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くそっ!どうすれば止められるんだ?
火神の額にヒヤリと汗が流れ落ちる。
黒子のお願いにより始まっだ火神と美桜の1on1。最初は両者一歩も譲らない展開だったが、徐々に尻上がりに美桜がペースを上げていく。必死に美桜の素早い動きに対応しようと目線を動かす火神だが、捉えられずシュートを決められていく。
「大我!目で追おうとしないで。もっと神経を集中させて...」
私を視界に捉えたいのならね...
意味深なセリフを彼に向けて言った彼女の眼光は更に鋭くなる。
彼女の言葉を聞き、火神は焦っていた気持ちを落ち着かせていく。熱くなりすぎた頭を冷やすと、彼女に言われた言葉を反芻する。
目に頼らずに神経を集中させる....
火神はゆっくりと息を吐きだし吸っていく。すると、鋭く研ぎ澄まされていく感覚を覚えた。
もっと...もっとだ!
その感覚をさらに研ぎ澄まそうと、火神は集中力を更に高めていく。
もう何本目かわからない美桜の攻撃。身軽に重心を移動させ、ボールを容易く操り、火神の横を抜こうとする。それを見ていた火神はハッとする。
なんでだろう...なんとなく美桜が動く方向がわかった気がする
ストンと落ちてきた本能に従い火神は動く。その瞬間、美桜の動きがはじめて止まった。なぜなら、彼女が抜こうとした道筋にはいつの間にか火神が立っていたからだ。火神の素早い反応に意表をつかれる美桜。だが、すぐさま表情を戻す。
「いい調子だよ。でも気を緩めるのは早いんじゃない?」
はじめて彼女の動きを止めることができたことに火神の集中力が途切れる。その一瞬の火神の気の緩みを感じ取った美桜は、そこを突き火神を抜いた。そしてがら空きのゴールの前へと走り込んだ。だが、このままスクリーンアップをしようとする彼女の目の前に大きな影が突如現れる。
「まだだぁー」
驚異の跳躍力を見せ、火神は彼女の持つボールを弾き飛ばした。弾き飛ばされたボールがコート上に落ちる。1プレイを終え、コートに着地した両者は、対峙したまま息を整える。
2人の攻防を外で見ていた黒子と高尾は緊迫感から開放されたかのように大きく息を吐きだした。それほどまでに一瞬も気が抜けない攻防が行われていたのだ。
「どう?今の感覚は?」
「はじめての感覚で何つったら良いかわかんねぇ...」
美桜から感想を求められた火神は、この感覚に驚きを隠せなかった。今まで目で追えず、彼女を止めることができなかったのに、今回はシュートを決められずに済んだ。研ぎ澄ませた五感に戸惑いはあったが、何故か心地は良かった。
「本来、先天的に人が持っているん感覚。
まぁ徐々に退化してしまうんだけど...
やっぱり大我にもその感覚はまだ残ってたみたいだね。」
人はそれを野生って呼んでるんだよ。
青峰のバスケと似たような近しきものを持つ火神ならばと美桜は荒療治に出た。もし火神の中にその感覚が残っていれば、その片鱗が出てくるはず。予想通り、火神はその片鱗を見せてくれた。
「野生って言うのか…この感覚は」
「そう。
そして、大輝もそれを持っている。と言っても、今それを使っていなそうだけど…」
ってことはまだアイツは本気を見せてねぇってことかよ…
彼女の口から出た衝撃の事実に火神は悔しげに顔を歪ませる。対して、美桜自身は物悲しげに目を伏せていた。
彼女がどんな気持ちでこの一言を発したのか火神にはわからない。だが、これには触れてはならないのだと本能で察した火神は喉から今にも出そうな言葉を飲み込んだ。
「まぁ、大輝に勝つには少なくともそれを身につける事が必要かな」
「そうか…」
汗ばんだ掌をギュと握る火神。その瞳にはメラメラと闘志が宿っていた。それを微笑ましげに見ていた美桜だったが、自分の心の奥底で渦めく感覚に気づく。
この感覚はあの時の...
どうやら自分の予想以上に今の攻防戦を楽しんでいたらしい。フツフツと込み上げてくる感覚を身に感じ、思わず美桜は好戦的な笑みを浮かべる。
「大我、せっかくだからもう一つ見せてあげるよ」
美桜の言葉に火神は顔を上げる。さっきと雰囲気がまるで違う彼女の様子に違和感を覚えた。
確かにプレッシャーを感じるが、それ以上にとてつもないオーラを感じる。一体なんだ?と火神は身構える。が瞬間、火神の横を橙色の閃光が凄まじい勢いで駆け抜けた。気づけば火神の目の前から美桜の姿が消えていた。あっ!と気づいた瞬間、ゴールネットを揺らす音が鳴る。落ちたボールを拾い、振り返った彼女の瞳からは橙色の光の筋が出ていた。
なんだよそれ...おもしれー!
強者を前に火神は怖気付くことはない。むしろこの状況を楽しみ自身を進化させていく。そんな火神は高鳴る鼓動を感じつつ駆け出した。
2ラウンド目を開始する美桜と火神。一方的に火神はやられているがそれでも楽しそうな表情をしていた。その表情を見て、美桜の顔にも笑みが溢れた。
「高尾君は、美桜さんのゾーンを見たことあるんですか?」
未だにこの状況を呑み込めない黒子は動揺したまま隣にいる高尾に声をかける。
「ん?あー...まぁな。
一回だけ見たことあるぜ」
夏休みの最中に一回だけ、気持ちが高ぶったのかゾーンに入った美桜。それを見たときは流石に高尾は驚いた。きっと今の黒子みたいな表情をしていたに違いない。普段以上に美桜には圧倒的な力の差を見せつけられた。ここまで歯が立たないのは正直悔しかった。でも、その感情は一瞬で消え去る。悔しいという感情以上の出来事を目の当たりにしたからだ。こんなに印象的な出来事を高尾は忘れられるはずがない。目を閉じればすぐに思い浮かべられるあの時の姿を。
「かず!こっちこっち!」
と楽しげに駆け回る美桜を必死に高尾は汗だくになりながら追いかけていた。無邪気に笑いながらもコートをあっちこっち風のように駆け抜ける美桜は夕日に照らされキラキラと輝いていた。高尾は思わずそれを見て立ち止まるのだった。
ゆっくりと高尾が目を開けるとあの時と変わらず少女みたいにボールを操る美桜がいた。楽しそうな美桜を見て高尾はスッと目を細めるのだった。