夏祭り
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カラン…コロン…
ゆっくりとしたテンポで奏でられる心地よい音。その音の持ち主は不慣れな下駄でとある場所に向かって歩いていた。目的地が近づいてくるにつれて聞こえてくるのは賑やかな音。
あぁ、好きだなぁ…この雰囲気
この音に、増えてくる人混みに、美桜は高揚感を覚える。だが自分の今の装いに不安を抱いていた美桜は表情に影を落とす。
どーしよ、やっぱり張り切りすぎたかな…
美桜は自分の着ている浴衣に目を落とす。白色の生地に咲き誇る沢山のオレンジ色や黄色の大きな紫陽花・薔薇・椿。腰には淡い黄色の帯。そして普段ひとつ結びのマリーゴールドの髪はハーフアップにされオレンジ色の花の髪飾りが添えられていた。久々のお祭りで思わず手にとってしまった浴衣。だが、一緒に周る皆が浴衣でくるとは限らない。自分だけだったらと、向かう足取りが重くなっていく美桜は、そもそもの経緯について思い起こしていた。それは唐突に言い放った緑間の一言が原因だった。
「お前ら...明日何があるか知ってるか?」
おもむろに緑間はシュート練習の手を止める。緑間からのまさかの発言に美桜達は目を見開き、その手を止め、彼を凝視する。
「え...明日あるのは...花火大会だよね?」
「そうなのだよ」
「なになに真ちゃん、行きたいの?」
明日あるイベント。それは近くで開催される花火大会であった。だが、まさか緑間がこの話題に触れるとは誰も想定できなかったのだ。意表を突かれる高尾と美桜。だが先に普段の調子を取り戻した高尾は、ニヤニヤと愉しげに笑みを浮かべながら、緑間の肩に腕を回すのだった。
「鬱陶しい!!サッサと離れろ、高尾」
「えぇ?ほんとは離れてほしくない癖に」
「断じて違うのだよ」
煩わしいと緑間は高尾の身をすぐさま剥がしにかかる。そんな彼をケラケラと笑いながら高尾は珍しく引き下がり、彼から数歩離れてあげるのだった。その二人のやり取りを微笑ましげに見ていた美桜はまじまじと彼を見上げた。
「で、結局なんなの?」
「お前ら…明日付き合うのだよ」
え…
脈無しの彼の言葉に高尾と美桜は思わず互いに顔を見合わせて首を傾げた。相変わらず緑間の思考回路を理解することができない。だがもう彼の頭の中では3人で花火大会に行くことは決定事項らしい。
「行こうか…せっかくだし…」
「素直に誘えよ!このツンデレ野郎!!」
小さく肩を竦める美桜と高尾は緑間に振り回されるのは慣れっこ。微笑する美桜の目の前で、今度は高尾は跳びつくように緑間と肩を組む。それに対し緑間は仏頂面を崩すことなく、無言で彼を引き剝がしにかかったのだった。
「美桜」
ふと名前を呼ばれて美桜は伏せていた目線を上げる。周囲の音に掻き消されることなく真っ直ぐに届く凛とした声音。どこにいても紛れてこんでいてもすぐに見つけてくれるダークブルーの瞳は自分を見つめると、嬉しそうに細められる。模様が入っている黒地の甚平を身にまとった彼はいつも以上にカッコよく見えた。そんな彼のもとに早く行きたくて、美桜は駆け足に。だが慣れない下駄なことをすっかりと忘れていた美桜は躓いてしまう。
「あっ…」
躓いて身体が前に傾く。その身体を彼は慌てて受け止める。衝撃に備えて目を固く閉じていた美桜は、好きな温もりに包まれてゆっくりと目を開けて上を向く。すると案の定、呆れた表情の彼の顔がそこにはいた。
「何してんだよ、危ないじゃんか」
「だって、早くかずのとこに行きたくて…」
「はぁぁぁ…」
ゆっくりと離れる温もりに名残惜しさを覚えながら美桜は答える。その上目遣いのエメラルドグリーン色の瞳に吸い込まれ今にも理性を崩してしまいそうな高尾は、グッと堪えようと大きく息を吐き出すと雪崩れるように彼女に凭れかかった。そんな彼の身体を美桜は不思議そうに受け止めた。
「かず??」
「可愛い格好してそんな台詞言うなって。
それとも…」
誘ってる??
