WC(誠凛対桐皇)
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グッと拳を突き上げる火神。そんな火神に誠凛メンバーが勝利の歓喜の声を上げ、駆け寄っていく。その光景を、青峰は呆然とした状態で眺めていた。
「まけ…た?
そうか…負けたのか…俺は」
『青峰くんより凄い人なんてすぐ現れますよ』
久々に味わった敗戦。胸がポッカリと空いたような喪失感に立ち尽くす青峰の脳裏に嘗ての言葉が思い起こされていた。
彼の目の前では勝者の黒子はふらつき倒れそうになる。そんな黒子を火神が手を伸ばし支えた。
「たく…支えられて貰って立ってるのがやっとかよ。
これじゃ、どっちが勝ったかわからないじゃねーか…」
『…バスケは個人技じゃないんだよ。
大輝が上手くてもチームプレイをしないのならいつか負けるよ』
青峰は小さく息を吐き出した。
嘗て幼馴染が吐き捨てたセリフが痛いほど胸に突き刺さった。当時は彼女がそのような言葉を残したのかわからなかった。
「けど…それで良かったのかもしんねーな。
結局…敗因はその差だったってこと…だからな」
でも負けた今ならわかる。
個人プレイを徹底した自分はチームプレイを最後まで貫いた彼らに負けたのだから。
「なにもう全部終わったような顔してんだよ?」
俯く青峰の姿に火神は眉をひそめた。
「まだ始まったばっかだろうが?
またやろうぜ…受けてやるからよ」
「…ぬかせ、ばぁーか」
その一声に顔を上げた青峰は、火神の挑発的なセリフに表情を崩した。その様子をジッと見守っていた黒子は彼に向けて拳を突き出した。
「1ついいですか?あの時の拳をまだあわせてません」
「はぁ!?いいじゃねーか」
「嫌です。だいたいシカトされた側の身にもなってください」
「わかったよ…ただし、これっきりだ。次は勝つからな」
この手に関しては決して折れることがない黒子の拳に、大きく息を吐き出した青峰が渋々と拳を出した。
黒子と青峰がコート上で拳を突き合わす。
その光景は、美桜がずっと待ち焦がれていたものだった。
観客席で美桜は、静かに泣いていた。それでも、声をだすもんかと唇を噛みしめ必死に堪えていた。だが、黒子と青峰の光景に彼女の涙腺はついに崩壊してしまった。嗚咽を漏らし、俯き涙を流す美桜。事情を知らない大坪達は突然泣き出した美桜をギョッと驚いた表情で見ていた。隣にいた高尾はしょうがないな…と彼女の背中をさすり、緑間は腕を組んだままだが優しい瞳で彼女を見ていた。
やっと落ち着いた所で高尾が前を見据えたまま口を開いた。
「美桜...行ってこいよ」
ぐすんと鼻を啜りつつ美桜は意味がわからないと高尾の顔を見上げる。見なくてもわかる...今はきっと戸惑っている表情をしてるに違いない。高尾はこれからやろうとする事に自嘲する。
「行きたいだろ...青峰のとこ。行ってこいよ」
その言葉に美桜は固まってしまった。
彼は今どんな思いでその言葉を掛けてくれたのだろうか?
高尾の顔を覗き込みたいが、彼はずっと前を向いたまま。彼女の方を振り向くことがなかった。
「ほら、早く」
「うん…ありがと」
涙を拭い美桜は立ち上がる。
高尾の言葉に背を押してもらった美桜は、青峰の元へと駆け出した。
「いいのか?高尾」
一部始終を静かに見守っていた緑間が口を開く。
相棒からの問いに高尾は困ったように肩を竦めた。
「良いんだよ。こうでもしないと行かねぇーだろ?」
ホントは行かせたくない。でも、美桜がずっと待ち望んでいたものだ。そこに第3者である高尾の存在はいらない。今日だけ目を逸らそう。
心晴れやかになった姿の美桜が早く帰ってくればいいのにと願わずにはいられなかった。
「さぁ行こうぜ…真ちゃん」
「そうだな…」
重たい腰を上げ、席を立つ。
いつも以上に物静かな彼の背を追っていた緑間は、息を吐きながらその背に言葉を掛けた。そして、後を追うように席を立つのだった。
*****
なぁ美桜、なんでだろうな?
頑張ったら頑張った分だけバスケがつまんなくなってるんだよ
俺の欲しいものはもう手に入らないのかもな
うっせーよ。試合にはちゃんと出るからいいだろ?
