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「やっぱり始まっちゃってる。
もう、青峰君のバカ…結局来てくれないし…」
桃色の髪を揺らし急いで駆け付けた桃井は、コートを覗き見て小さくため息を吐き出した。青峰に対する不満を漏らしながら桃井は、切らした呼吸を整える。そんな彼女の存在に、たまたま近くで見ていた青年が気づく。
「あれ?桃っちじゃん。
黒子っちと緑間っちの試合観に来たんすか?」
「きーちゃん!」
「その呼び方やめてくんないすかね?」
「だって…きーちゃんはきーちゃんでしょ?1人?」
久々の呼ばれ方に、彼女に声を掛けた黄瀬は苦笑いを浮かべた。そんな黄瀬をよそに、桃井はキョロキョロと辺りを見渡す。が、その周辺には海常の人達の姿がなかった。一周回って自分に戻ってきた視線に、黄瀬はガクッと肩を竦ませながら嘆いた。
「そうっす…。
先輩たち誘っても皆断られて…一人で心細いったらないっす」
それはこっちのセリフだ
口を尖らす黄瀬の言葉に、桃井は思わず眉を顰める。そんな彼女に、いいことを思いついたと黄瀬はとある提案を持ち掛けた。
「そうだ、一緒にどうすか?
まぁホントならうちらを負かせたチームの人と並んで観るのも変なはなしっすけど。お互いもうWC出場は決まってるしね。一時休戦ってことで」
「そうだね...」
1人で見るよりはいいか、と黄瀬の提案に乗った桃井は彼の隣に並ぶように立った。
「それより試合はっ?」
「なかなか面白いことになってるっすよ」
慌てて桃井は、身体を前のめりにさせコートを見渡す。そんな桃井に冒頭から試合を観ていた黄瀬は面白そうに口角を上げた。
二人が並んで試合の行方を見守る中、誠凛は新たな策を繰り出していた。黒子を一度ベンチに下げ、緑間に対して木吉と火神を付けるダブルチーム。誠凛側の意図が容易く読み取れてしまう。
あくまでも真太郎に打たせない作戦ね...
でも、木吉さんがいないインサイドががら空きだよ
美桜が見えた空間から、宮地がきっちりとシュートを決める。だが誠凛側もそのことは承知の上。
「止められないなら、それより取るしかないだろ!走るぞ!」
日向の掛け声で一斉に誠凛勢は走り始める。伊月→日向→木吉と間髪入れることなくボールが足早に回る。
「させるか!殺すぞ!」
ゴール前で宮地が飛び上がるが、木吉は持ち前の大きい手を駆使してボールを離すタイミングを遅らせ、背後にいる伊月へボールを回す。すかさず点が入れられた。その後も秀徳が点入れる度に誠凛が点を取り返す。
「この攻撃力…これが新しくなった誠凛かよ」
「いや少し違うな…正確に言えば戻っただ」
目まぐるしい速さで繰り広げられる攻防に、高尾は驚きの声を上げる。だが、去年の誠凛を知っている大坪は静かな声でそれを訂正した。
中と外の2枚看板の木吉と日向を中心に、5人の総力とパスワークで点を取り合う…ラン&ガンのスピードバスケット
それが誠凛の元々のスタイルだと、大坪は付け加えた。
昨年のビデオを見ていてこのスタイルも把握していたが、予想以上の展開の速さに、ベンチにいる美桜は驚いていた。だが、美桜の視界の先にはフリーになっている緑間の姿があった。一番フリーにしてはいけないが野放しになっていた。それを秀徳側が見逃すはずがない。
「なにをボーとしているのだよ。
一瞬たりとも気を抜くな。俺を止めたければな」
「よっしゃ!」
「ナイス、緑間!」
シュートを当然のように決めた緑間を木村と宮地がどつく。一方で、火神も日向と木吉に同様にどつかれる。
「「「「よし行くぞ!」」」」
両チームが激しく火花を散らす中、丁度キリがいいのか悪いのか、タイミングよく第2クォーター終了を知らせるブザーが鳴り響いた。
*****
今のままでいければ恐らく勝てる。
だけど、誠凛には黒子テツヤがいる。
あの時見せてもらった黒子のドライブが映し出されていた。普段、彼の姿を見失うことがないのに、あの時、自分は彼を見失ってしまった。あれで彼は、このドライブはまだ未完成だと言った。
もし、あのドライブが完成していたら…誰も止められない
黒子がベンチに下がっているうちに、点差を広げられることがベスト。シーソーゲームを続けていたら形勢逆転されてしまう。
「美桜?」
難しい顔をして考えこむ美桜を見かねて、高尾は声を掛ける。その声に反応して、ハッと慌てたように美桜は顔を上げた。
「あっ…」
「何か心配事?」
「ちょっと今が順調すぎて心配」
いつにもなく不安げな様子な彼女に、高尾は少しだけ考える素振りを見せる。
「テッちゃんが何を仕掛けてくるか…だな」
今はベンチにいるが後半必ず彼はコートに戻ってくる。黒子が戻ってきたら誠凛はまた新たな策を繰り出してくるに違いない。
高尾はもう一口とドリンクを飲むと、ボトルを美桜に手渡した。
