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「美桜、帰ろうぜ」
部活の練習を終え、着替えを済ませた高尾は大きく伸びをすると美桜に一声かける。だが一足先に帰り支度を済ませていた彼女は珍しく振り向かなかった。不思議に思いながら高尾は彼女の下へと近づく。すると、誰かと電話しているのか携帯を耳に当てていた。
一体誰と電話しているのだろう?
小さく首を傾げた高尾は通話が終わるのをジッと待つことにした。
『美桜さん、突然の電話すみません』
『大丈夫だよ』
練習を終え携帯画面を開いた美桜。すると1件電話があったことを知らせる通知が入っていた。
こんな時間に誰だろう?
メールではなくわざわざ電話してきたということはもしかしたら急を要する用事なのかもしれない。美桜は慌てて折り返しの電話をしていた。
『それでこんな時間にどうしたの?テツヤ』
『実は、お願いしたいことがありまして…』
その通話の相手は黒子だった。早速本題を切り出した美桜に対して、黒子はいつも以上に歯切れ悪かった。
『お願いしたいことって?』
『火神くんに足りないものを教えてほしいんです』
黒子からのお願いに、美桜はすぐにいいよと返事をすることができなかった。この時期に敵チームにアドバイスを送ることに躊躇してしまったのだ。
あっ…そういえば
思い出したように美桜は一枚の紙を取り出した。
美桜には特別に上げる!
私が入手したウインターカップのトーナメント表
それは桃井が今朝、美桜宛に送信してきた組合せ表だった。バタバタしててまだ目を通していなかった美桜は慌てて、その紙に目を通していく。
そういうことね…
『いいよ…』
『ほんとですか?』
『うん…』
『じゃあ今からここに来てもらえませんか?』
『えっ…誠凛の体育館じゃないの?』
『すみません…今違うところにいて』
てっきり誠凛高校に行けばいいと思っていた美桜は、聞き間違えではないかと耳を疑ってしまった。だが、黒子たちは相田の計らいによりリフレッシュ目的で温泉地にいたのだ。
『…わかった、今から行くね』
正直いうと練習終わりで身体はヘトヘトだ。でも、黒子からのお願いを齟齬にはできなかった。
通話を終えた美桜は小さく息を吐きだす。そんな彼女の顔を覗き込むように、タイミングを図っていた高尾が現れる。
「誰から?」
「わぁっ!」
全く想定していなかった高尾の登場にビクッと美桜は身体を強張らせた。驚く彼女が珍しく思え、高尾はキョトンと目を瞬かせた。
「珍しいな、美桜が驚くなんて」
「かずが急に現れるからだよ!
いつからいたの?」
「さぁ?いつからだろ?
でも会話の内容は聞こえてないぜ」
ニコッと笑みを浮かべる高尾が胡散臭く思え、美桜は顔を引きつらせる。そんな彼女にお構いなく高尾は再び問いかけた。
「で?誰と電話してたの?」
「…もしかして嫉妬してる?」
「しっ…してねーし!」
何故かあまり余裕がないようにみえる。もしかしてと、美桜は試しに鎌をかけてみる。すると図星だったのか、高尾は口を尖らして言い返した。あまり自分の前では出してくれないその反応に、じんわりと胸が温かくなった。突っかかる高尾に反して、美桜は涙目になりながら笑い声を上げた。
「嫉妬してくれたんだぁー」
「いやだからしてないって!」
「テツヤだよ」
「へ…?」
「電話相手。テツヤだよ。
ちょっとお願いごとをされて」
美桜の口から出た名前に、高尾は目を点にし固まってしまう。そんな彼に念押しするようにもう一度美桜は、彼が欲しがっていた答えを言い直した。
「……テッちゃん?」
「そう」
「通話の相手が?」
「そうだよ」
何度も確認するように聞き直すことでようやく高尾は事情を呑み込んだ。
「なんだぁ…テッちゃんかよ」
ホッと一安心した高尾は、身体を脱力させた。へなっと座り込んでしまった高尾に合わせるように美桜は腰を下ろす。
「安心した?」
「あぁ…」
小さく頷いた高尾は、クシャッと髪を掴んだ。
「…俺、かっこわりぃな」
「嬉しかったよ、私は。
かずのそういう反応見れて」
俯く高尾に、美桜は柔らかく微笑むとゆっくりと立ち上がる。
「ってことで、テツヤのとこに行ってくるね」
「はぁ?今から?」
「うん」
「…俺も行く」
「えっ…いいよ。
かずは家帰って休んで」
鞄を肩に掛け、立ち上がった美桜の口から出た言葉に高尾は目を白黒させた。夜道1人は危ないからせめて一緒に行くと申し出る高尾。だが、彼の体調を心配する美桜はキョトンとした表情で、彼の申し出を断った。そんな彼女の呆気からんとした姿に高尾は大きく肩を落とす。
「こんな遅い時間に、彼女を1人行かせる彼氏なんていねぇーから」
「...でも申し訳ないよ」
「そんなことねぇーって!
逆に1人で行かせるほうが心配で休めねーよ」
「うっ...」
「なぁ?だから俺も一緒に行っていい?」
たじろぐ美桜の様子に高尾はもう一押しする。そのお願いされる一押しに弱い美桜は、葛藤しながらも結局は首を縦に振るのだった。