夏祭り
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「まずはここだ」
「オー!輪投げか!!懐かしいな!!で?どれ狙うの?」
ズンズンと迷うことなく歩いていた緑間が足を止めたのは輪投げの屋台。もちろん純粋に楽しむためではない。どこにいっても曲がることがない彼の目的は、もちろんラッキーアイテムの収集だった。
足を止めた緑間の背からひょっこりと高尾と美桜は顔を覗かせ、屋台を確認する。幼少期にやったことがあるものの、最近は触れる機会がない輪投げを見て、高尾は若干興奮気味に緑間に尋ねる。そんな彼に対して、決まっていると云わんばかりに鼻を鳴らして答える。
「もちろん...
特賞のためきの信楽焼ぬいぐるみだ」
「ねえ?それって信楽焼なの?ぬいぐるみなの?」
「真太郎...大きい信楽焼持ってるでしょ」
彼が狙っている物を知った高尾と美桜は、輝かしていた目が瞬時に呆れた眼差しになる。もちろん、2人の脳裏に思い浮かぶのはあの日の光景。IH予選前の試合で、ラッキーアイテムだと緑間が持っていくよう強要した信楽焼。今回狙うのはその同じ信楽焼ということもあり二人はげんなりとした表情を緑間に向ける。そんな彼らに対して緑間は淡々と自分が持っているものとの相違を述べる。
「ここのはもっと大きいのだよ」
「あの信楽焼も結構大きかったと思うけどね!!リアカーで運ぶのすげぇ大変だったし!」
「ふん...その点抜かりがないのだよ。
今回のたぬきは大幅に軽量化されているそうだ。ん?事前情報と比較して商品の中に食品系のものがないと思ってな..変更があったのか?」
「いつも思うけど、その情報どこで入手してるの??」
「…秘密なのだよ」
何時も抱く緑間のラッキーアイテムの情報収集方法について興味を示し始める美桜を他所に、周囲をキョロキョロとしていた高尾はとある張り紙に釘付けだった。いったいなにが書かれているのだろうかと何気なく眺めていた高尾。だが、字面を追っていた高尾は徐々に驚きの表情に変わるのだった。
「あっ!!」
「うるさいぞ、高尾」
「イヤ...だって、あの張り紙見てよ!!」
唐突に声を上げた高尾は、見ろと云わんばかりに張り紙を指さした。
「特賞...もう出たらしいね...」
張り紙に一通り目を通し終わった美桜が未だに状況を飲み込めてない緑間に変わって代弁する。美桜達がここに辿り着く前に特賞は既に誰かの手に渡っていたのだ。やっと呑み込めた緑間は何!?と唇を噛み締め悔しそうな表情を浮かべ、対して高尾はゲラゲラと笑いながらドンマイ!と彼の肩を叩くのであった。
「出てしまったのならば仕方あるまい。
次行くのだよ!」
気持ちを切り替え緑間は次の目的地である缶当てゲームをしている屋台へ迷うことなく足を進める。だが、そこでも緑間は愕然とする状況に。
「真ちゃん、ここも特賞もうないらしーぜ」
「…なんだと!?」
「えっ、そんな特賞って出るものだっけ?」
「もしかしたら真ちゃん以外にもラッキーアイテムを収集している人がいるのかもしんないぜ」
「そんなまさかぁ!たまたまでしょ、たまたま」
「だよなぁー!こんな変な収集癖を持ってるのは真ちゃんぐらいだよな」
大きく目を見開き何度も何度も張り紙の字面に目を通した緑間はようやく内容を理解すると石造のように固まってしまう。そんな彼を他所に美桜と高尾は、脳裏に過ぎった可能性を笑って吹き飛ばすのだった。
*****
「上手ー!!」
「あれ?さつき?」
ズドーンと落ち込む緑間を連れて歩いていた美桜は聞き覚えのある声に足を止める。その声の方向に視線を向ける。するとその先にいたのは桃色の髪をハーフアップにして纏め、浴衣を着た桃井だった。その桃井も、美桜の声に気づき目を輝かした。
「あれ?美桜!それにみどりん!来てたんだ!」
「あー、お前一人か?」
「ううん。チームメイトと一緒だよ」
首を横に振る桃井の言葉に美桜はビクッと反応すると、辺りをキョロキョロと不安げに見渡す。だが、お目当ての姿は見当たらなかった。美桜は無意識の内に心の声が零していた。
「大輝は…いないんだ…」
「遅刻よ遅刻!
