秘めた想い
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「んで、このままバスケと関わらない予定だったんだけど... まさか、マネージャーになるとはね」
盛大に美桜は溜息を吐き出した。そして目線を斜め上に上げた美桜は、高尾を横目に見ながら自嘲する。
「馬鹿でしょ、私?
目の前の現実に耐えられなくて逃げたの」
とても綺麗な悲しげな笑み。だがそれはとても儚く月の明かりで今すぐ消えていってしまいそうに高尾は思えた。思わず高尾は彼女との距離を縮める。そして彼女に手を伸ばした。
「馬鹿じゃねぇーよ。必要だったんだよ、
考える時間が...現に今向き合ってるじゃん。」
彼女の耳元に優しく語りかける。その彼の腕の中には美桜がすっぽりと収まっていた。
彼の温もりに、優しさに、美桜の目頭は熱くなる。それと同時に走馬灯のように蘇るのは青峰との思い出。だがそれは一瞬。それ以上に蘇るのはたった最近の半年の思い出だった。
いつもいつも私を正しい道に導いてくれる。
優しい言葉をかけてくれ、笑わせてくれる。
美桜は彼の温もりに身を預けながらそっと言葉を投げかけるように紡いだ。
「なんでだろ?
どうしてもちらついちゃうの、あいつとの楽しかった思い出が。でもね...」
美桜はゆっくりと顔を上げる。
徐々に込み上げてくる想いで美桜の瞳が潤む。そのエメラルドグリーンの瞳に映るのは空に浮かぶ月。高尾は魅惑的な瞳に息を呑んだ。
「それ以上に私の頭の中を占めるのは高尾君なの。
こんな曖昧な想いで伝えるのは良くないかもしれないけど...
私は高尾君の事が好き」
嗚咽混じり吐き出される美桜の想い。それを聞いた高尾は目を丸くし驚く。でも、すぐに目を細め真剣な眼差しで彼女を見据えた。
「いいのか?青峰じゃなくて...俺で」
ホントに俺でいいのか?
彼女の言葉を高尾は信じられなかった。不安で一杯な高尾は念押しし聞き返す。もう一度よく考え直したほうがいいと言うように。
一瞬彼らの間を吹き付けるように通る風で互いの髪が靡く。その僅かな瞬間美桜は気づく。不安そうにダークブルーの瞳が揺れ動いていることに。
どうしよう…高尾くんを不安にさせてる…
ちゃんと伝えなきゃ…
「高尾君じゃなきゃ嫌なの!!」
美桜は空いている片方の手で高尾のシャツを掴むと、ありったけの声を振り絞り美桜は叫んだ。彼の不安が吹き飛ぶ様に。エメラルドグリーンの瞳から涙がとめどなく溢れ出る。その涙は高尾のモヤモヤとした気持ちを一気に吹き飛ばした。
「ハハ...それホント?メチャ嬉しい」
高尾は照れくさそうに笑った。彼女の告白を一瞬でも疑ってしまったのを高尾は激しく後悔した。
未だに肩を揺らし、美桜は涙を流す。高尾はそっとその頬に手を伸ばすと親指で伝る涙を拭った。
「...う、うん。ほんとだよ。
....好き」
静かな声で美桜は紡いだ。高尾はそんな彼女をきつく抱きしめた。大切な者を離さないようにと。
「俺を選んでくれてありがとな。
俺も美桜ちゃんの事好きだ。
出会ったときからずっと…
ぜってぇー後悔させないから...
幸せにするから...」
美桜の耳元で囁いた高尾はゆっくりと抱く力を弱めた。そして彼女の腰に手を回したまま高尾は美桜に改めて向き直ると大きく深呼吸をし、高ぶる気持ちを落ち着かせた。
「美桜ちゃん、俺の彼女になって」
熱の籠もったダークブルーの瞳が真っ直ぐ美桜を見据えた。その瞳から美桜はエメラルドグリーンの瞳を逸らすことなく、小さく頷いてみせた。
「...喜んで」
嬉しさが込み上がって美桜の瞳から涙がまた溢れる。その涙を高尾は困ったように目尻を下げながら、拭った。そしてずっと添えられていた彼らの手はいつの間にか指を絡めて握り合っていた。
高尾はゆっくりと彼女に顔を近づかせる。それに気づいた美桜はそっと目を閉じる。
ようやく互いの想いが通じ合った彼らは、淡い月明かりが照らす下、そっと唇を重ねた。
*****
「でもホントにいいの?」
こんな中途半端なままでいいのかと美桜は再度尋ねる。それに対し、高尾は小さく鼻で笑うと彼女を握る手の力を込めた。
「別に構わねぇーよ。やっと手に入れたんだ。たとえ青峰に心が揺れ動いたとしても手放す気なんてさらさらねぇーよ」
「大丈夫だよ。私の心は高尾君のものだから」
「たく、俺の彼女ほんとかっこよすぎ。
というか...」
サラッと恥ずかしげなく言い切る美桜に高尾は嬉しそうに笑う。だがその後急にトーンを戻すと隣にいる美桜に目を向けた。
「俺の名前呼んでよ、美桜。
中学時代の奴ら皆、下の名前で呼ばれてるのに俺だけ名字なの...嫉妬で狂いそうだぜ」
グッと顔を近づけた高尾は彼女の耳元で囁いた。それは普段の声とは違い色気が混じったテノール声。慣れなさすぎて美桜はビクッと身体を震わした。彼の甘い声は、麻薬のように彼女の全身に染み渡っていたのだ。
「えっと今?」
「言うまでこのまま」
恥ずかしいと照れくさそうに視線をそらす美桜。だが高尾がそれを許すはずがなく、逃げ場をなくすように美桜を抱きしめた。小悪魔のように悪戯っぽい笑みを浮かべ、甘える声を出す高尾、そんな彼の一面に美桜は身体全体が熱を持つのを感じた。
「ほら?照れてないでさ」
「………」
もぞもぞと身動きしながら美桜は金魚のように口をパクパクさせる。が、その動きは暫くして収まる。
「……かず」
バタリと動きがなくなった彼女を覗き込もうとした高尾は、聞き漏らしそうなか細い声に固まった。
「えっ、いま…」
「言ったんだから離れてよ!!」
「やっべ…
俺、今サイコーに幸せだわ」
顔を上げた美桜の顔はゆでダコのように真っ赤。そんな彼女が可愛くて愛おしくて高尾は嬉しそうに今までで一番といっていいほど強く抱きしめたのだった。