黒子の特訓
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ガゴン...
響くのはリングをくぐる音ではなく弾かれる音。リングに当たったボールは地面に落ちて転がっていく。
「どうですか?」
そのボールを拾ったのはシュートを今放った本人。ボールを抱え、振り返った彼はアドバイスを求める。
次の試合に向け、縋る思いで頼ったのは彼が知る中ではシュートが飛び抜けて上手い2人だった。
「知らねぇーよ!」
うち1人は苛立ちを滲ませながら声を荒げた。
「無理やり連れてきてヘボシュート見せてどうもこうもあるか!
教えるなんて一言も言ってねぇーだろうが!」
額に青筋を浮かべ怒鳴り散らす。そんな彼の隣で静観していたもう1人が苦笑いを浮かべながら、彼を宥めようとする。
「まぁまぁ、別に教えるくらい...」
「美桜はテツに甘すぎるんだよ」
「そんなことないよ?」
仲裁しようと入ってきた幼馴染に睨みを利かす彼に対し、思い当たることがない彼女は首をひねる。
「はぁ…」
相変わらずな幼馴染を見て、先程の苛立ちはすっかり引いてしまう。逆に無自覚な彼女に呆れ果て、頭を抱えた。
「なによ?言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「別になにもねぇーよ」
「嘘だ、顔に書いてある」
「…めんどくせーな」
言い争いに発展する二人のやり取りを黒子は微笑ましげに眺めていた。いつも二人は他愛のないことで口論を繰り広げていた。ある日を境にその光景は見れなくなってしまった。でも、やっとお互いに向き直って仲直りをしてくれた二人が今ここにいる。
「...ホントに良かった」
黒子は嬉しそうにひとりでに小さく呟いた。その空色の瞳に映るのは、青峰と美桜の姿だった。
「僕にシュートを教えてください」
美桜がこの場所に来たのは、黒子から貰った連絡だった。
「よぉー美桜」
そしていざ黒子に指定された場所に着いた美桜を出迎えたのは幼馴染の青峰だった。気だるそうに手を上げ挨拶する青峰に応えるように美桜は小さく手を上げると彼のもとへ小走りした。
「大輝も呼ばれたんだ」
「そうだよ…たく…」
後頭部をガシガシと掻きながら、青峰は隣にいる黒子をジト目で見下ろした。
「ちょっとは俺の気持ちも考えろよ…
試合で負かされたばかりなんだぞ、コッチは」
「すみません…
でも、他に思いつかなかったんです」
突然呼び出した張本人は申し訳無さそうに表情を曇らせる。
「でも急にどうしたの?シュートを教えてほしいだなんて」
「…今のままでは勝てないって思ったんです」
黒子自身、シュート練習をついさっき思い立ったわけではない。予選が終わった後、コーチについていた景虎に指摘されずっと練習してきていたのだ。
「…確かにシュート力ねぇーと、あのドライブ使えねぇーな」
「なんで?」
「考えてみろ。
テツがドライブするときに敵がヘルプに来なかったら、自分で打つしかなくなるだろ?」
「あっ…」
ため息交じりに青峰が黒子のバニシングドライブの弱点を説明する。ドライブで切り込みということは、必然的にシュート力も必要になってくるのだ。
「なので、教えてほしいんです」
黒子にそう言われた2人は、なんだかんだと言い合いながらも彼の練習に付き合うことになった。
黒子がシュートを打つ光景を暫く、ジッと見守っていた青峰と美桜。そんな時、ふと青峰が口を開く。
「…あー、無性にバスケしたくなってきた...
やろうぜ美桜」
「…えっ?」
ボソッと青峰が吐いたセリフに美桜はエメラルドグリーンの瞳を瞬かせる。彼の口から、バスケをやりたいってセリフが出てくるのを想定出来なかったのだ。彼女の口から出たのは、驚きの声だけ。そんな彼女を青峰は一瞥すると、傍らに抱えていたボールを放り投げる。必然的に美桜はそのボールに手を伸ばす。
「ほら、やろうぜ」
これは夢ではないだろうか?夢見心地な美桜に、再び青峰は声を掛ける。その傍らでは無我夢中でシュートをしていた黒子が手を止める。
「…ちょっと二人共見てくれないんですか」
二人のやり取りが聞こえていた黒子は、不機嫌そうに口を尖らせる。青峰は、そんな不満げな黒子の頭に手を置いた。
「…いいだろ?テツのは、後で見てやっから」
今、美桜の目に映るのは中学時代にいつも見ていた光景だった。
三人で練習をしてる時、少し時間が経つと青峰と美桜は二人きりの世界に入っていた。それは青峰が誘うこともあり、美桜が誘うこともあった。
気付いたら2人で1on1を始めている二人に黒子は小言を溢す。そんな黒子をそっちのけで2人はバスケに夢中になっていた。
昔に戻った心地に陥り、感傷に浸っていたら自然と美桜の瞳からは涙が零れ落ちていた。
「美桜さん?」
「おい、美桜?」
突然涙を流し始める美桜に、2人揃って心配そうな顔を浮かべた。慌てて二人は美桜の顔を覗き込む。涙で霞む視界に映る二人の顔に気づいた美桜は、慌てて顔を上げた。
「あはは!なんか涙出てきちゃったよ!嬉しすぎて」
美桜は腕で涙を拭うと、地面に落ちていたボールを拾った。
「テツヤはちょっと待ってて!やろう、大輝!いっくよー!!」
「…っおい!!いきなり飛び出すな!」
青峰の慌てる声が聞こえたがそんなの無視で美桜は動き始める。
「コラ待て!」
「ほらほら!こっちだよ!」
飛び出した美桜を慌てて青峰は追いかける。そんな彼に楽しそうに笑みを浮かべながら、美桜はドリブルを始める。
シュートを見て欲しかった黒子は、困ったように肩を竦めた。1人シュート練習に戻ろうかと思う黒子だったが、その手を止め二人のバスケする光景に目を移す。
楽しそうにコートを駆け回る美桜と青峰。それは、黒子がずっと待ち望んでいた光景だった。思わず、黒子は嬉しそうに頬を緩ませていた。