どうせどっかで『めしめし』って食べてるよ、アイツ!!」
彼とエンカウントしなかったことが幸なのか不幸なのかわからない。だが、ホッと安堵したのは事実。そんな複雑そうな表情に気づいた桃井は話題を逸らそうと間髪入れずに彼女の手を引いた。
「そんなことより、チームメイト紹介するね!
ほら、美桜こっち!!」
そんな小さな彼女の背を高尾は淋し気な眼差しで見ていた。そんな高尾の頭に緑間が拳を落とす。
「イッ…」
「なに腑抜けた顔をしているのだよ」
鈍痛に顔を歪めながら高尾は顔を上げる。すると自分の心の内までを見透かしてそうな眼差し。高尾はたまらずギクッと身体を強張らせる。
「美桜が好きになったのは幼馴染のアイツではなくお前だろ。
一々、アイツの話題で動揺するのではないのだよ。」
全部ひっくるめて受け入れてやるのがお前の努めなんじゃないのか?
そう高尾に一言吐き捨てると、緑間は彼女らの元へ。一方で痛いところを突かれてしまった高尾は、深く深く息を吐きだす。一瞬抱いた不安が顔に出ないように、聡明な彼女に悟られぬよう、いつも通りの調子に戻るために。
*****
「うちのチームのシューティングガード...桜井良君」
美桜が連れられた先、そこにいたのは桜井だった。そんな彼は、桃井が連れてきた彼女の姿に目を見開いていた。どんなことでも基本無気力で無表情な彼が目の前の彼女が絡むと唯一それを崩すのだ。そんな彼女を遠くからではなく、こうして直接お目にかかれる日が来るとは思わなかったのだ。そしてそれは、彼女の背後からゆったりとした足取りで近寄ってくる同世代の彼にも同じことが言えた。
「どうも...桜井です。神田美桜さん、そして緑間真太郎さん。」
「はじめまして、神田美桜です」
礼儀正しく頭を下げて名前を名乗る美桜。その背後から来た緑間は不思議そうに桜井を見つめる。
「俺のことを知っているのか?」
「同じポジションですから」
「あっ」
同じポジションである緑間と桜井の対面をよそに、美桜は思い出したと小さく声をあげると隣にいた桃井の裾を引っ張る。
「さつき。そういえばさっきテツヤに会ったよ」
「えホント!?テツ君来てるの!」
案の定、黒子の名前が出た途端に桃井の目は輝いた。そんな彼女はもっと情報はないのかと前のめりになる。相変わらず黒子の話題になると敏感に反応を示す桃井に美桜は小さく頷いてみせた。
「うん。でもね…
テツヤが飼っている子犬がいなくなってて今探してるんだよ。
私その犬と会ったんだけど気づいたら消えてて…」
「犬って...2号君?」
「名前までは知らないけど…って、さつき会ったことあるんだ」
「この前ちょっとね」
「ちょっとちょっと!!」
表情に影を落とした美桜の話に耳を傾けていた桃井は思わぬ自体に目を丸くする。対して美桜も桃井が黒子犬を知っていたことに驚くのだった。そんな彼女らに、タンマと云わんばかりに割って入ってくるのはとある者の一声。それは、先程まで心の整理をしていて彼らの話に乗り遅れてしまった高尾だった。