「何をしかけてくるかわからないけど、全力で止める。
だから、見てて」
「…うん」
高尾からボトルを受け取った美桜はその言葉に小さく頷くのだった。
「よっしゃ行くぜ!」
10分間のインターバルを終え、第3クォーターが始まる。
緑間からのパスを受け取った高尾が勢いよく前へと切り進んでいく。秀徳の必勝パターン…4対3だ。
「なーんてな…」
抑えようと伊月が高尾の前にでるが、高尾はニヤリを笑うとジャンプしボールを股にくぐらせノールックパスをくりだす。
「外すなよ~」
「黙れ…バカめ」
受け取った緑間は確実に点を入れ、その点で秀徳が逆転した。
慌てて動揺する誠凛。それを見て甘いと宮地は伊月から日向へのパスをカットする。
「緑間だけじゃねーぞ、うちは!なめんな!」
宮地はすぐさま前を走る木村へボールを投げる。
「1年にばっかいいとこ取られてんなよ、木村!」
「おうよ」
飛び上がる木村はボールをゴールへ入れる。そして点を入れた木村はふーと息を吐き小さくガッツポーズ。
「いや…ダンクとかしろよ。豪快に!」
「うっせーな!だれでもかれでもできるわけじゃねーんだよ」
誠凛が驚きを見せる中、秀徳はカウンターを決めた。それができたのは、過去のビデオを沢山見て研究してきたおかげ…。いくら誠凛のラン&ガンが早くてもパターンがわかれば止められる。
レイアップして決めた木村に対し、小言を言う宮地。いつも通りの光景に美桜は目を細めた。
「フン、どうやら限界のようだな…」
そして第3クォーター残り1分、緑間が目論んでいた事が現実になった。ついに火神の膝が限界に達したのだ。飛べなくなった火神を見て緑間は口角を上げた。
「なんか…変わったね。みどりん」
観覧席で試合を見守っていた桃井は目を細めた。桃井の目線の先には秀徳の人達の輪に入っている緑間。そして傍らには美桜がいた。
「そうすか?」
「あと…きーちゃんも変わったよ」
「どこがすか?」
クスリと笑い黄瀬に振り向く桃井。黄瀬は怪訝な顔をするが思い当たる節があり考え込んだ。
「だとしたら、変わったんじゃなくて、たぶん変えさせられたんじゃないすか?」
そう呟くと黄瀬は、コートにいる黒子を見て眼を細める。
「なんですかね?
あの人と戦ってから、周りに頼ることが弱いことじゃなくてむしろ強さが必要なことじゃないかって思うんす」
黒子と戦ってから徐々に、海常のメンバーと共にバスケをする楽しさを知ることができた。
そして…
黄瀬はゆっくりと視線を誠凛から秀徳に移す。
「あとはみおっちが教えてくれたっす」
バスケを始めたころの初心を、楽しさを。
誰よりも貪欲で純粋にバスケを楽しむ彼女のようになりたい、と思ってしまった。
黄瀬の言葉を聞き、桃井は嬉しそうに頬を緩めていた。
*****
「クソ、こんなに違うのか。緑間が変わると」
変わった?周りから見るとそう見えるのか…
ていうか、変わってないんだけどな…実際はそんな
誠凛のベンチからふと聞こえた言葉にコートに立つ高尾は首を傾げた。
別に仲良くなったわけじゃないしね…
認められはしてるけど、やっぱ変人だし、好かれてるわけじゃねーし…っか、浮きまくり
1人黙々とシュートを打ち続ける緑間をいつも輪の中に誘うのは、美桜だった。意見を変えない頑固で変人でムカつく奴。それでも、ひたすらに努力する姿を見て、嫌うものは誰もいなかった。
『ねっ、かず気付いた?
最近、真太郎たまに楽しそうに笑ってるの』
何時からだろうか?
美桜も高尾もわからない。表情を変えることがない緑間が時折、皆とバスケをしている時に笑うようになった。変わったとすればそこだろう。
テッちゃんのおかげかもな
含むような笑みを浮かべ、高尾はベンチにいる黒子を盗み見る。それは秀徳サイドのベンチにいて同じセリフが聞こえた美桜も、同じ行動をとっていた。
美桜から見ても、緑間の行動は中学時代知り合ったときから変わらない。相変わらず一心不乱にシュートを打ち続ける姿。好物はまさかのお汁粉。そしておは朝信者であり、毎日ラッキーアイテムを持ち歩いていること。傍若無人で周りからは浮きまくってること。でも、それでも少しは変わってたのかもしれない。秀徳というチームは信頼するに値すると緑間の心の中では変わった。だからこそ、パスを回すと昔の彼なら言わないことを言えるようになったのだろう。
各々の思考をかき消すかのようにブザーが鳴り響く。
誠凛のメンバーチェンジを知らせるもの。ゆらりと立ち上がりでてきたのは、黒子だ。なにか心に決めたような強い瞳を宿して黒子はコートに入る。
緑間を変えたのは黒子の影響が大きいかもしれない。でも、それと試合は別の話だ。
「待ってたぜ、黒子」
戻ってきた友でありライバルである黒子に高尾は眼光を光らせた。
「奴がこの場面で手ぶらなどありえない。出てきたからには必ず何かある…」
同様に、彼が戻ってくるのを待っていた緑間も警戒を強めるのだった。