美桜の耳元に高尾は息を吹きかけるようにそっと囁く。その行動に美桜は顔を赤くすると慌てふためくように離れた。逃げてしまった温もりに高尾は、残念そうに肩を竦めた。
「そんなにあわてて逃げなくてもいいだろ?」
「だっ…だって…」
「だって??」
おどおどする美桜を高尾は腕の中に閉じ込めると伺うように見つめる。その愉しげに覗き込む高尾から美桜は恥ずかしそうに視線を逸らす。
「…かずの意地悪」
ボソリと小さな声で呟かれた言葉に高尾は無邪気な笑みを浮かべてみせた。
「ごめんごめん!
美桜が可愛いことするからついつい弄りたくなって」
そっと高尾は彼女の頬に手を添えると己の方に向くように誘導する。ようやく目があった彼女は恥心で真っ白な肌はほんのりと紅色に染まり、瞳は潤んでいた。
「綺麗だ、美桜。凄い似合ってる。」
さっきの表情から一変、真剣な表情を浮かべる高尾の口から発せられた台詞に美桜は恥ずかしさを残しつつも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「かずも…見惚れるほどカッコいいよ」
真っ直ぐに想いを言葉に乗せる。その言葉に高尾はエメラルドグリーンの瞳から視線を逸らす。彼の耳は恥ずかしさからかほんのりと赤く染まっていて、ずっと彼にやられっぱなしだった美桜は予想通りの反応を見せた彼の顔を拝もうとする。
「あっ照れてるのー」
「コラ、見ようとするな」
「ワンワン!!」
高尾と美桜が攻防を繰り広げ始める中、突如としてそれを遮るかのように犬の鳴き声が彼らの真下から聴こえる。その鳴き声に二人はピタッと動きを止め、互いに顔を見合わせると、ゆっくりと視線を足元へ。するとそこには見覚えのある大きな瞳が見上げていたのだった、
「あれ??テツヤのとこの…」
「あの時の犬じゃねーか!!なんでここにいるんだよ!」
そこにいたのは先日黒子が抱えていた一匹の犬。だが周囲を見渡しても誠凛高校のメンバーの姿は見当たらなかった。
嬉しそうに尻尾を左右に振る犬に視線を合わせようと美桜は腰を屈ませる。
「よく見るとテツヤに似てるよね、カワイイ!」
「特に瞳の色がそっくりだよな」
「ワンワン!!」
嬉しそうに鳴き声をあげる犬に手を伸ばすとヨシヨシと美桜は撫でる。それに倣うように彼女の隣に高尾も腰を屈めた。
「お前、黒子たちはどーしたよ?」
「迷子かな?」
「かもな。もしかしたらアイツら探してるんじゃね」
犬を囲んで二人は、この犬の飼い主である彼らを思い浮かべる。すると芋づる式のように浮かんできたのは、本日彼らを誘った仏頂面な我がチームのエースだった。
「真ちゃん遅いな」
「はぁ...ホント遅いね」
高尾が無意識の内に呟いた言葉を聞き美桜は未だに姿を現さない緑間に対して溜息をついた。その様子を見てなのか、意味がわからないと言わんばかりに目の前にいた犬が首をかしげている。
「ここでさ俺達のチームメイトと待ちあわせしてるんだ。
そいつさー...頭はいいんだけど、ちょーっと色々こだわり多すぎる変人なんだよね」
「ワンワン!!」
「お!なに??真ちゃんに興味あるの!?」
「おい、お前ら」
声を上げた犬の反応に気を良くした高尾が前のめりになる。その隣りでは、黒子に連絡をとってあげようかと美桜が携帯を手にとる。そんな彼らの背後に一人の青年が近づくと声を上げた。その声を耳にした彼らは、ようやくかとゆっくりと振り向く。彼のことだからと普段着を予想していた彼らは、視界に入った待ち人の装いに目を見開いた。
「真ちゃん!!って浴衣!?すげぇ!気合い入りまくりじゃん!」
「今日のラッキーアイテムなのだよ。それより…」
ぐっとメガネを押し上げると緑間は訝しげに眉を顰めて彼らを見下ろした。
「何二人揃って地面にうずくまっているのだよ。変人だと思われるぞ」
