夏祭り
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「後はお前ら好きに回っていいぞ」
金魚掬いの試合が終わると緑間は一緒に回っていた二人に対し凄く衝撃な爆弾発言を落とす。そして、彼らがこの事態を呑み込むのを待つことなく背を向けるのだった。取り残されてしまった美桜と高尾はその場で呆然と立ち尽くす。その一部始終を遠目から眺めるのは桃井と桜井。そのうちの一人はこの展開を面白そうにニヤニヤと眺めていた。その視線にこの状況下をようやく呑み込んだ美桜は気づいた途端、慌てたように隣に立ち尽くす彼の手を掴んだ。
「行こ!」
「えっ!」
急に引っ張られた高尾は驚きの声を上げる。が、それを無視して美桜は足を早める。今すぐにでもこの場を立ち去りたかったからだ。今すぐにでも冷やかしてきそうな幼馴染から彼を遠ざけたくて。
見知った者の視線が気恥ずかしい美桜。それに対して高尾は未だにこの状況下を呑み込めていなかった。
「ちょっ待てって」
先程颯爽と立ち去った緑間に負けないくらいズンズンと前に進む彼女に引っ張られる形で歩く羽目になった高尾は、別れの挨拶をできていない彼らに視線を向ける。すると小さくなりかけている桃井が小さく口を動かしているのが見えた。
ふたりっきりたのしんでね
読唇術を持っているわけではない。だが、桃井がそう言ったように高尾は思えてしまった。それを読み取った高尾は慌てたように己を引っ張る彼女の横顔を盗み見る。すると、彼女は耳までゆでダコのように赤く染めていた。
なるほどねぇ…
少しばかり抵抗していた力を高尾は抜く。そして再び桃井の方を振り向いた高尾はヘラっと笑みを浮かべると軽く彼女に手を上げるのだ。まるで教えてくれてありがとうと云わんばかりに。そしてすぐに、このやり取りに全く気づいていないであろう可愛らしい彼女に視線を戻す。彼女を見つめる高尾の表情は嬉しそうに緩みきっていた。すでに高尾の中にあったモヤモヤは吹き飛んでいたのだ。
未だにズンズンと突き進む彼女が握る手を軽い力で引いてみる。それにビクッと身体を揺らした美桜は一瞬動きを止める。その隙をついて高尾は優しく包みこむように指を絡めていく。
「…っ」
「そんな急がなくてもいいだろ?」
足を止めたのをいいことに高尾は回り込み、美桜の顔を覗き見た。急に視界一杯になった高尾の端正な顔立ちに美桜は仰け反ろうとする。が、繋がったままの手は彼女の行為を阻止するのだった。
「…かず」
なぁ、美桜…
顔を近づけ、耳元で名前を囁いた高尾は彼女に向き直るとニコッと満面の笑みを振りまく。
「せっかく二人っきりなんだから、ゆっくり回ろーぜ」
その言葉に美桜は小さく頷くと、彼の手を握り返すのだった。
*****
「ねぇねぇ、誠凛の人がいる」
屋台を巡っている中、美桜は見覚えのある姿を見つける。それは、キョロキョロと何かを探すかのように辺りを見渡す小金井と水戸部の姿だった。視界に入った姿に思わず美桜は連れ添うように並んで歩く高尾の裾を引っ張った。
「え?ホントだ。あれ?近づいてきたぞ」
彼女に促される形で視線を向けた高尾は目を丸くする。そんな彼らの視線の先ではせわしなく動いていた視線がある1点に向けられていた。そしてそのまま迷うことなく一気に小金井と水戸部が駆け寄ってくるのだった。
「ねっ!ここいらで黒子そっくりな犬見なかった?」
肩で息をしながら開口一番に小金井は尋ねた。その言葉に美桜と高尾は互いに目を見合わせた。
犬を探す黒子と火神に分かれてからそれなりに経つので、もう流石に見つかったのではないかと二人は思っていたのだ。
「もしかしてまだ見つかってないんすか?」
「知ってるの?2号がいなくなったって?」
「さっきテツヤに会ったので」
「黒子と火神に会ってたのか」
高尾の言葉に目を丸くした小金井は、美桜の口から出てきた名前に合点がいくのだった。
「まだ見つからないとなると心配ですね...」
「一緒に探しましょうか?」
「いや大丈夫!」
まだ見つかっていないのは流石に心配だと高尾と美桜は、テツヤ2号を探したほうがいいのではないかと思うのだが、小金井は慌てたようにその有難い申し出を断った。テツヤ2号を知っている彼らの力を借りれば、もしかしたら早く見つかるかもしれない。だが流石に他校の人をその捜索に巻き込むのは申し訳ないと思ったのだ。そんな小金井はふとあることに気づいて辺りを見渡した。
「ところで...今日は二人で来てるの??」
「さっきまで真太郎と一緒にいたんですけど、今は二人で回ってるんですよ」
「あれあれ?もしかして...」
それを聞いた小金井は急に高尾を引っ張り少し遠くに離れる。
「急になんですか!?」
小金井にいきなり腕を掴まれ引っ張られた高尾は思わず声を上げる。そんな彼に構わずズンズンと進んでいた小金井だったがある程度彼女から離れた場所で急に足を止める。またまた急に足を止めた彼に対処できずに高尾は体勢を崩す羽目に。流石に一言文句を言わないと気が済まないと、振り向く高尾。だが、その先にいた小金井はいつになく真剣な面持ちでジッと高尾を見ていたのだった。
一体俺はこの何分の間に何かやらかしたのか?、と彼の表情を見て息を呑む高尾。だが緊張な面持ちになった高尾を前に、小金井は先ほどの表情が嘘だったかのように急にニヤニヤとしだすのだった。
「お二人さん...デートですか?」
「え!?何言ってるんですか!違いますよ!」
「と言っているが...誤魔化そうとしているのがバレバレだぞ...で?実際はどうなの?彼女と付き合ってるの?」
小金井が落とした爆弾に高尾は慌てたように否定する。が、小金井からしたら顔を赤くして否定している時点で誤魔化しているのはバレバレだった。
そんな探りを入れてくる小金井を見て、高尾は隠し通せないと判断した。
「...いやー...珍しく真ちゃんが気を遣ってくれて、デート中なんすよ」
「やっぱりそうじゃんか!」
小さく息を吐いた高尾は、何時ものおちゃらけた口調でホントのことを言う。その彼の表情は照れ臭そうに頬を染めていた。そんな高尾を、このこの!と小金井は小突いた。
「なになに?いつから付き合ってるの?
