートに背を向けた。その背後からは、誠凛と桐皇学園の入場のアナウンスが聞こえ、彼らに対する歓声が湧き上がった。
いよいよ始まる...
ドクッと鼓動が高鳴る胸にぎゅっと握りしめた拳を置いた美桜は真っ直ぐ前を向いた。
*****
「序盤なのに凄いプレッシャー…」
「まるで終盤の勝負所みたいな感じだな…」
開始早々先制点を取りたい誠凛に対し、開始早々桐皇学園はマークに徹し、守りを固めてきたのだ。この桐皇学園のプレッシャーを与えるディフェンスに、美桜と高尾を含め観客席にいた人々はゴクリと息を呑んだ。
成績では桐皇のほうがIH準優勝で格上。だが、その桐皇は誠凛相手に生半可な気持ちで挑んでいなかったのだ。
「なめる?えへへ...冗談やろ?そこまで過小評価しとらんで。
むしろこれ以上ないくらい締めてかかっとるで」
すっと目を細めた今吉は、伊月が持っていたボールを弾く。すかさずボールを手にとったのは桜井は流れるようにシュート体勢に。
「させるか!」
日向が追いついて阻止しようと跳び上がる。しかし、彼の手に届くことなくボールは放たれた。そのボールの軌道を目で追っていた美桜の視界に群青の光が横切った。
「アリウープだ!!」
ゴールに飛び込んできた青峰によりボールが叩き込まれた。その1プレイに歓声が湧き起こる。その歓声を浴びた彼は表情を変えることなく持ち場に戻っていく。その後ろ姿を美桜は、無意識に追っていた。
完璧なアリウープ。そんなシュートを決めるのが彼にとっては当たり前。そんな顔をする彼の背中が遠く思えた。
なぁ今の見たか!凄いだろ!
無邪気にはしゃぎ、自慢気に笑う。シュートを決めたら拳を突き上げて喜ぶ彼が無性に恋しくなった。
「いきなり強襲かけて主導権をとるつもりが、残念やったな。すまんのう...先にやってもうた。」
作戦通りと薄気味悪く笑う今吉。
だが、相田にとってはこれは想定内。焦る素振りを見せることなく、彼女は小さく笑みを浮かべた。
「黒子君の編み出した改良型イグナイトパスで強襲2よ!」
伊月から繋がれたボールは黒子へと回される。そのボールに対して、黒子はとある構えをした。その構えはかつて試合の最中、披露されたもの。その見覚えのある体勢に美桜らは目を見張った。
「あれは、イグナイトパス?でも…」
「テッちゃん何やってんだよ!これじゃ簡単に取られちまうだろ」
黒子の目の前にいるのは青峰だ。彼は以前の試合でそのパスをカットした人物。そんな彼相手にパスが通るはずがない。隣にいる高尾も同じことを思い思わず声をあげる。だが、予想はいい意味で裏切られた。
黒子のイグナイトパスはパスカットをしようとする青峰の手を弾き飛ばしたのだ。以前よりもボールの威力とスピードが増していたのだ。
「なんなの...テツヤのあのパスは...スピードがあがってる。それだけじゃなくて大輝の手を弾くほどの貫通力。」
「ありゃあいったい...」
黒子のパスが繋がり、誠凛が点を入れる。
歓声が湧き上がる中、美桜らの脳裏は黒子の先ほどのイグナイトパスで頭がいっぱいだった。
「恐らく秘密はあの螺旋の回転なのだよ」
愕然とする二人に対し、緑間は冷静に黒子の今の技を分析した。
拳銃の玉は螺旋状に回転することで弾道を安定させ貫通力を高めている。同じように黒子も全身のねじりをボールに伝えることで飛躍的に威力を高めたのだ。
「なるほどな…」
コートでには弾き返された手をじっと見つめる青峰が佇んでいた。ゆっくりと視線を上げた青峰は、ニヤリと口角をあげる。
「ちっとは楽しめるようになったじゃねぇか、テツ」
「前と同じと思われていたのなら心外です」
そんなやり取りが繰り広げられる中、1人不敵な笑みを浮かべる人物がいた。