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「真太郎」
「…どうした?」
通常の部活は終わり、居残り練が始まろうとしていたのだがなぜだが周囲に緊張感が漂っていた。それを作り出したのは他でもない美桜だ。いつもは黙々と練習する緑間を放置して他の人達と1on1をしている美桜。だが今日はすぐさま緑間の元に向かったのだ。
「ボール持ってない状態でシュートしてみて...」
「ん?」
彼女の突然の要求に、思わず緑間は眉を顰めた。
一体彼女は何をさせたいのだろうか?
疑問を抱きつつも、緑間は彼女に従うことにした。彼女がこんなときに無意味なことをさせないことを緑間はわかっていたからだ。彼女に言われた通り、ボールを持っていない状態でシュートの体勢を取り始める。
ゆっくりと膝を曲げ体を沈めさせ...
「かず!真太郎にパス!」
「へぇっ?」
じっと見ていた美桜はタイミングを見計らったかのように声を上げる。急に名を呼ばれた高尾は素っ頓狂な声を上げた。たまらず練習の手を止めた高尾は、ボールを抱え、彼女に視線を向けた。
「なんつった?!」
「真太郎にパスしてって言った!」
「はぁ?あそこに?
美桜、一体何をしようと…」
「いいからやってみてよ!
早くしないと真太郎のエアボールが放り出されちゃう」
己の耳を疑い聞き返した高尾に、美桜は先程より大きな声で返した。
聞き間違えではなかった
聞こえた声は先程と同じもの。ますます意味がわからないと高尾は表情を曇らせる。そんな混乱する高尾に美桜は催促するように声を再び上げた。その彼女が指差す先にいるのは今にもシュートを放ちそうな体勢になろうとする緑間の姿だった。
「よくわかんねぇーけど、とりあえず投げればいいの?」
「そう!」
訝しげに眉を顰めた高尾だったが、美桜の気迫に押されボールを渋々と構える。
宙にいる真ちゃんにパスするなんて無理じゃねぇ?
脳裏の片隅でそう思いながらも、彼女の期待に答えようと全神経を集中させる。頭の中でボールの軌道を思い浮かべた高尾は、ボールを握りしめた。
「行くぜ!真ちゃん!」
宙にいる緑間に向けて高尾の手からボールが勢いよく放たれた。そのボールは直線的に飛んでいき緑間の手に吸い込まれた。斜め横下から唐突に現れたボールに戸惑いながらも緑間はシュートを放つ。そのボールは緑間が着地したと同時にネットを揺らした。
「えっ…」
「なんだ…今のは…」
この光景に呆気に取られ、見守っていた大坪達も含め言葉を失う。今起きた出来事をそう簡単に呑み込めなかったのだ。
このシュートをした緑間。そしてパスをした高尾の頭も盛大に混乱していた。ひとまず状況を整理しようと頭をフル回転させる。
ただ一人だけ、この状況を生み出そうと指示的なものを出していた美桜だけはニンマリと笑みを浮かべていた。
高尾の手から放たれたボールは一直線に飛んでいき、宙にいる緑間の手へ。そのままボールは緑間の手によりゴールに入れられた。パスでもしてるのかと思わせるほどの素早いテンポで緑間に渡った瞬間に放たれるシュート。今目の前で美桜が思い描いていた通りのシュートが緑間と高尾により再現されたのだ。
「どう?これなら誰にも真太郎のシュートは止められない」
未だに呆然とゴールを見つめる緑間に美桜は拾ったボールを抱えて、駆け寄った。
「あぁ...確かにそうだな」
「ねぇ…真太郎にとって秀徳の人達は信頼できるに値する?」
この連携プレーを思いついたのはだいぶ前。最大の得点源である緑間のシュートを活かすためにどうすればいいか...と考えた結果閃いたのだが、これを実行できるのかは悩みどころだった。だが、時間が経つにつれて秀徳のチームに馴染み始め先日は勝利のために自らパスを出した。着実に彼の中で心境が変化していているのを実感した美桜は今の彼なら出来ると判断したのだ。本来確実に入るシュートしか打たない緑間が、このシュートをやるためには信頼関係が不可欠だと美桜は思っていたのだ。
暫く二人の視線が絡み合う。いつも以上に真剣な眼差しをする美桜。漂う雰囲気を感じ取り、周りで行方を見守る人達はゴクリと唾を飲む。じっと美桜の目を射抜くように見ていた緑間だったが、眼鏡を押し上げると目を細め口に弧を描いた。
「何、当たり前の事を言っているのだよ。バカめ。そんなのとっくにしているのだよ。」
最近そういう顔を見るのが増えたなと思いつつ、美桜は野暮な質問だったねと頬を緩めるのだった。
「やるぞ高尾...人事をつくすのだよ」
道を示してくれた彼女のためにも、そして彼奴に勝つためにもこの技を完成させてやる。ただならぬ決意を決め、緑間は踵を返し元いた場所に戻る。
一方でこの二人が醸し出す雰囲気に圧倒されていた高尾は、緑間に呼ばれハッとする。この技は確かに信頼関係が不可欠だ。だが、それ以上にどんな体勢でもそこに打ち出すための精密なパスが要求される。
ヤベ...俺、かなり結構重要なポジじゃん...
のしかかる重圧に思わず震える手を高尾はギュと握りしめる。その手にそっと少し彼より小さな白い手が添えられた。
「大丈夫...きっとできるよ。かずの事...信じてるから」
顔を上げた高尾の目に映ったのは微笑する美桜だった。視線を絡ませ合う二人。ただ先程の緑間の場合とは違い、二人だけの親密な空気が辺りを包む。ただ目の前の彼女に対しうんと頷くと高尾は目線を彼女から外しそっと置かれてた手を解く。そのまま美桜の事は見ずに緑間の元へ駆け出した。
「よっしゃ!唸るようなパス出してやるからな!」
「期待してるのだよ」
「おっ!真ちゃんのデレ頂き!」
「う...うるさいのだよ!」
なんだかんだでギャアギャアと騒ぎつつ練習を再開する高尾と緑間。
「俺達も負けちゃられないな。神田、今日も相手頼むぜ」
ガシッと宮地は美桜の肩を掴む。1年生コンビにばかり負担はかけられない。自分達だって数段レベルアップしなければ。そんな宮地の強い眼差しを捉え、はい!と美桜は笑いかけるのだった。