「じゃあとりあえず二人出てみるか？」

チーム誠凛の1回戦。まず、誰が出るか？ということになった。そこででた木吉の発言に対し、皆が賛同したことにより、初陣は木吉・降旗・福田・高尾・美桜ということに決まった。

「いやーいきなり出させてもらえるなんて...じゃあ張り切ってやりますか！」

高尾はコートに出ると肩を回しやる気満々。

「もう...張り切り過ぎなんだから」

高尾の様子を見て苦笑いを浮かべる美桜。そんな彼女の顔を高尾は覗き込むと悪そうな顔を浮かべた。

「って言ってる美桜も張り切ってるんじゃないの？」

「あはは...バレた？こういう試合は久しぶりだから胸が高鳴ってるよ」

なんだかんだ言いつつも美桜自身、久しぶりに出る試合。嬉しくてしかたがなかった。が、彼女のこの高揚ぶりは相手チームの一声で一気に冷めるのだった。

「おーおー...何してるんだ？お嬢ちゃんできるの？バスケ？」

明らかに美桜を見くびるその発言。美桜の隣でヘラヘラ笑っていた高尾だったが、その一声で瞬時に青ざめた表情に。恐る恐る隣の方を見やると美桜の顔は徐々に引き攣り、拳をこれでもあろうかというほどの力で握りしめ、肩をわなわなと震わせていた。周りから見てもわかるほど美桜は今にも怒りの沸点を超えそうな雰囲気だった。

「えっと...美桜？？」

「かず...他の皆も...試合始まったら私にボール回して。一発やらないと気がすまない。」

美桜が出す声はいつもよし数倍以上トーンは低く、殺気を纏っていた。それほどまでに美桜はカチンと来ていたのだ。今にも怒鳴り散らしたいという衝動に駆られるが、そこをなんとか抑える。そして、今の発言を後悔させてやると向こうで楽勝だなと笑っている彼らに対し不敵な笑みをこぼすのだった。その様子を見た高尾はご愁傷さまと相手側に手を合わせるのだった。

「Tip off！！！」

ジャンプボールを木吉が取り、誠凛がボールをものに。すかさず木吉は降旗にボールを回す。受け取った降旗は慎重に周りを見渡しながらボールを運んでいく。

「降旗！！」

パスを促す高尾の声。迷わず降旗はパスを回す。ボールを受け取った高尾はどんどん相手をかわして前へ突き進む。そして、ゴール直前で高尾はニヤリと笑うと背後に走りこんできた人物にノールックパスを送る。

「へへ…。ダメだぜ…こいつを野放しにしちゃ…」

心地よい音とともにボールを受け取ったのはもちろん美桜だ。

「ナイスパス！！」

そのまま美桜はゴールへ切り込む。慌てて相手チームはガードを固めるのだが、そんなのお構いなしに次々と美桜はそれをかわし、ボールをゴールへ向けて放った。綺麗な弾道を描いたそのボールはそのままゴールに入るのだった。

点が入ったことがわかると観ていた周囲がざわめきだすのだった。

「え…なんだよ！あの子…すごいじゃねーか！！」

相手選手はその光景を見て青ざめる。これほどまで彼女がバスケをできると思わなかったからだ。だが、実際蓋を開けてみるとなんということか…できるどころではない、次元が違いすぎる。

「いやーーー、お兄さんたち、やっちゃったね。だって、怒らせてはいけない子を怒らせちゃったんだから…」

そんな彼らにとどめを刺すかのように言葉を吐きだす高尾。彼の目は笑っておらず凍り付くような鋭い瞳を帯びていた。彼のそんな目に相手選手は更に震え上がるのだった。

踵を返し高尾は表情を一変させニコニコと笑顔を浮かべ美桜のもとへ。

「さっすが美桜！ナイッッシュー！！」

二人はハイタッチをするのだった。

「よし…次は俺に回せよ」

「わかった！任せといて！」

続く相手からの攻撃を美桜はスティールでボールを奪い、近くを走っていた高尾へパスを回す。受け取った高尾は呆気に取られている相手を置き去りにして楽々とゴールを決めるのだった。

「よっしゃーー！！」

再びハイタッチをかわす彼ら。そんな彼らの肩に木吉は背後から近づき手を置く。

「二人とも…気持ちはわかるが…俺たちにもボール回してくれ。やり返したいのは俺たちも一緒だ」

いつも笑顔が絶えない木吉の見たことない鋭い眼差し。こんな表情もするのかと美桜達は驚くのであった。

コートの外で見守る黒子と火神の目の前では、無双ともいえる試合が行われていた。挑発された本人の美桜をはじめとして、チームの誰もが相手を叩きのめそうと躍起になっていたのだ。その光景に顔を引きつらせる彼ら。

「神田って…怒るとヤバいんだな…」

「そうですね...いつもは優しいんですが、気に食わないことを言われると切れますね。それに彼女は負けず嫌いですからね」

恐らく彼女は、女だからと舐められたことに腹がたったのだろう。でも、コートで走り回る彼女は光り輝いているように黒子にとって見て取れたのであった。黒子はそんな美桜を見て頬を緩ますのだった。そんな稀に見られない黒子の様子を火神は不審になって見る。

「黒子？？どうした？」

「あ…すいません。こんな美桜さん見れる日がくると思わなかったので思わず頬が緩んでしまいました。」

そして、試合は呆気なく誠凛チームが勝利を決めるのだった。

2回戦はもう待てないと火神が入り、代わりに高尾がアウトする。

３回戦は、黒子と高尾

４回戦は、黒子と美桜

色んな組み合わせで出るが、どれも初めてとは思えないほど息の合ったプレーをすることができたのだった。そして、５回戦目は、火神と高尾が出ていた。
コート上では、高尾と火神中心に展開を広げていっていた。少年のように無邪気にコートを駆け回っている高尾の姿に思わず美桜は頬が緩ませる。そんな彼女を黒子は柔らかい表情を浮かべるのであった。

そんな和やかな時間が流れる中、突如として美桜の携帯が鳴り響くのであった。

５回戦目を無事勝利して、ベンチに戻るメンバー。だが、そこには美桜の姿はなく黒子しかいなかった。それを不思議に思った高尾は開口一番に黒子に尋ねていた。

「あれ？美桜は？」

「美桜さんなら、少し野暮用が入ったので帰りましたよ」

「え！！！マジかよ」