桐皇学園対海常(IH準々決勝)
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「負けねぇーすよ、青峰っち」
「あ?
随分と威勢がいいじゃねぇか、黄瀬。
今まで一度でも俺に勝ったことあったか?」
各地区予選を勝ち上がったチームだけが上がれるインターハイの舞台。準決勝の今、そのコートでは中学時代のかつてのチームメイトである青峰と黄瀬が向き合っていた。
「今日勝つっすよ!
なんか負けたくなくなっちゃったんすよ.....
無性に」
挑発気味に笑う青峰を前にして黄瀬は黄金色の瞳を細めた。青峰の言うとおり、黄瀬は一度も目の前の彼に勝ったことはない。だからこそ今日こそ勝ちたい。だがそこには個人的な想い以上に別の意味も含まれていた。
「5分前になったら呼べ」
準決勝前、笠松はそう言い残すと控室から静かに出て行った。その後ろ姿に黄瀬は疑問を抱き、その問いに対して武内が意味深な言葉を漏らす。
「まぁ〜、それだけじゃないがな…あいつは…」
その言葉に突っかかりを覚えながら黄瀬は笠松に言われた通り5分前に、彼を呼びに控室を出た。探した先では笠松は、廊下にあるベンチに座っていた。
「先輩、あと5分す」
「おう」
黄瀬の声に対し笠松は答えるものの、そこから動かず俯いたままだった。この光景はIHが始まってから、試合前によく見かけるようになったものだった。そんな彼に黄瀬は思わず疑問を口に出していた。
「IHに来てからよくそうしてるっすね」
「うちは去年のIH、優勝すら望める過去最強のメンバーだったが結果は知ってるか?」
重たい口を開いた笠松は黄瀬に唐突に問いを投げかける。それに対し黄瀬はかすかな記憶を思い起こしながら答える。
「確か、初戦敗退…」
「あれは俺のせいだ…」
笠松は顔に影を落とす。去年のIH初戦。一点差の土壇場でパスをミス。それを皮切りに海常は逆転を許してしまった。先輩達の涙、OB達からの非難が部をやめようと思うほど彼を追い詰めた。だが、そんな彼を職員室に呼び出した武内はあえてキャプテンに指名した。
『だから…お前がやれ…』
「その時に俺は決めた。
償えるとは思ってねぇ、救われるつもりもねぇ…
それでもIHで優勝する。
それが俺のけじめでキャプテンとしての存在意義だ。」
「ふーん…」
笠松の心に秘めた決意を聞いた黄瀬はゆっくりと背を向ける。
「俺は青峰っちに初勝利が目標ってくらいっす」
「あっそ」
「死んでも勝つっすけど…」
「…あっそ」
歩き出した黄瀬の言葉がずっしりと重くなっていく。その彼の裏に込められた真意に気づいた笠松は1人静かに口角を上げ、ゆっくりと立ち上がったのだった。
*****
「いやー、やっぱりIHとなるとすげーな」
「ホントだね」
一方、会場の観客席の方には合宿を抜け出していた美桜と高尾の姿があった。はじめてくるIHの会場。一歩足を踏み込んだとたん、彼らを包むのは凄い歓声と熱気。IH予選とは比べようもならない会場の雰囲気に彼らは圧倒され飲み込まれてしまっていた。
「さて、お目当ての試合は…この後だな...
お!丁度2席空いてるじゃん!ここ座ろうぜ」
咄嗟の高尾の機転。彼が指を差した先にはちょうど2席の空席があった。促されるまま、美桜はその席に座った。そしてすぐにやっていた試合は終わり、海常と桐皇学園の選手がコートに出てきた。コートの真ん中では黄色い髪の青年と青髪の青年が対峙してる姿が見えた。
「なぁ?黄瀬って青峰に勝ったことあんの?」
コートを静かに見つめながら隣に座る高尾が尋ねる。その問いに美桜は昔を懐かしみながら答える。
「涼太は、大輝のプレーに惹かれてバスケを始めたんだ。毎日、1on1を挑んでたけど勝ったことはないんだ」
思い浮かぶのはかつての光景…
毎日毎日懲りもせずに青峰に1on1を挑んで、『もう一回!もう一回!』とすがんでいた黄瀬。それに対し、青峰も嫌だとは言わず時間ギリギリまでやっていた。そんな彼らがするバスケを美桜は見ているのが好きだった。二人とも心から楽しんでいるように見えたから。
「そうなのか...じゃあこの試合、どうなるか見物だな」
「確実に二人のエース対決だろうね」
現実に引き戻された美桜は淋しげにコート上にいる彼ら二人を見続けた。
『それでは準々決勝第2試合、海常高校対桐皇学園の試合を始めます。』
会場に試合の開始を知らせるコールが響き渡る。
今ここで、黄色の閃光と群青の閃光の戦いの火蓋が切り落とされた。