「うわ...真ちゃんにだけには言われたくないんだけど」
「どういう意味なのだよ?」
「さっきね犬見つけてね...その犬と遊んでたの!ほら!!あれ??いない?」
彼の纏うオーラがピリつくのに気づいた美桜は慌てて事情を説明しようとする。が、再び戻した視界の先にはさっきまでそこにいた犬の姿が綺麗さっぱりと消えていた。思わず驚きの声を上げると美桜は辺りを見渡す。その声に慌てて高尾も振り向く。
「ほんとだ、いない!!」
「お前ら...すぐバレる嘘は見苦しいぞ」
「イヤイヤイヤ!!ほんといたんだって!なぁ、美桜」
慌てふためく彼らに対し、犬の姿を目撃していない緑間は訝しげに眉をひそめる。そんないつも以上に黒いオーラを放っている緑間を見て、信じてもらえないと嘆きながら高尾は美桜に同意を求める。それに対し、美桜は大きく頷いてみせた。
「でも...俺と美桜の目をかいくぐって消えるなんて、すごいなあの黒子犬」
「黒い子犬なのか?」
「違うよ。テツヤが連れているテツヤに似ている犬だよ」
黒子の犬だからか、なにかしら特殊な芸当を持っているのではないかと勘くぐり始める高尾を他所に、緑間は理解不能だと深い息を吐きだした。
「はぁ…何を言っているのだよ。
繰り返すが、すぐバレる嘘は見苦しいぞ」
「ほんとだって!
すげぇ黒子に似てたんだぜ?人懐っこい子犬でさ!」
だが一向に緑間に信じてもらうことができなかった高尾はガクッと大きく肩を落とす。果たしてどうすれば彼に信じてもらえるのだろうかと、頑張る高尾は必然的に大きな声に。その声はたまたま近くにいたある者の耳に届くのだった。
「あの、今子犬って?」
「あ、火神君」
「あれ?火神じゃん!ひさしぶりーでもないか...夏合宿ぶりー」
「美桜さん。高尾君。緑間君」
「テツヤも久しぶり」
言い争いを繰り広げていた彼らのもとに姿を現したのは、火神と黒子だった。息を切らしている彼らを目の前にして緑間は先程以上に眉間にシワを寄せる。
「何故お前たちがこんなとこにいる?」
「てめぇーこそなんでここにいるんだよ!」
「貴様には関係のないことだ。」
「俺だってカンケーねぇーよ」
「はいはい落ち着いて...大きな花火大会なんだから..ばったりだってあるでしょ?」
出くわした途端に噛みつきあう両者の間に高尾は割って入る。人が良い高尾はお決まりになりつつある毎度の光景に小さくため息を零す。対して、美桜と黒子は仲介する気などさらさらなかった。
「まぁ喧嘩するほど仲いいって言うよね」
「火神君。条件反射で喧嘩してる場合ではありません。
二号のことを聞かないと」
「おっ!そうだな...なぁ黒子に似た犬見なかったか?」
黒子の一声により火神は我に返る。黒子と火神は、行方をくらましたテツヤ2号を探し回っていたのだ。そしたらたまたま耳に入った子犬というワード。それを手がかりにできればと思い声のする方へ慌てて方向修正したら美桜達がいたのだったのだ。
「あぁ、さっきまでいたぜあいつ」
「見たのか!!あいつどっちに行った?」
「それが...気づいたらいなくなってて」
「ではおそらくまだこの付近にいますね...探しましょう火神君」
「サンキューなお前ら!!」
高尾の反応に火神は前のめりになる。闇雲に探し回っていた彼らにとっては、ここにいたという情報だけでも有力なものだったのだ。さっきまでここにいたということはまだ近くにいるかもしれない。美桜らに感謝を述べると黒子と火神は慌ただしくその場を後にする。そんな彼らの背を不安げに美桜と高尾は見送る。
「見つかるかな...」
「アイツすばしっこそうだったから結構難航しそうだよな…」
「まったく...騒がしいやつなのだよ...行くぞお前ら...」
だが緑間だけはその件に関して気にも止めず踵を返して歩き出す。そんな彼を見失うわけにはいかないと慌てて二人は後を追うのだった。
