夏合宿
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「…神田」
呼ばれて美桜は顔を上げる。
太陽の光が降り注ぐ真夏日。風が通らない体育館で仕事に没頭していた美桜は額に伝る汗を拭いながら、大坪の方へ駆け寄った。
「どうかしました??」
「…実は」
大坪は険しい表情を浮かべた。その表情にただ事ではないと美桜は気を引き締めた。その脇では続々と外周に行っていたメンバーが戻ってくる。だが、その中に1人姿が見当たらなかった。
「炎天下の中だったせいか、高尾がぶっ倒れてしまってな。」
「へぇ!?」
「だからちょっと休ませてくれないか?
少し目を離したらすぐに無茶するからな」
溜め息混じりに嘆かれる言葉。それに美桜はヤレヤレと少し肩を竦めると満面の笑みを浮かべた。
「任せてください。しっかりと司令塔を休ませますので」
「…頼んだぞ」
そう言い切った美桜は胸を張り大きく頷いて見せた。その彼女の笑みを見た大坪は若干顔を引き攣らせたのだった。そんな引き気味な大坪を気にせず、美桜は駆け出す。外周ルートを逆走すれば彼に出くわせるだろう。美桜は作っておいたスポーツドリンクを手にし、外へと出た。
「高尾君!!」
見つけた!と美桜は声を大にし叫んだ。大坪が危惧した通り、彼は息を切らしながら懸命に走っていた。だが、足取りはどこか危なっかしく、少し気を抜いたら倒れそうに見えた。
「えっ!?」
美桜の存在に気づいた高尾は目を見開き驚く。が、今足を止めたら倒れそうなくらい体力的に限界を超えているのを把握していた高尾は走るのを止めるわけにはいかなかった。
「あれっ?美桜ちゃんどうしたの??」
ヘラッと笑う高尾。だが、強がってるのは見え見え。美桜は並走しながら声を掛ける。
「ゆっくり速度落として」
「えっ?!」
「…いいから」
驚く高尾に美桜は鋭い声を浴びせる。その気迫に押され高尾は言われるがままに速度を落とした。それを満足気に見ながら美桜は持ってきた物を手渡した。
「はい、ひとまずこれ飲んで」
「…スポーツドリンク?」
「うがぁ!!」
「サッサと飲みなさい!!」
目を丸くする高尾に、美桜は強引に押し付けた。苦しいと待ったを掛ける高尾に美桜はお構いなし。それに懲りた高尾はようやくドリンクを持った。
「…」
「…」
「....もしかして怒ってる??」
無言の現状に耐えきれず、高尾は恐る恐る尋ねる。その問いに美桜は満面の笑みを浮かべた。
「なに?もしかして心当たりあるの?」
「…」
「…あるなら私の言いたいことわかるよね?」
淡々と抑揚のない口調で投げかける美桜に高尾は背筋を凍らせた。目が全く笑っていないのだ。感情をぶつけて怒ってくれたこの前よりはるかに恐ろしく高尾は思えた。
「体調管理できずに倒れちゃダメでしょ。
なのに無理するなんてありえない。」
「…うっ」
「チームの司令塔が倒れたら誰がゲームメイクするの?