あんな可愛い子落とすなんてどんな手を使ったんだよ」
「いくら小金井さんでも秘密です!」
「ちぇ...つれねぇーな」
「あのー...」
根掘り葉掘り聞こうとする小金井。だが、これ以上は言えないとヘラっと高尾は笑みを浮かべた。そんな彼にこれ以上詳しい話を聞くのは無理かと、悔し気に小金井は舌打ちを打った。その背後にいつの間にか彼女がいるとこに高尾も小金井も気づけなかった。慌てたように高尾と小金井は声の方を向く。すると、美桜が困惑気味に二人を見ていた。
「美桜?どうかしたか?」
「困ります...小金井さんがいないと」
「はぁ?」
「えっ?俺?」
目を泳がせおどおどとする美桜が口にした名は小金井だった。そのことに素っ頓狂な声を上げる高尾。それに対して、呼ばれた本人である小金井は頬を赤らめ狼狽えた。本当に自分なのかと半信半疑な小金井は自分を指さし聞き返す。それに美桜は小さく頷いた。
「なんで俺がいないと困るの?」
「だって...私、水戸部さんの通訳できないから」
一体どうしてだろうと緊張した面持ちで固唾を呑んで見守る小金井の前で、美桜はボソッと小さな声で嘆くように呟いた。必然的に水戸部と取り残される形になってしまった美桜。なんとかコミュケーションを取ろうとしたのだが、喋らない水戸部を前にしてなすすべがなかったのだった。そしてついにこの気まずい空気に耐え切れず助けを求めるように小金井の元にきたのだった。
「あー、そういうことか」
「そっちかー!」
事情を理解し、ホッと胸を撫でおろす高尾。その隣では小金井が激しくズッコケるのだった。だが早々に切り替えた小金井はここぞとばかりに話を切り込んだ。
「で?なんか甘酸っぱい話ないの?」
「だから、ありませんよ〜!誠凛さん側はなんかないんですか?」
ヘラっと笑いながら手を横に振った高尾は逆に聞き返す。それに対して、小金井は顎に手を置き考え込む。そんな彼に水戸部が手でジェスチャーをした。それをふむふむと見る小金井。その二人の様子を見た美桜はねぇ!と高尾を引き寄せた。
「ん?どうした?」
「なんであれで意思疎通できるの?」
「いや...俺に聞かれても」
不思議そうに振り返った高尾の耳元に美桜は小さな声で疑問をぶつける。その問いに流石の高尾も困惑気味に。そんな二人を差し置いて、水戸部の言いたいことをくみ取った小金井は声を上げる。
「えー...あの3人か...」
「あの3人って誰ですか?」
「監督と日向と木吉だよ。
でもな…想像したけど、そういう雰囲気にはならないな」
小金井の一声でヒソヒソ話を切り上げた二人は、彼の口から出てきた3人とは誰なのだろうかと首を傾げる。そんな二人に小金井は苦笑しながら答えた。どう考えを膨らませてもあの3人が甘酸っぱい雰囲気を出す姿を想像することができなかったのだ。
「今日は皆さんで来ているんですか?」
「あぁそうだよ」
「あとでそっちにお邪魔していいですか?」
「もちろん!ぜひ来てよ!」
「ありがとうございます!」
「あ…やべ!2号探さないと!じゃあまた後でな!」
話に夢中になっていた小金井は水戸部に突かれ本来の目的を思い出すと血相を変える。そして慌てたようにその場を後にする二人を見送った高尾と美桜は顔を見合わせた。
「行っちゃったね」
「あぁ、そうだな」
「そろそろ移動しない?
花火を見るいいとこ知ってるんだぁ」
今度は自分から彼の大きな手に指を絡めていく。小さな温もりに目線を落とした高尾の視界一杯に広がったのは、得意げに満面の笑みを浮かべる愛おしい彼女だった。
予想以上に時間が経過していたらしく、さきほどまで人混みで賑わっていた屋台エリアは閑散としはじめていたのだ。
「じゃあ、そこ案内してくんない?」
「もちろん」
彼らは歩幅を合わせ肩を寄せ合いながら、奥に消えていく。誰もそんな二人に気づくことはなかった。