夏祭り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「真ちゃん、美桜も!
俺の事を紹介してよ!!」
「別に必要ないだろ?」
「ゴメン、忘れてた」
「えー!?
ひどくねぇ!
俺だって美人マネージャーに紹介されたいってーの!」
一人だけ蚊帳の外にされたのは心外だとヘラっと軽薄な笑みを高尾は零す。遠目からは何度も彼女の姿を目撃してきた。だが、こうして面と向かって彼女に対面するのは初だ。美桜の中学時代、いやそれ以前の幼少期を知る美桜の幼馴染であるとともに帝光中学バスケットボール部の美人敏腕マネージャー。折角の機会だからこそ、紹介されたかったのだ。
美人マネージャーねぇ...
そう純粋に思う高尾の心情とは裏腹に美桜の心はモヤッとした黒い感情が渦巻いていた。確かに彼女は羨ましいくらい美人で可愛らしい女の子だ。そんな彼女はもちろん中学時代に何人かに呼び出されていた。それに比べて自分は恋沙汰など無関心で日々バスケに明け暮れていた。客観的に見ても彼女と自分の差は明らか。それでも、彼の口から桃井に対してそのような台詞が出たことはショックだったのだ。嫉妬心をまさか幼馴染に抱いてしまうとは思わなかった美桜は自分の心の狭さに嫌気が差すと同時に、締め付けられるような痛みに思わずギュッと胸の前で拳を握りしめるのだった。
「大丈夫ですよ〜!ちゃーんと知ってますから」
美桜が葛藤していることを瞬時に悟ってしまった桃井は内心ほくそ笑みながらも、高尾に向き直る。
「秀徳高校一年高尾和成さん、
身長176センチ、体重65kg、星座は蠍座、
ポジションはポイントガード、
空間認識能力に長けたホークアイの持ち主」
「...さっすがー、情報通〜
あっでも、ちゃんと会うのこれが初めてだよね?
どうもはじめまして...高尾和成です。」
「はじめまして、桃井さつきです。噂通り、社交的だね。」
「その噂って気になるなぁ~?
俺に関する情報ってどんなのが出回ってるの??」
「うーん...やっぱりあのみどりんと息が合う存在ってとこかな?それと...」
「まじで?真ちゃん、褒められちゃった!」
「どうして今のが褒め言葉になるのだよ?」
「えっ、褒めたんだよ?」
桃井からもたらされた情報に高尾は上機嫌になり、思わず緑間を見上げる。だが無自覚な緑間は意味がわからないと首を傾げる。そんな相変わらずの緑間をポカンとした表情で桃井が見た。しかしそれも一瞬。すぐに桃井の視線は未だに話に加わってこない美桜に向けられる。
それと、美桜の心を取り戻すだけでなく射止めてしまった人
興奮気味の高尾によって遮られてしまった言葉の続きを桃井は敢えて付け足すことをせず、グッと呑み込んだ。彼女にとって確かにあの傍若無人な緑間と分け隔てなく接することができる者がいたのかと驚いていた。だがそれ以上に、衝撃が大きかったのは美桜の件だった。幼馴染の自分はもちろん誰も彼女の心の闇を取り払うことができなかった。だが、突如現れた彼は意図も簡単に彼女の心の中に入り込んだ。そして本来の彼女を取り戻すだけでなく、彼女の心を奪ってしまった。
「『高尾...たいしたものなのだよ』とか?」
「高尾...」
「まぁまぁ...」
懐からメガネを取り出し緑間のモノマネを披露した高尾は目の前でドス黒い声を発する本人をもろともせずにヘラっと笑みを浮かべる。ずっと幼い頃から一緒にいた自分ではなく藪から棒に出てきた彼の手によってなのが、桃井にとっては少し悔しかった。だが、それでも美桜が心の底から笑うことができる、そんな存在に巡り合うことができたことは嬉しくもあった。
「ねぇ、美桜」
桃井の目の前では突如として、桜井と緑間による金魚掬いバトルが始まっていた。
「緑間さん...お願いがあります。僕と金魚掬いで勝負してください。
にわかの緑間さんに金魚掬いをなめられて黙ってはいられません!
それに...僕のほうが絶対うまいもん!!」
それはにわかの緑間の発言に金魚掬いが得意な桜井が勝負を申し出たこと。そして…
「おっと...真ちゃん対抗心燃やされてるよ?で?どうするの?」
「...くだらない」
「お?そんなこと言っちゃって...逃げるの?」
それに高尾が悪ノリして便乗しまったことが原因だった。最初は適当にやり過ごそうとしていた緑間。だが高尾に煽われる形で彼はムキになってしまう。渋々と腰を下ろした緑間とメラメラと炎を燃やす桜井にポイを配った高尾は愉しげに口角を上げると音頭取りをする。
「おー!!面白くなってきた!おっちゃん!!新しいポイをこの二人に!
...ではでは!新しいポイを構えて...スッタート!!」
そんな高尾による実況により、徐々に彼らの周りにはギャラリーが群がり始める。そのギャラリーの視線に小恥ずかしさを覚えながらも桃井は美桜の名をそっと呼んだ。
「ん?なに?」
急に呼ばれた美桜はキョトンとした表情で桃井のほうを振り向く。そんな彼女に桃井はそっと耳打ちする。
「もしかして、嫉妬しちゃった?」
「…!!」
美桜は仰け反るように桃井から離れる。図星のことを言われてしまった。しかも幼馴染のこんな醜い感情をぶつけられて嫌ではないだろうかと、恐る恐る窺うように桃井を見る。が、美桜の予想していた表情とまったく異なる顔を彼女はしていた。
「もう、美桜可愛い!!」
ギュッと桃井は羞恥心で顔を赤く染める彼女を抱きしめた。
「くっ…苦しいよ、さつき」
「ごめんごめん、ついつい」
平謝りしながら少し離れた桃井は美桜に笑いかけると少し遠い目で空を仰ぎ見た。
「でも良かった。
美桜が選んだ高尾君が良い人そうで…」
「…さつき」
「嫉妬することは悪いことじゃないよ。
というか逆にそこまでの感情を抱ける人に出会えることがなかなかないよ。
だから…」
桃井は口を閉じると視線を空から美桜へと向けると、柔らかく微笑みかけた。
「簡単に手放しちゃダメだし、逃げても駄目だからね」
彼女はいったいどういう意味合いでこの言葉を掛けてくれたのだろう。色々な意味合いとして捉えることができるこの言葉。
「大丈夫…もう逃げないよ。
それに彼と一緒ならなんでも乗り越えられそうな気がするんだ」
真剣な面持ちをすぐに崩すと美桜は恥ずかしそうに破顔しながら頷くのだった。