もう少し自覚もって」
「………はい」
「わかればよろしい!」
何も言い返せないと高尾は素直に頷く。そんな彼を見下ろす勢いで美桜は命じる。
「ということで今から高尾くんには私の機嫌を損ねた責任を取ってもらいます」
「え?なにすんの?」
「今から私と涼みに行く」
「え...でも練習」
「大坪先輩に、ここでまた倒れても困るから無茶する前にしっかり休ませてくれって言われたの」
「うわっ!!まじかよ。後でどやされるじゃん俺!」
「それだけ皆に心配されてるんだから。ちゃんと反省してください。」
「...う...はい」
「よし、じゃあ行こ。いいとこ見つけたんだ」
腰に手を当てて美桜はきっぱりと言い切った。その言葉に高尾は素直に頷く以外のすべを持ち合わせていなかった。借りてきた猫のように固まる高尾。そんな彼の目の前で美桜は表情を和らげる。すると重苦しい空気が軽くなった。
すっかりと元通りになった美桜は無邪気に笑うと高尾の手を軽く引くのだった。
*****
「おい、緑間」
「なんでしょうか?」
「あいつら良い加減呼び戻してきてくれないか?」
呼ばれた緑間はシュートの手を止める。そんな彼に困ったように大坪が目尻を下げた。あいつら、というのは数時間前に姿を消した美桜と高尾の事だ。少し休ませるよう頼んだのはいいものの、一向に帰ってくる気配がなかったのだ。
たく...迷惑がかかる二人なのだよ。
「わかりました。行ってきます」
小さく溜息を零した緑間は素直に聞き入れると体育館の外へ。そして美桜が行きそうな場所を手当り次第探した。
「見つけたのだよ」
降り注ぐ太陽の日から逃れるかのような大きな木。新緑の葉が照らされて輝きを放つ。その木の木陰で、幹に凭れ掛かり気持ちよさそうに眠る2人。互いに寄り添う二人の手は添えられており、風が吹くとマリーゴルド髪と黒髪が心地よさげに揺れた。
その光景に緑間は起こすのに思わず躊躇してしまう。
「緑間、見つかったか?....っ...ん??」
遅れて到着した宮地達は、目の前の光景に言葉を失う。が、暫くして沸き起こるのは苛立ち。ピクピクと片眉を動かし、顔を引き攣らせながら宮地は拳を握りしめる。
「木村...パイナップルあるか?」
「スイカならあるぜ!」
「よし、よこせ」
皆で食べようと思って持ってきたスイカを木村は手渡す。それを貰った宮地はスタスタと真っ直ぐに高尾の前へ。そして重さに任せ、頭上に落とした。
ドン!!!
「いっってぇーーー!!」
鈍い音と同時に高尾は激痛に悲鳴を上げた。強制的に眠りから目を醒ます羽目になった高尾は目の前の光景に目をキョロキョロさせる。
「って?え?皆さんどうしたんすか?」
「高尾。休憩していいとは言ったが...ハメ外しすぎだ。」
「てめぇー、なにやってんだ、轢くぞ!!」
状況を理解できない彼に大坪と宮地が畳み掛けていく。ドスの利いた声色、目元が全く笑っていない宮地の笑み、高尾は徐々に血の気が失せていくのを感じた。
「えっと...
その...
とりあえずすんませんでした!!」
「コラー!!待ちやがれ!!」
慌てて立ち上がった高尾は急げと逃げるように走り出す。それを宮地と木村は逃がすものかと追いかけるのだった。
そのバタバタ劇に美桜はようやくムクッと起き上がる。眠たそうに目を擦りながら、かろうじて視界に緑間を捉えた美桜は不思議そうに首を傾げた。とろんとしたエメラルドグリーンの瞳。緑間は大きく肩を落とした。
「あれ?真太郎...どうしたの??」
「はぁ〜
お前らが帰ってこないから探しに来たら、二人仲良く寝ているとはいいご身分なのだよ。」
「え...あっ!いつの間にか寝ちゃったみたい」
時間を確認した美桜はえへへと笑う。が、周囲に響く音に辺りをキョロキョロとした。するとギャァァァと絶叫する高尾と、しごく宮地と木村の姿があった。
「あれ?なんか騒がしくない??」
「高尾が先輩達にしごかれてるのだよ」
「え?なんで??」
キョトンとする美桜に緑間は密かに撮った画像を見せる。それを見た美桜の顔はどんどん赤く染まっていった。
「真太郎...それすぐ消して!」
「ダメなのだよ。
桃井にでも送るか?」
「ぜったい...ダメーーー!!」
緑間の携帯を奪おうと美桜は手を伸ばす。だが手を頭上に上げた彼から奪うことは到底できなかった。
「その携帯一瞬貸して!!」
「ダメなのだよ」
「ケチ!!」
美桜はムッと頬を膨らませながら睨みつける。それを横目に緑間はメールを片手で作成し、写真を添付したものを送信するのだった。