もう来んなよ
俺に勝てるのは俺だけだ
じゃあな...久しぶりに美桜とできて楽しかったぜ
彼の才能が徐々に開花し始めた時
自分の力を目の当たりにし、戦う気力を失う者しかいないことに気づき、1人の道を歩み始めてしまった彼に突き放された時
久々に会った彼と1on1した時
彼に言われた言葉、彼の表情が脳裏に次々と蘇る。
あの時、私は逃げてしまった。彼の手を再び握ろうとすることなく。
「大輝...大輝...」
もう道は間違えない。
今度こそ、ちゃんと向き合う。今ここで彼の手を握らないと、また彼を1人にさせてしまう。そのように美桜は思っていた。
美桜は懸命に青峰の姿を探した。が、一向に見当たらない。いつもはすぐに見つかるだけあって、どんどん美桜の気持ちは焦っていく。そんな中、とある思い出がフラッシュバックした。
「なぁ美桜...空って広大だよな」
「…?」
満天の星空を見上げて青峰はふと呟く。
その独り言のようなセリフに、美桜は目を見開いて固まってしまう。その反応に青峰は眉を顰めた。
「…なんだよ」
「い…いや、大輝の口からそのような言葉が出るとは思わなくて」
「俺が感傷に浸っちゃ悪いのかよ」
「そんなこと言ってないよ。ただ珍しいなぁーって」
苦笑いする美桜の頭を、不服そうに青峰は軽く小突くと、再び空を見上げた。
「なんだかな...空見てると自分の悩ん出ることなんてどんだけちっぽけなんだと思っちまうんだ」
いつになく真剣な面持ちの青峰を美桜は不思議そうに見上げる。すると、空から視線を逸らした青峰が美桜の方を振り向く。
「だから美桜も悩んだときは空を見上げろよ」
表情を崩すと青峰は満面の笑顔を浮かべる。そんな彼につられ、美桜は笑みを溢し小さく頷いたのだった。
外だ!
美桜は今の直感を頼りに会場の外に続く道を走った。
一方、青峰は会場の外で寝っ転がり空を見ていた。青峰の頭の中でグルグルと回るのは黒子が最後に言ったセリフだった。
「ちゃんと美桜さんに会うんですよ」
ね、なんで練習こないの?
...ッ大輝!!
...今の大輝とはやりたくない
いやいや散々突き放して泣かしたのにどの面下げて彼女に会えばいいのだと青峰は頭を抱えていた。そんな中、青峰を呼ぶ声が聞こえた。気づかないふりをした。彼女の隣に並ぶ資格はもうないと青峰は思ったのだ。だが、そんな彼の思いを他所に美桜は青峰を見つけ、駆け寄ると寝転がる彼の横にしゃがむのだった。
「もう、こんなとこで何してるの?」
「空……見てたんだよ」
覗き込む彼女のエメラルドグリーンの瞳を直視できず青峰は顔を逸らす。そして、再び空を見上げた。
すっかり日は落ち、昇ってきた月が優しい光で闇夜を照らす。
まるで俺らの関係みたいだな…
青峰は自嘲気味に笑みを溢す。道を間違えてしまった自分に、彼女は何度も手を伸ばそうとしてくれた。そして、今もこうして会いに来てくれた。
素直に謝れない自分の性分をこれほど後悔したことはない。
その光に手を伸ばすだけでいい。なのに、中々動くことができなかった。
「…そっか」
美桜の口から出たのはホッとしたような安堵したようなもの。空を見上げる姿はあの頃と変わらない。そのことが美桜は嬉しかったのだ。
「あ…あれ…っ?」
緊張していた糸が解けたかのように美桜の瞳からは、ポタポタと涙が零れ落ちる。
涙を流している
そのことに気づいた美桜は慌てて涙を拭おうとする。が、大きな手がそれを阻止するように彼女の腕を掴んだ。そのまま、彼女を自分の腕の中に閉じ込めたのだった。
涙を流す彼女の姿に、ちっぽけなプライドはすぐに吹き飛んだ。
衝動的に青峰は身体を起こすと、美桜を抱き寄せていた。
突然のことに付いていけず固まる美桜。だが、徐々にこの状況に頭が追い付いてくると、彼の胸板に身を預ける。懐かしい匂い・温もりに包まれている。
その事実に気づくと、美桜は嗚咽を漏らしだした。そんな彼女をあやす様に青峰は彼女の頭を優しい手つきで撫でた。
「…わりぃ、美桜。
...散々おめえを傷つけちまった。突き飛ばしちまった。」
「…うん。ほんとひどいよね」
「おいこら!こっちは真面目に話してんだぞ」
「…ごめんごめん」
美桜の返答に青峰は小さく小突く。昔のようなやり取りに、思わず美桜は懐かしいそうに笑みを溢す。つられて青峰は笑みを溢しそうになるが、グッと堪えた。
まだ自分はちゃんと謝っていない
青峰は覚悟を決めると、彼女を身体から離し、肩に両手を置いた。表情を引き締める青峰に、美桜は背筋を伸ばした。
「俺は、取り返しのないことをした。
謝っても謝り切れないくらいに…酷いことをしちまった…
ホントに…ゴメン」
彼女からバスケを奪ってしまった…
彼女を1人にしてしまった…
「でも…俺はまた美桜の隣にいたい。美桜とバスケがしたい。
突き放しといて、また一緒にって虫がいいこと言ってるよな。
…そんなの俺が一番分かっている。
それでも許してくれるか?」
「…当たり前じゃん。おかえり...大輝」
俯いてしまった青峰の背中に美桜は手を回した。そんな美桜の顔はもう涙濡れていて顔はぐしゃぐしゃ、目は真っ赤に腫れていた。それでも美桜はうゎんうゎんと泣き続けた。そんな彼女の背に青峰はそっと手を回す。
ありがとな…美桜
黙ったまま青峰は、彼女を抱きしめた。もう絶対に離さないと力を込めて。
「…青峰君!」
「よぉ、さつき」
「えっ…美桜?!」
「……ッ、さつきー」
「ちょっと…私もッ…混ぜなさいよぉー」
その後、青峰を探しに来た桃井はこの光景を見て二人に飛び込んだのは言うまでもない。