ゆっくりとしたテンポで奏でられる心地よい音。その音の持ち主は不慣れな下駄でとある場所に向かって歩いていた。目的地が近づいてくるにつれて聞こえてくるのは賑やかな音。
あぁ、好きだなぁ…この雰囲気
この音に、増えてくる人混みに、美桜は高揚感を覚える。だが自分の今の装いに不安を抱いていた美桜は表情に影を落とす。
どーしよ、やっぱり張り切りすぎたかな…
美桜は自分の着ている浴衣に目を落とす。白色の生地に咲き誇る沢山のオレンジ色や黄色の大きな紫陽花・薔薇・椿。腰には淡い黄色の帯。そして普段ひとつ結びのマリーゴールドの髪はハーフアップにされオレンジ色の花の髪飾りが添えられていた。久々のお祭りで思わず手にとってしまった浴衣。だが、一緒に周る皆が浴衣でくるとは限らない。自分だけだったらと、向かう足取りが重くなっていく美桜は、そもそもの経緯について思い起こしていた。それは唐突に言い放った緑間の一言が原因だった。
「お前ら...明日何があるか知ってるか?」
おもむろに緑間はシュート練習の手を止める。緑間からのまさかの発言に美桜達は目を見開き、その手を止め、彼を凝視する。
「え...明日あるのは...花火大会だよね?」
「そうなのだよ」
「なになに真ちゃん、行きたいの?」
明日あるイベント。それは近くで開催される花火大会であった。だが、まさか緑間がこの話題に触れるとは誰も想定できなかったのだ。意表を突かれる高尾と美桜。だが先に普段の調子を取り戻した高尾は、ニヤニヤと愉しげに笑みを浮かべながら、緑間の肩に腕を回すのだった。
「鬱陶しい!!サッサと離れろ、高尾」
「えぇ?ほんとは離れてほしくない癖に」
「断じて違うのだよ」
煩わしいと緑間は高尾の身をすぐさま剥がしにかかる。そんな彼をケラケラと笑いながら高尾は珍しく引き下がり、彼から数歩離れてあげるのだった。その二人のやり取りを微笑ましげに見ていた美桜はまじまじと彼を見上げた。
「で、結局なんなの?」
「お前ら…明日付き合うのだよ」
え…
脈無しの彼の言葉に高尾と美桜は思わず互いに顔を見合わせて首を傾げた。相変わらず緑間の思考回路を理解することができない。だがもう彼の頭の中では3人で花火大会に行くことは決定事項らしい。
「行こうか…せっかくだし…」
「素直に誘えよ!このツンデレ野郎!!」
小さく肩を竦める美桜と高尾は緑間に振り回されるのは慣れっこ。微笑する美桜の目の前で、今度は高尾は跳びつくように緑間と肩を組む。それに対し緑間は仏頂面を崩すことなく、無言で彼を引き剝がしにかかったのだった。
「美桜」
ふと名前を呼ばれて美桜は伏せていた目線を上げる。周囲の音に掻き消されることなく真っ直ぐに届く凛とした声音。どこにいても紛れてこんでいてもすぐに見つけてくれるダークブルーの瞳は自分を見つめると、嬉しそうに細められる。模様が入っている黒地の甚平を身にまとった彼はいつも以上にカッコよく見えた。そんな彼のもとに早く行きたくて、美桜は駆け足に。だが慣れない下駄なことをすっかりと忘れていた美桜は躓いてしまう。
「あっ…」
躓いて身体が前に傾く。その身体を彼は慌てて受け止める。衝撃に備えて目を固く閉じていた美桜は、好きな温もりに包まれてゆっくりと目を開けて上を向く。すると案の定、呆れた表情の彼の顔がそこにはいた。
「何してんだよ、危ないじゃんか」
「だって、早くかずのとこに行きたくて…」
「はぁぁぁ…」
ゆっくりと離れる温もりに名残惜しさを覚えながら美桜は答える。その上目遣いのエメラルドグリーン色の瞳に吸い込まれ今にも理性を崩してしまいそうな高尾は、グッと堪えようと大きく息を吐き出すと雪崩れるように彼女に凭れかかった。そんな彼の身体を美桜は不思議そうに受け止めた。
「かず??」
「可愛い格好してそんな台詞言うなって。
それとも…」
誘ってる??
