ストバス大会
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「なぁなぁ!美桜!!」
高尾は興奮気味にとあるチラシを彼女に見えるように掲げた。そのダークブルーの瞳は少年のよう無邪気に輝いていた。
「明日行こーぜ!」
高尾が持つそのチラシはたまたま通りかかったストバスコートで配られていたものだった。おもむろに貰ったそのチラシに目を落とした高尾はそこに書かれていた内容に興味をそそられてしまったのだった。
ストリートバスケットボール5on5
『Who's Tokyo No1?』
ストリートバスケの大会を知らせるチラシだったのだ。面白そうな内容に高尾が喰い付かないわけがなかった。もちろんそれは美桜も同じ。だが、彼女の脳裏には鬼の形相を浮かべる先輩の顔が浮かびあがる。
「高尾のやつオーバーワークだから、絶対休日にボール握らせんな」
フレーズとともに思い起こされる宮地の顔に美桜は瞬時に顔を青ざめる。そんな彼女の豹変ぶりに高尾は首を傾げた。
「どうした、美桜?」
「あ…明日は家でのんびりしない?
久々のオフだし」
「えぇーつれないなぁー
いいじゃん、いこーぜ」
珍しく喰いつくことなく歯切れが悪い美桜に、高尾は不服そうに口を尖らせる。そんな楽観的な彼に美桜は不安げに表情を曇らせる。
「やりたいって言わない?
大人しく見てられる?」
「へーきへーき!それくらいできるって」
「ホントに?」
「逆に美桜のほうがやりたいって言いそうだけど?」
「かずよりは我慢できると思うけど?」
「じゃあ行こうぜ!!
色んな人のバスケを見るのも勉強になるだろ?」
疑ってかかる美桜をなんとか頷かせようと高尾は頭を使う。確かに彼の言う通り色んな人のバスケを見るのは新たな再発見もできいい勉強になる。特にPGの立場である彼は色んな戦略方法を知っておきたいのだろう。
彼の言うことは一理ある
頑固として反対だった美桜の考えが揺れ動く。それに気づいた高尾はもう一押しだと一声乗せる。
「それに上手い奴が参加するかもしれないだろ?
同じ高校生だったら情報を収集できるかもしんないぜ」
「……」
うーんと唸っていた美桜はゆっくりと顔を上げ彼を見上げた。揺らぐことがない真っ直ぐなダークブルーの瞳。この瞳をジッと見つめていた美桜は彼が決して考えを変えないことがわかり、大きく項垂れた。
「絶対、混じりたいとか言わないでよ?」
「わかってるって」
呆れた表情を浮かべながらも頬を緩ます彼女からのお許しの一言を頂いた高尾は嬉しそうに頬を綻ばせるのだった。
高尾の粘り勝ちにより翌日の日程が決まった二人。だが、その場で思わぬ人たちとの遭遇があることなど微塵たりとも思わなかった。
*****
「わぁぁぁ!!」
電車を乗り継いで会場に辿り着いた美桜と高尾は感嘆の声を上げた。
キョロキョロと辺りを見渡すと、視界に広がるのは沢山の人で溢れかえる会場だった。コートの周りには屋台が立ち並び、来ている人達はボールを片手に和気あいあいと楽しんでいたのだ。
その雰囲気に当てられた高尾は身体が疼く。自ずとその足はとある場所へと向けられていた。
「よし!受付〜と…」
「ちょっと待った!!」
受付場所を探し始める高尾。それを見かねた美桜はすかさずどこかに今にでも行ってしまいそうな彼の腕を掴み引き止めた。
「イヤイヤ...やらないからね。その前に人数足りないから」
「そうだけどさ...こんな雰囲気だったらやりたくなってくるじゃん」
エヘヘと無邪気な表情をする高尾。そんな高尾の表情にとことん弱い美桜は掴む腕を離してしまいそうになる。そんな彼女に追い打ちをかけるように高尾は美桜の顔を覗き込む。
「それに美桜もやりたそうな顔してる」
「うっ…」
「我慢するのは身体に毒って言うだろ?」
彼が指摘してきたことが図星だった美桜は言葉を詰まらせてしまう。そんな彼女に甘い毒を囁き、その気にさせようとする高尾。だが、いつもはここで引き下がってしまう彼女は流れに流されなかった。
「オフ日に身体を休めないことのほうがよっぽど毒だからダメ」
頷きかけた自分を心のなかで叱咤して美桜はきっぱりと言い切った。
「今日は色んな人のバスケを見るんでしょ?」
「わかってるけどさ...
