夏合宿
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「今日から体育館練習は予定を変更して秀徳高校と合同練習よ!!」
「美桜、良くもやってくれたのだよ」
「まじかよ...」
「…二人共頑張って!!」
体育館で相まみえるのは誠凛と秀徳。
相田の提案を美桜はさっそく中谷へ伝えていた。中谷はその提案をすぐに受け入れた。そして秘密裏に進められた合同練習は見事に実現した。この仲介人が美桜であるのは明らか。顔を引き攣らせる高尾の隣では、顰めっ面で緑間が彼女を睨みつける。それをどこ吹く風で美桜は受け流した。
*****
アイツ、1on1とかしたっけ?
高尾はこの光景に唖然とする。黒子はボールをタップすることをせずに緑間と向き合っていたのだ。ボールを持った黒子はドリブルをする。が、黒子のドリブルは遅く高尾は拍子抜け。一気に差を詰めた高尾が黒子からボールを取ると緑間へと回した。
「ふざけたプレーをするようになったな」
弾道シュートを決めた緑間は黒子の脇を通りながら言葉を吐き捨てた。だが、黒子は真剣な眼差しをしていた。
「ふざけてません。
ただ僕自身がもっと強くなりたいんです。」
「…笑わせるな。
青峰に負けて何を思ったか知らんが…
黒子、お前の力などたかが知れているのだよ。
それを自覚したバスケをしていたはずだが?
それでももっと頑張ればなんとかなると思ったか?
1人で戦えない男が、1人で強くなろうなどできるものか」
そう言い捨てた緑間はもう黒子を見ることはなかった。
もちろん、黒子の予想外のプレーに美桜は目を瞠った。だが、それ以上につっかかりを覚えたのは火神の姿が見当たらないことだった。
「火神は外に走りに出ているようです。
なにか隠しているのでしょうか?」
「…違うな。
火神の武器は跳ぶ度に高さが増すジャンプ力だ、しかも試合中に。
あれは気合や根性といった精神論ではなくちゃんと種がある。
それに気づいての仕込みだろ?」
その点を大坪が中谷にぶつける。が中谷自身、相田の意図に気づいていた。
「脚力の強化ですね?」
「あぁ、だろうな」
火神の超人的な飛躍力を支えるために必要不可欠なのはその土台作り。もし、彼が飛ぶための体力をつけたら間違えなくキセキの世代に対抗できるだろう。そして完全に緑間の天敵になる。
だが今後火神だけをマークするわけにはいかなくなるだろう。美桜らは鋭い眼差しでコートにいる一人の人物を見つめた。
「…木吉鉄平、恐ろしいやつが戻ってきたな」
誠凛7番、木吉鉄平。
彼は無冠の五将の一人で、鉄心という異名がついている。
『無冠の五将』
中学時代に「キセキの世代」と渡り合った選手5人に付けられた総称だ。彼らは天才と呼ばれるほどの確かな実力を持ちながらも、「キセキの世代」の才能の前にかすんでしまったのだ。
今まで誠凛はインサイドが弱くそこが弱点であった。しかし木吉が加わったことで弱点どころか強みになる。ますます次の誠凛との戦いはこの前以上に難しい試合になるに違いない。でも美桜は負けるなど微塵たりとも思わなかった。毎日頑張る選手の練習風景を見てきているのだ。彼らの頑張りが美桜にとっては一番だった。
コートを見る彼女の頬は無意識のうちに緩んでいた。
******
「...ぷはぁー...生き返るわ〜」
高尾は湯船に深く浸かった。酷使した身体全体から疲れが一気に取れていく。高尾は身体を脱力させる。だが、一緒に湯船に浸かる者を見て小さく息を零した。
「っーかいつまで膨れてるんだよ...流石にそろそろうぜぇーから」
げっそりと呆れながら隣を横目に見る。そこには仏頂面の緑間、そして近くにはラバーダックがプカプカと気持ちよさそうに浮かんでいた。
だが、緑間はずっと黙りこんだまま。ジッと目を閉じている彼に高尾はうんざりしながらも、先程の練習風景を思い起こしていた。
「しかし黒子...普通のプレーはからきしだな。ミスディレクションっていう反則技持ってるのに」
話を聞いてはいたがここまでとは思わなかったのだ。果敢にドリプルをしシュートをする黒子だが、ことごとくダメだったのだ。ここでふと高尾はあることを思いつく。
「っかミスディレクション抜くとき使えばいいじゃん。見えないドリブルとか無敵じゃねぇ!?」
「それは無理なのだよ。」
「え?なんでだよ」
我ながら名案だと思う高尾。だが、それはようやく重たい口を開いた緑間によりバッサリと切り捨てられた。
「黒子がなぜタップパスしかしないかわかるか?