美桜の耳元に高尾は息を吹きかけるようにそっと囁く。その行動に美桜は顔を赤くすると慌てふためくように離れた。逃げてしまった温もりに高尾は、残念そうに肩を竦めた。
「そんなにあわてて逃げなくてもいいだろ?」
「だっ…だって…」
「だって??」
おどおどする美桜を高尾は腕の中に閉じ込めると伺うように見つめる。その愉しげに覗き込む高尾から美桜は恥ずかしそうに視線を逸らす。
「…かずの意地悪」
ボソリと小さな声で呟かれた言葉に高尾は無邪気な笑みを浮かべてみせた。
「ごめんごめん!
美桜が可愛いことするからついつい弄りたくなって」
そっと高尾は彼女の頬に手を添えると己の方に向くように誘導する。ようやく目があった彼女は恥心で真っ白な肌はほんのりと紅色に染まり、瞳は潤んでいた。
「綺麗だ、美桜。凄い似合ってる。」
さっきの表情から一変、真剣な表情を浮かべる高尾の口から発せられた台詞に美桜は恥ずかしさを残しつつも嬉しそうに笑みを浮かべる。
「かずも…見惚れるほどカッコいいよ」
真っ直ぐに想いを言葉に乗せる。その言葉に高尾はエメラルドグリーンの瞳から視線を逸らす。彼の耳は恥ずかしさからかほんのりと赤く染まっていて、ずっと彼にやられっぱなしだった美桜は予想通りの反応を見せた彼の顔を拝もうとする。
「あっ照れてるのー」
「コラ、見ようとするな」
「ワンワン!!」
高尾と美桜が攻防を繰り広げ始める中、突如としてそれを遮るかのように犬の鳴き声が彼らの真下から聴こえる。その鳴き声に二人はピタッと動きを止め、互いに顔を見合わせると、ゆっくりと視線を足元へ。するとそこには見覚えのある大きな瞳が見上げていたのだった、
「あれ??テツヤのとこの…」
「あの時の犬じゃねーか!!なんでここにいるんだよ!」
そこにいたのは先日黒子が抱えていた一匹の犬。だが周囲を見渡しても誠凛高校のメンバーの姿は見当たらなかった。
嬉しそうに尻尾を左右に振る犬に視線を合わせようと美桜は腰を屈ませる。
「よく見るとテツヤに似てるよね、カワイイ!」
「特に瞳の色がそっくりだよな」
「ワンワン!!」
嬉しそうに鳴き声をあげる犬に手を伸ばすとヨシヨシと美桜は撫でる。それに倣うように彼女の隣に高尾も腰を屈めた。
「お前、黒子たちはどーしたよ?」
「迷子かな?」
「かもな。もしかしたらアイツら探してるんじゃね」
犬を囲んで二人は、この犬の飼い主である彼らを思い浮かべる。すると芋づる式のように浮かんできたのは、本日彼らを誘った仏頂面な我がチームのエースだった。
「真ちゃん遅いな」
「はぁ...ホント遅いね」
高尾が無意識の内に呟いた言葉を聞き美桜は未だに姿を現さない緑間に対して溜息をついた。その様子を見てなのか、意味がわからないと言わんばかりに目の前にいた犬が首をかしげている。
「ここでさ俺達のチームメイトと待ちあわせしてるんだ。
そいつさー...頭はいいんだけど、ちょーっと色々こだわり多すぎる変人なんだよね」
「ワンワン!!」
「お!なに??真ちゃんに興味あるの!?」
「おい、お前ら」
声を上げた犬の反応に気を良くした高尾が前のめりになる。その隣りでは、黒子に連絡をとってあげようかと美桜が携帯を手にとる。そんな彼らの背後に一人の青年が近づくと声を上げた。その声を耳にした彼らは、ようやくかとゆっくりと振り向く。彼のことだからと普段着を予想していた彼らは、視界に入った待ち人の装いに目を見開いた。
「真ちゃん!!って浴衣!?すげぇ!気合い入りまくりじゃん!」
「今日のラッキーアイテムなのだよ。それより…」
ぐっとメガネを押し上げると緑間は訝しげに眉を顰めて彼らを見下ろした。
「何二人揃って地面にうずくまっているのだよ。変人だと思われるぞ」
「うわ...真ちゃんにだけには言われたくないんだけど」