っておい、美桜!あっち見てみろよ」
ここに来るために言いはなった己の言葉を取り上げられてしまった高尾は不服げに口をとがらせた。そんな彼の視界にとある者が通り過ぎ去る。それが誰か気づいた高尾は驚いたように大きく目を見開き、指をさす。その張り上げられた声に、不思議げに美桜は後ろを振り返って彼の指さす方向に目をやる。するとそこには見覚えがありすぎる一行がいたのだった。
「えっ、誠凛?」
「挨拶しにいこーぜ」
「えぇ?」
ポカンとする美桜と裏腹にこの状況を好機と捉えた高尾は、宙ぶらりんになっている彼女の手を取り駆け出していた。
「オーイ!!」
声を張り上げ、手を大きく振る高尾。その聞き覚えのある声に気づいた彼らは振り返った。
「あれって…」
「秀徳の高尾とマネージャーじゃね?」
見覚えがありすぎる彼らだが、面と向かって喋ったことがない降旗らは小声でまだ気づいていない黒子と火神に目配せをする。それで黒子と火神は彼ら二人の存在に気づくのだった。
「あ...美桜さんに高尾君にじゃないですか」
「げっ!!なんでアイツラ居るんだよ」
表情はそこまで変化しないものの口元が緩んでいる黒子。だが火神は露骨に嫌そうな表情を浮かべていた。
なぜなら、二人がいる=緑間もいるという方程式が彼の頭の中で出来上がっていたからだ。
「お久しぶりです。美桜さんに高尾君。」
「ひっさしぶりだな!黒子」
「あーもう...急に走んないでよ...久しぶりだね、テツヤ」
ニコニコと笑う高尾。対して、ハァハァと急に走り出した高尾を美桜は睨めつける。そんな二人に1年に混じって一緒に居た木吉は不思議そうに尋ねる。
「秀徳は練習ないのか?」
「木吉さん、お久しぶりです。今日はお休みなんで、美桜とストバスを見に来たんですよ。」
「木吉さん!オフの日に休息を取る大切さを教えてあげてください!」
「ちょっ、美桜!!」
「先輩の言うことなら、聞き入れてくれると思うんです」
木吉の存在にチャンスだと美桜は縋る思いで彼に訴える。それに高尾は慌てふためきながら彼女を止めようとする。が、美桜はそれを振り切った。その必死に訴える美桜の言葉をジッと聞いていた木吉は、高尾の方を見る。その表情にゴクッと唾を呑み込む高尾だが、ヘラっと笑った木吉に毒気を抜かれるのだった。
「俺はオフの日に身体を動かしてもいいと思うぞ」
「へぇ?!」
「確かにリコも言っていたが休むことも大事だ。
だけど、バスケをやりたいならその気持ちを優先してもいいと思うぞ」
「おぉ!!木吉さん、いいこと言うー!!」
ガクッと肩を落とす美桜に対し、喰い付くように目を輝かせる高尾。そんな二人を見て微笑ましいとばかりに普段以上に木吉は表情を緩ましていた。一方で、火神は誰かの存在を確認するかのようにキョロキョロと辺りを血眼になって見渡していた。
「...ということは...緑間は居ねぇーんだな」
ずっとこわい表情を浮かべていた火神が唐突に二人に尋ねる。その内容が内容だったため、彼らはキョトンと顔を見合わせる。が、すぐにその表情は消え去り一斉に笑いだしていたのだった。
「あはは!今日は居ないよ」
「プハーッ!!火神はホントに真ちゃん嫌いなんだな」
「うっせーな!!ってかそんなに笑うな!!」
そんな二人の反応に火神は噛みつくように声を荒げる。そんな彼を宥めようと高尾が肩に手を回すとあの手この手と語りだす。一方で美桜は黒子達がここにいる理由を尋ねていた。
「で?テツヤ達はなんでここに?」
「ストバスに参加しに来たんだよ。1年生が出たいって言って」
美桜の疑問に木吉が答えた。彼らがここにきた発端は降旗が持ってきた一枚のチラシだった。黒子や火神はスタメンとして試合に出れているが自分たち1年は出れていない。ならばせめてこういう試合に出てみたいと思ったのだ。その心意気を聞いた木吉は反対する相田を説得したのだった。それに彼女は折れ、1年生だけならと許しを得ていたのだ。
「なんだ...お前らは出ねぇーのか?」
「それが聞いてくれよ火神。美桜が駄目って一点張りなんだよ」
「普段オーバーワークなんだからオフ日くらい身体を休めないと…」
「でも、こんな賑わってる会場見たらやりたくなるじゃんか」
「というかそもそも私達、人数いないからエントリーできないよ?」
ボソッと何気なく漏らした火神の疑問。それに喰いつくように高尾は泣きつくようにこれまでの経緯を話し出す。そんな彼の態度に不服そうに美桜が口を挟む。そして彼女は淡々と彼に現実を突きつけるのだった。その言葉に高尾は面食らったように言葉を失ってしまった。
「あっ……」
「ねぇ?だから今回は大人しく…」
「だったら、僕たちと一緒に出てみませんか?」
すっかりと忘れていたと茫然と立ち尽くす高尾に、もう一押しだと美桜は優しく語り掛ける。だが、それを遮るように黒子が思いもよらない提案をするのだった。その一声に美桜は聞き間違えではないかと自分の耳を疑う。だがその傍らではビクッと高尾の身体が動いた。
「え...いいの?お邪魔しちゃって」
ゆっくりと項垂れていた頭を上げた高尾はキラキラと目を輝かせていた。
あ...聞き間違えじゃない。と気づいた美桜は、高尾を止めようと声を出そうとするが、そんな彼女にお構いなくトントン拍子に話が進んでいくのだった。
「良いですよ。一緒にやりましょ。バスケ」
「んじゃ、参加させていただきまーすと」
「ちょっと、かず!!今日はやらないって言ったよね?」
ヘラヘラと笑いながら、よっしゃ!と嬉しそうにガッツポーズをする高尾。対して、美桜の脳裏に浮かぶのは先輩達...特に宮地の姿だった。
ヤバイ...オフなのに、体動かした事を先輩達に知られたら確実に怒られる。
そう遠くない未来にシバかれてしまうと青ざめる美桜は高尾を必死に静止しようと試みた。しかし、その美桜の試みは見事に崩れ落ちた。
「いいじゃん。折角お誘い受けたし、やろうぜ美桜も」
少年のようにキラキラ嬉しそうな表情を浮べる高尾。もはやそんな彼を止めるのは美桜には不可能だった。ハァーとため息をついた美桜は心を切り替える。
あーもういいや。どっちにしろ怒られるのは決まったから今を全力で楽しもう...
密かに心に決めた美桜はスッキリとした表情で空を仰ぎ見るのだった。