ある日のオフ
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「あっれ?」
「どうした高尾?」
「美桜ちゃんいねーんだけど」
教室に顔を覗かせた高尾。だが、お目当ての彼女の姿はどこにも見当たらず、驚いた声を漏らした。彼らは一緒に帰ろうと美桜を呼びに来たのだった。
「おい、早川!」
高尾は見知った顔を見つけ慌てて近寄った。そこには今まさに帰ろうとする椛の姿があった。
「あれ、高尾と緑間?」
「美桜ちゃんは?」
「なんか野暮用って言って帰っちゃったよ?
高尾との用事じゃなかったんだ?」
目の前にいる彼らの姿に、てっきり美桜と一緒にいると思っていた椛は目を丸くした。
「美桜がいないのならここに用はない。
行くぞ高尾」
「へいへい」
興味が薄れた緑間は踵を返す。慌てたように椛に礼を行った高尾は緑間の背を追いかけた。
「あーぁ、美桜ちゃんとバスケしたかったのになぁ…」
「野暮用なら仕方ないのだよ」
学校を後にした二人は近くのコートでバスケをしていた。つまらなそうに高尾はボールを突き、緑間は黙々と本日のノルマをこなしていた。そんな時、突如携帯の音が鳴る。それは緑間の携帯だった。緑間は画面に映る名前をジッと見る。出るべきか出ないべきか、悩む緑間だったがゆっくりと耳に携帯を当てた。
「…もしもし」
「みどりーん!!」
すぐさま緑間は応答したことを後悔する。耳に響く金高い声に緑間は耳から携帯を離す。だが、次の一声で緑間は顔つきを変える。
「美桜一緒にいない?」
「...その呼び名は止めるのだよ。
美桜か...すでに教室に居なかったから知らないが。
どうした?」
緑間の言葉に電話をした桃井は顔を青ざめた。
「え?ウソ...どうしよう」
「野暮用というのはお前か。何頼んだのだよ」
切羽詰まった彼女の声に緑間は呆れた声音で訳を尋ねた。
「青峰君が見つからなくて...探してほしいって頼んだんだけど...
いくら電話しても出なくて」
美桜にお願いした桃井だが、一向に連絡が来ない、一向に連絡がつながらないことに不安を覚えたのだ。その矢次に伝えられる言葉に、緑間は表情を強張らせていく。その滅多に見ない緑間の顔に気づいた高尾は不思議そうに尋ねた。
「どうしたの、真ちゃん?」
「美桜と連絡が取れないらしくてな。
探してほしいと言われたのだよ」
「え、まじかよ!?俺探してくる」
「待つのだよ、高尾」
緑間の言葉に高尾は血相を変える。そして緑間の静止を聞くことなく駆け出してしまった。嵐のように騒音が消え去り静寂さが戻る。緑間は深く息を吐き出すと、通話口に話しかけた。
「...すまない。邪魔が入ったのだよ」
「今の人って....」
「高尾なのだよ。まぁあいつが行ったからには問題ないだろう」
そう言い切った緑間は確信していた。含みを持たせた緑間は、続けざまに言葉を続けた。
「なにせ、あいつは美桜にべた惚れだからな。
何が何でも見つけ出すだろう」
桃井はその言葉に思考を停止させる。が、すぐに桃井は目を輝かせ始める。
「みどりーん...その話もっと詳しく!!」
「いいだろう。いかにあの二人がじれったいか教えてやるのだよ」
*****
慌てて飛び出したものの高尾には当てがなかった。手当り次第、彼は無我夢中で彼女の姿を探し回った。着いた場所はとあるストバスコート。すでにあたりが真っ暗、その中で一際目立つ色を見つけた。月明かりに照らせて光る特徴的なマリーゴールド髪。
見つけた...
高尾はゆっくりと彼女に近づく。が、彼女は高尾の気配に気づくことすらなく、ずっとしゃがみこんだままだった。
「…美桜ちゃん」
その声で塊がムクッと動く。呼ばれた彼女はゆっくりと顔を上げた。
どれほどこの状態でいたのだろうか?顔を上げた美桜の視界に映るのはすでに真っ暗な空に浮かぶ月、そして自分を覗きこもうと屈んでいる高尾の姿だった。
「...っ...高尾君...」
美桜は唇を震わせ彼の名を呼ぶ。エメラルドグリーンの瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れ出す。
『じゃあな...久しぶりに美桜とできて楽しかったぜ』
脳裏に浮かぶのは愁色を漂わせた青峰の顔。美桜は嗚咽を漏らし泣きじゃくる。高尾は思わず、彼女に手を伸ばした。そっと壊れ物を扱うように美桜を腕の中に閉じ込めた。消えてしまわないように力をこめて。
「...っ...高尾君...暫くこのままでいて欲しい」
「あったりまえじゃん」
彼の優しさに漬け込んでいるのは重々承知だ。でも、美桜はこの腕に包まれていることに安堵を覚えていた。
ごめん…
美桜は彼に身体を預け、涙が止まるまで泣き続けた。高尾はただ何も言うこと無く、彼女の鳴き声を聞いていた。
こんなに想われて羨ましいな…
彼女の心を占めるのは自分ではなく青峰。その現実を突きつけられている気分だった。すっぽりと収まる彼女はいつも以上に小さく見えた。そんな彼女を見る高尾は切なげに目尻を下げるのだった。
「ごめん、もう大丈夫」
だいぶ気持ちが落ち着いてきた美桜は顔をゆっくりとあげる。その時ふと思い出したのは、誠凛との敗戦後の1シーン。逆の立場で同じシチュエーションがあったなと思った美桜はクスッと笑みを零していた。
「どうしたの?」
「いや、今回は立場が逆だなって思って」
「あぁ、できれば思い出してほしくないんだけど」
高尾は困ったように引きつった顔を浮かべた。できれば思い出してほしくない記憶だ。誰にもこの姿を見せたくなくて、ひっそりと隠れて気持ちの整理をしていたら彼女がやってきた。本当は一番見せたくなかったのに。弱く脆い今の状態を。だが、それと相反して嬉しくも感じた。彼女が真っ先に来てくれたことが。
「なんで?」
「だって超かっこわりぃーじゃんか、俺」
「…そんなことないよ」
照れくさそうに高尾はそっぽを向き、頭をかく。が、美桜はそうは思わなかった。
「十分、高尾君はかっこいいよ」
チームの敗戦に対して泣ける人がかっこ悪いわけがない。美桜は柔らかく微笑む。そんな彼女の言動に、笑みに、高尾は息を呑むのだった。