番外編
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「…待った?」
夏とは異なり日の長さが短くなり部活が終わる頃にはすでにあたりは暗闇に包まれる季節。互いに部活を終えた二人は校門前で待ち合わせをしていた。先に着いていた青年の存在に気づいた少女は慌てて彼の元へと走り寄った。
「いやぜんぜん。俺も今着いたとこだから」
不安そうにする少女を安心させようと太陽のように笑う青年。だが、彼が嘘をついているのは少女の目から見て明らか。寒さのせいで鼻の頭がほんのりと赤くなっていたのだ。
「ねぇ、和」
一歩少女が彼に近づく。近づいた彼女との距離に、鼓動が高鳴るのを高尾は感じた。すぐに腕の中に閉じ込めたい。抱きしめたい。だが、場所が場所であることもあり、かすかに残っていた理性が働き、ぐっとこらえた。そんな彼の気持ちなど知らない少女は上目遣いで彼を見上げていた。
「ちょっと後ろ向いて目を閉じて」
「えっ」
一体彼女は何をしたいのだろう
ぽかんとする高尾。そんな彼に、いいからいいからと彼女は彼の身体をクルッと反転させる。
「目、ちゃんと閉じた??」
「閉じた閉じた」
「ホントに??」
「ホントだって! 」
しつこく彼女は目を閉じるように促す。それに適当に相槌を打ちながらも高尾はゆっくりと目を閉じる。その気になれば彼女は背を向けていても、閉じてるか閉じてないか見えてしまう。だからこの手の嘘は彼女を前には通用しないのだ。
素直に目を閉じた高尾は、何をされるのかドキドキしながら、彼女の気配を探る。
ガサガサと紙を開ける音が聞こえる。一体なんだろうと思う高尾の首元がすぐにふわりと柔らかいものに包まれる。それは外の外気ですっかり冷たくなっていた首元を温めるのだった。
「えっ…」
高尾はそっと首元に触れる。手から伝わる感触に当たりをつけた高尾は状況が理解できずに困惑する。そんな困った様子の彼を見て、少女は愉しげに笑う。
「目、開けていいよ」
彼女の許しを得て、高尾はゆっくりと目を開ける。すると、いつの間にか目の前に回っていた彼女は照れくさそうに頬を染めていた。
「なぁ、これ…」
「あげる。私からのプレゼント」
未だに信じられないと己の首に掛けられたマフラーを手に取り、目の前の彼女を見る高尾。そんな彼を見て、サプライズが成功したと嬉しそうに彼女は微笑んだ。
「これで少しは寒さをしのげるでしょ?」
彼女にはやはり虚勢を張っていたことは筒抜けだったらしい。さっきまで凍えていた身体がポカポカと暖かい。マフラーのお陰もあるかもしれない。だがそれ以上に、彼女の想いが詰まったマフラーということが大きいかもしれない。
「ありがと、美桜」
嬉しそうにマフラーに顔を埋める高尾を見て、美桜は目尻を下げた。だが、吹き付ける冷たい風に彼女は身体を一瞬震わせる。
…クシュン
可愛らしいくしゃみに高尾は目を丸くする。対して、その音を出してしまった美桜は恥ずかしさで顔を真っ赤に染めていた。
「美桜、こっちおいで」
そんな彼女を高尾は手招きする。それに導かれるように近寄った美桜の手を取ると高尾は彼女を腕の中に閉じ込めた。
「えっ…」
「ちょっと待ってな」
驚く美桜を置いてけぼりにし、高尾は己の首に巻き付けられていたマフラーを外す。そしてそれはポカンとする彼女の首に優しく巻きつけられていく。
「ちょっと、それだと…」
「黙ってみてなって」
あげた意味がないと声を上げる美桜を片目を瞑って黙らせた高尾は、マフラーを巻く手を止めなかった。
「ほら、これなら二人で暖かくなれるでしょ」
得意げに笑う高尾。彼の手により1つのマフラーは彼らの首元に巻かれていた。
一瞬で寒さなんか吹き飛ぶ。
先ほどとは異なるほど暖かい。これは首元に巻かれたマフラーのせいなのか、それとも身体が密着するほど至近距離にいる目の前にいる彼のせいなのか。
「…ホントだ、凄く暖かい」
美桜は火照っている頬を隠すようにマフラーに顔を埋める。
「だろー!」
そんな可愛らしい彼女に高尾は満足げに手を伸ばす。その手はマリーゴールド色の髪に辿り着く。そっと壊れ物を扱うかのように高尾の手は彼女の髪を梳く。その手つきが心地よく、美桜は嬉しそうに目を細めた。
そんな彼女の態度に気を良くした高尾は、右手をそっと彼女の頬に添えた。ひんやりと冷たかった頬が大きく暖かい手に包まれる。
「なぁ、美桜」
「ん、なに?」
呼ばれた美桜は伏せていた目を開ける。するとそこには悪戯っぽい笑みを浮かべる彼がいた。
「これがあればこの行為も許されるよな」
意味深なセリフを溢した高尾は、そっと顔を近づけた。そして、マフラーで上手く隠れているのをいいことに、彼はリップ音とともに唇を落とすのだった。
もちろん不意打ちを喰らった美桜は顔を真っ赤に染める。だがどこか嬉しそうに頬を緩めていた。
「誰かに見られたらどーするのよ」
「見せつけてやればいいさ。
俺らの間に付け入る隙はないってな」
口角を上げた高尾は、魅惑的に見える唇を奪う。
もうすっかり彼のペースに。それでも彼の時折見せてくる独占欲に、どこか嬉しく思ってしまう。それほどまでに美桜は彼に溺れていた。
「…そーだね」
負けじと一瞬の隙を狙って美桜は動く。軽く触れる程度の接吻をした美桜に、不意をつかれた高尾は目を見開く。その彼の反応に美桜はしてやったりの表情を浮かべた。
普段は見せないだけ。彼に触れたい、他の女ではなく自分だけ見てほしい。嫉妬心だって独占欲もある。
「私だって独占欲あるよ?
今日くらい独り占めしてもバチあたらないよね?」
今日は1年に一度のキミの大切な日だから。
今日1日くらい浮かれてもいいよね。
あまり彼女の口からは発せられることがない言葉の数々。驚きのあまり大きく目を見開いていた高尾。だが、徐々にダークブルーの瞳は嬉しそうに細められた。
「あぁ、当たんねーよ」
ニヤリと口角を上げた高尾は、上目遣いで見上げてくるエメラルド色の瞳を見る。何か期待するかのように熱が籠った彼女の瞳はとても魅惑的で、美しくて。無自覚に煽ってくる彼女を前に、なんとかギリギリ残っている理性を保つのはもう限界で。
「あぁー、持ち帰りてぇー」
華奢な腰に手を回し彼女を抱き寄せた高尾は、ボソッと嘆くように本音を溢す。そんな彼を見て、美桜は小さく笑みを溢す。
「ウインターカップが終わるまではダメ」
「…わかってるよ」
顔を上げずに拗ねる高尾の背に美桜はそっと手を回す。
ハッピーバースデー、和
耳元でそっと囁かれる言葉に、高尾はパッと顔を上げる。すると幸せそうに目尻を下げる美桜がいた。
幸せ者だな、俺
完全に彼女のペースに乗せられてしまったが、たまには悪くない。高尾はこの幸せを堪能するように、ギュッと抱く力を強めるのだった。