それはボールから意識をそらすことができないからだ。」
投げかけるように問いかけた緑間は、キョトンとする高尾に対し説明をする。
「試合中...もっとも目を離してはならないものはボールだ。つまりもっともコートで存在感のある物体なのだよ。
だから黒子はボールをけしてもたない。
もし持てばミスディレクションが発動できずたちまちボールを奪われてしまうだろう。
だが....」
口を噤んだ緑間は鋭い眼差しになり、こう続けた。
「逆にその弱点を克服する方法があるとしたら恐ろしい進化を遂げるかもしれない。」
「それはいいけど...」
黒子が決してボールを持てない理由はわかった。だが、緑間が話しかけている方向が問題だった。高尾は風呂場の縁にだらんと伸ばした体勢のまま、彼に呆れた眼差しを向けた。
「さっきから喋ってる相手...それライオン」
その指摘に緑間はギクッと身体を強張らせた。隣にいると思いこんで話していた緑間。だが、実際緑間が目を向けていたのはお湯を一定の割合で注ぐライオン像だった。
「なぜ言わなかったのだよ、高尾!!」
「だって見てて面白かったからさ」
緑間は立ち上がると鉄拳を落とそうとする。だが、眼鏡を掛けておらずぼやけた視野で高尾を捉えるのは困難だった。高尾はケラケラと笑いながら意図も容易く拳をかわす。そして、笑いながら風呂場を後にするのだった。
******
「相田さん...」
「あら?美桜ちゃんじゃないの」
一方で女子風呂の方では、互いの仕事を終えようやく一息付ける二人が出くわしていた。
「お疲れさまです、相田さん」
ニコリと微笑んだ美桜は湯船に浸かると背筋を思い切り伸ばした。そんな彼女に相田は小さく笑いかけた。
「あらぁ〜そんなかしこまらなくていいのよぉ〜。
リコって呼んで」
「えっ…でも…」
「いいからいいからぁ〜」
「じゃあ...リコさんで」
押し切られた美桜は照れくさそうに呼ぶ。その呼び方に相田は満足げに頬を緩ました。そんな彼女に美桜は単刀直入に尋ねる。
「あの…火神君を浜辺でずっと走らせてるのは何でですか?」
「あら、わかってるんじゃないの?」
「脚力アップですよね...最後のクォーターまで飛べるために...でもそれだけじゃないはず...」
「さすがね。中学時代騒がれてただけあるわね」
「リコさん知ってたんですか...」
相田の言葉に美桜は目を丸くし驚いた。そんな彼女に目尻を下げた相田は遠い目をした。
「そりゃあ、『絢爛豪華な疾風のドリブラー』は有名だったし注目してたからね...」
コート上を楽しそうに駆け回る姿。観客席からでも彼女は誰よりも輝いて見えた。だからこそ彼女がいないバスケットコートはいつも以上にとても大きく見え、寂しくも思えた。
「で?なんでやめたのかしら?」
スッと細まる相田の瞳。鋭い視線を向けられまるで自分が蛇にでも睨まれている蛙になった気分に陥った。ギクッと固まる美桜。そんな彼女を見て相田は慌てたようにヘラッと表情を崩した。
「あっいいのよ!別に無理して聞こうと思ってないから。」
「すみません。そんなにまだ人に話したことなくて...どう話せばいいのか言い淀んでしまいました。」
そんな彼女の心遣いに美桜は申し訳無さそうに目尻を下げた。
「あのままバスケしてたらなにかもっと大事な物を失ってしまいそうで。
彼ら、キセキの世代の変わっていく姿を見て思ったんです。」
「…そっ、そうだったのね」
「だから高校でも関わる気は更々なかったんですけど...ある人の姿を見てもう一度だけ関わってもいいかなって思ったんです。」
触れてはいけなかったかと思う相田。だが、彼女は意外にも前を向き始めていた。誰かに想いを馳せる彼女の横顔。柔らかい微笑みに、相田は少し意地悪をしてみたく思った。
「ふーん....なるほどね...