「どういう意味なのだよ?」
「さっきね犬見つけてね...その犬と遊んでたの!ほら!!あれ??いない?」
彼の纏うオーラがピリつくのに気づいた美桜は慌てて事情を説明しようとする。が、再び戻した視界の先にはさっきまでそこにいた犬の姿が綺麗さっぱりと消えていた。思わず驚きの声を上げると美桜は辺りを見渡す。その声に慌てて高尾も振り向く。
「ほんとだ、いない!!」
「お前ら...すぐバレる嘘は見苦しいぞ」
「イヤイヤイヤ!!ほんといたんだって!なぁ、美桜」
慌てふためく彼らに対し、犬の姿を目撃していない緑間は訝しげに眉をひそめる。そんないつも以上に黒いオーラを放っている緑間を見て、信じてもらえないと嘆きながら高尾は美桜に同意を求める。それに対し、美桜は大きく頷いてみせた。
「でも...俺と美桜の目をかいくぐって消えるなんて、すごいなあの黒子犬」
「黒い子犬なのか?」
「違うよ。テツヤが連れているテツヤに似ている犬だよ」
黒子の犬だからか、なにかしら特殊な芸当を持っているのではないかと勘くぐり始める高尾を他所に、緑間は理解不能だと深い息を吐きだした。
「はぁ…何を言っているのだよ。
繰り返すが、すぐバレる嘘は見苦しいぞ」
「ほんとだって!
すげぇ黒子に似てたんだぜ?人懐っこい子犬でさ!」
だが一向に緑間に信じてもらうことができなかった高尾はガクッと大きく肩を落とす。果たしてどうすれば彼に信じてもらえるのだろうかと、頑張る高尾は必然的に大きな声に。その声はたまたま近くにいたある者の耳に届くのだった。
「あの、今子犬って?」
「あ、火神君」
「あれ?火神じゃん!ひさしぶりーでもないか...夏合宿ぶりー」
「美桜さん。高尾君。緑間君」
「テツヤも久しぶり」
言い争いを繰り広げていた彼らのもとに姿を現したのは、火神と黒子だった。息を切らしている彼らを目の前にして緑間は先程以上に眉間にシワを寄せる。
「何故お前たちがこんなとこにいる?」
「てめぇーこそなんでここにいるんだよ!」
「貴様には関係のないことだ。」
「俺だってカンケーねぇーよ」
「はいはい落ち着いて...大きな花火大会なんだから..ばったりだってあるでしょ?」
出くわした途端に噛みつきあう両者の間に高尾は割って入る。人が良い高尾はお決まりになりつつある毎度の光景に小さくため息を零す。対して、美桜と黒子は仲介する気などさらさらなかった。
「まぁ喧嘩するほど仲いいって言うよね」
「火神君。条件反射で喧嘩してる場合ではありません。
二号のことを聞かないと」
「おっ!そうだな...なぁ黒子に似た犬見なかったか?」
黒子の一声により火神は我に返る。黒子と火神は、行方をくらましたテツヤ2号を探し回っていたのだ。そしたらたまたま耳に入った子犬というワード。それを手がかりにできればと思い声のする方へ慌てて方向修正したら美桜達がいたのだったのだ。
「あぁ、さっきまでいたぜあいつ」
「見たのか!!あいつどっちに行った?」
「それが...気づいたらいなくなってて」
「ではおそらくまだこの付近にいますね...探しましょう火神君」
「サンキューなお前ら!!」
高尾の反応に火神は前のめりになる。闇雲に探し回っていた彼らにとっては、ここにいたという情報だけでも有力なものだったのだ。さっきまでここにいたということはまだ近くにいるかもしれない。美桜らに感謝を述べると黒子と火神は慌ただしくその場を後にする。そんな彼らの背を不安げに美桜と高尾は見送る。
「見つかるかな...」
「アイツすばしっこそうだったから結構難航しそうだよな…」
「まったく...騒がしいやつなのだよ...行くぞお前ら...」
だが緑間だけはその件に関して気にも止めず踵を返して歩き出す。そんな彼を見失うわけにはいかないと慌てて二人は後を追うのだった。