秘めた想い
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ザザー...
静寂な浜辺に打ち寄せるさざ波の音。日がすでに沈んだ海では、揺れる波が月の光を浴びガラスの破片のように綺麗に輝いていた。
美桜はその月明かりに照らされる浜辺に足を踏み入れる。サクサクと心地よく耳に入る音。だが、それに反して美桜の鼓動は緊張で高鳴っていた。この想いが果たして届くのだろうか?拒絶されたらどうしようか?頭の中は不安で一杯だった。
「…美桜ちゃん」
柔らかく心地よいその声は不思議と美桜を落ち着かせる。呼ばれた美桜はゆっくりと顔を上げる。するとその先には待ち人がいた。いつからいたのだろうか?彼のダークブルーの瞳は海に向けられていた。浜辺に右膝を立てて座る彼の黒い髪は潮風で靡く。彼女を見つけた高尾は海に向けた視線を彼女へと向けた。
「ほら、いつまでもそこに突っ立ってないで座んなよ」
小さく笑った高尾は自身の隣を軽く叩くと、彼女へと手を差し伸べた。その手の方へ美桜はゆっくりと誘われるように歩み寄る。そして銀色の光に照らされ輝く彼の手に自分の手を重ねるのだった。
生半可かもしれない、それでも聞いて欲しい。
もう誤魔化せない、心に秘めてきた想いを。
苦しいんだ...
胸が張り裂けるくらい...
貴方のことが好きすぎて
本当はずっと喉から手が出るほどキミを欲していた。だけど、キミが想うのは別の人。勝ち目がないと勝負をする前に放棄した。この今の関係性を壊したくなくて、拒絶されるのが怖くて。でももう自分を騙し続けるのはやめる。
限界なんだ、気持ちを押し込めておくのは。
触れたい、抱きしめたい、いつもそばにいて欲しい、そして名前を呼んでほしい...気が狂いそうなほど君が欲しいんだ。
どうかこの想いよ届いて
『ずっと前からキミのことが好きなんだ』
*****
互いに座り込んだものの、口火を切ることもなく刻々と時間が過ぎていく。聞こえるのは、打ち寄せる波の音、そして自身の鼓動。目の前に広がるのはこの想いがちっぽけに思えるほど広大な海。その海からくる潮風が二人を包み込むように優しく吹き付ける。二人を繋ぐのは、添えられるように置かれた手と手。夏夜の海辺は肌寒い。だが、互いの手から伝わる温もりでいつまでもここに留まれる気がした。
「なぁ?」
ふと高尾が口を開く。潮風に乗った彼の声のトーンは落ち着いていた。
「最初にあった時のこと覚えてるか?」
確認するかのように、答え合わせをするかのように、高尾は問いかけた。その彼のダークブルーの瞳はジッと海に向けられたままだった。
「……もちろん、覚えてるよ」
その投げかけに美桜は目線を隣に向ける。そこにいるのはあの頃と変わらないキミ。美桜はゆっくりと海に視線を戻すと、そっと大切に言葉を紡いだ。
忘れるはずがない。目を閉じればいつも思い浮かぶ。一人、ゴールの前で懸命にドリブルをするキミの姿を。わざわざ手を止め、駆け寄ってボールを差し出してくれたキミの姿を。
手を引っ張ってくれたから、手を差し伸べてくれたから、私は今ここにいるんだよ…
一生懸命バスケに向き合う彼はあの頃の美桜にとって輝いて見えた。一瞬でモノクロの世界が鮮やかに色づくほどに。そのひたむきに努力し続ける姿は親しくなった今も変わらない。
美桜は嬉しそうに目を細めた。
「高校に入って緑間倒してやる!って無我夢中にバスケ打ち込んでたんだ。普段は外野の視線なんてスルーしてたんだけど、あの時は無視できなかった。」
高尾はゆっくりと視線を隣に向ける。
「俺のプレーをじっと見つめる美桜ちゃんの瞳に惹かれたんだ」
高尾のまっすぐな言葉。その言葉に驚いた美桜は慌てて彼の方へ向いた。エメラルドグリーンの瞳が瞬く。だが、あの頃と違いその瞳はくすんではいなかった。澄んだ透明なエメラルドグリーン。その瞳は見ていて飽きることがないだろうと思うくらい、高尾にとって綺麗にみえた。
「っていうかまさか緑間も美桜ちゃんも同じ学校とは思わなかったけどな」
「ホントだね。真太郎に連れられて体育館に行ったときは驚いたよ」
「...たく、知ってれば俺が連れてきたのにな」
高尾はあの頃を思い出すと自嘲気味に笑い、ヤレヤレと肩を竦めた。
『監督、マネージャーに推したい人がいます』
部活初日に緑間は中谷に面と向き合っていた。そして彼が連れてきたのが美桜だった。あの頃はただただ驚いただけだった。だが、改めて振り返ってみると、その役目を担いたかったと思う自分も少なからずいた。嫉妬をした。バスケに戻るきっかけを作ったのが緑間だということに。
「高尾君がいなかったら引き受けてなかったよ、マネージャー」
だが高尾の様子と裏腹に美桜はふんわりと微笑む。無理やり連れてきたのは確かに緑間だ。だが、マネージャーになろうと決断したのは体育館で高尾を見た時だ。
彼のバスケを間近でみたい、応援したい
ふと沸き上がった衝動が美桜を突き動かしたのだった。
「ねぇ、私の話は聞いてくれる?」
意を決したように美桜はようやく口火を切った。彼を呼び出した本題に入るために。だが不安なことを拭えず、美桜の表情は強張っていた。
「…あったりまえだろ」
高尾は添えられている彼女の手を軽く握る。大丈夫だと言い聞かすように。
「…ありがと」
美桜はその手を握り返す。そして彼の見守るかのような優しい眼差しに後押しされるように美桜は重い口を開く。その内容は今まで彼女が避けてきたもの。誰に対しても決して口を硬く閉ざしてきた、彼女自身の過去話だった。