ねぇねぇ美桜ちゃん」
呼ばれた美桜は横を向く。すると隣の相田はニコニコしていた。この表情を見て背筋がゾッと戦慄する。その顔が桃井の悪巧み顔と瓜二つに美桜は見えたのだ。
「美桜ちゃんって...高尾くんの事どう思ってるの??」
「...えっと...急にどうしたんですか?」
「だって...ある人って高尾君のことでしょ?」
「え、なんでわかったんですか?」
「女の勘よ!」
ギクッと顔を強張らせる美桜に相田は得意げに笑った。
「で、どうなの??」
「......好きですよ。おそらく出会った時から。
でも伝える気はないんです」
相田の鋭い問いに、美桜は目線を遠くに向ける。その彼女のエメラルドグリーンの瞳の奥には情火が秘められているように相田には見えた。彼女の決意が籠もった言葉。相田は喉から出そうな言葉をグゥッと飲み込んだ。彼女の言葉の真意についてこれ以上深く聞くことは相田には出来なかったのだ。
*****
「あー、さっぱりした!!」
「いいお風呂でしたね」
風呂を上がり廊下を相田と美桜は歩く。そんな彼女らの耳に不穏な音が聞こえてくる。
『ガサガサ』
「「ぎゃあああ!!」」
音で立ち止まった彼女たちの前で閉まっていた玄関ドアが急に勢いよく開いた。たまらず、絶叫した二人は恐怖で互いに抱きつきあった。だが、恐る恐る見ると底には予想外の人物が居た。
「あれ?火神君?」
「なんでそんな汗だく??」
二人は拍子抜け。玄関に現われたのは上半身裸の火神。すごい形相で彼は荒い息をしていた。そんな火神はキョトンとする二人を睨みつけた。
「今買い終わったんだよ!...です」
「え?今まで?」
「体育館戻ったら誰もいねぇし、どうせ飲むためじゃないと思うけど...はい」
皆の分の飲み物買ってきて
砂浜走って500m先のコンビニまでGo!!
重いだろうから1本ずつでいいわよ
火神は不機嫌な顔をしつつも手に持っているビニール袋を床に置いた。ガサっと大きい音を立てる袋。二人はそれを覗き込むと目を瞬かせた。そのビニール袋には沢山の缶が入っていたからだ。
「凄い...沢山入ってる」
「ちょ...これまさか...うちだけじゃなくて秀徳の人達の分も!?一体何往復してきたのよ」
「あー疲れた!風呂風呂!!」
火神は二人の疑問に答えること無く、風呂場へと意気揚々と向かっていく。だが、その彼の背を見送りながら二人はあることに気づいていた。
「あれ?リコさん...もうこの時間って...」
「はぁ...あのバ火神。
この時間はもう風呂終わってるんだけど!!」
「あっこれ貰っちゃっていいですか?」
「えぇもちろん!!」
悲鳴を上げる火神をよそに美桜はビニール袋を漁り始めるのだった。