ある日のオフ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「懐かしいね...ここ」
美桜は久々の場所に目を細めた。
ここは彼との出会いの場。それと共に中学生になるまでずっと彼とバスケをしていた場所でもあった。時間を忘れるほど熱中し、ボールを追いかけまわした。そのせいでもう一人の幼馴染にはいつも怒られてばかりだった。
「さっさとやんぞ」
感傷に浸る美桜の隣では、青峰は目をくれることなく荷物を置きボールを突きだした。
風景は変わらない。しかし無情にも時間は彼らを変えた。
美桜の短かった髪は肩まで伸び、大人びた顔になり、女性らしく。
青峰は彼女を見下ろすくらい身長が伸び、体格が変化した。
だが、美桜のバスケに対する想いは昔と変わっていない。
もうあの頃には戻れないの?
俺の気持ちが変わらなければお前は俺の隣でずっと笑っていたのだろか?
彼らは互いに成長した姿で向き合いながら自分自身に自問自答した。
*****
たく、相変わらずすばしっこいな...
青峰は軽く舌打ちをする。彼女相手に手を抜く気はない。だが、フェイクを入れ切り抜こうとするが、なかなか彼女を振り切れずにいた。
美桜は元々身体能力が高い。特に反射神経、俊敏性は自分に劣らないものを持っていると青峰は買っていた。だが、彼女がここまで動けるのは身体能力のお陰だけでない。彼女が持つ緋色の瞳のおかげでもある。目に映る者の身体の動かし方から相手の行動を予測する。彼女の予測能力と身体能力が噛み合えば、並大抵の選手は動きを止められてしまう。
だが、相手は俺だぜ。
青峰はギアをさらにあげ、彼女の横を突っ切った。それでも美桜は懸命に追いかけてくる。が、抜かせばこっちのもの。青峰は勢いよくボールを投げる。そのボールは大きい音を立てながらゴールへと吸いこまれた。
あー悔しい...
抜かされたらもう追いつけない
美桜は悔しげに唇を噛み締めた。
技術でカバーできるものはあるが、やはり体格の差は男女で歴然としている。中学でもどんどん広まる彼との差に密かに美桜は歯がゆさを抱いていた。
暫くやったが結果は同じで、歯が全く立たなかった。でも諦めたくない。美桜は自分を叱咤し鼓舞する。が、突如目の前の彼が纏う空気が変わったことに美桜は気づくと瞳を揺らした。
なに、このプレッシャーは?
ずっしりとのしかかる禍々しい空気。瞬時に彼との歴然とした力の差を感じずにはいられなかった。
背を向けていた青峰はゆっくりと振り返る。
「丁度いいや。美桜、見せてやるよ...これが俺の力だ」
ニヤリと口角を上げた青峰の目からは蒼い光の筋が出ていた。一歩踏み出そうとする青峰に対し美桜は行かせないと両手を広げる。が、美桜の緋色の瞳に映ったのは通り抜ける青い閃光。ハッと気づいたときには青峰は脇を通り過ぎていた。
「これが俺のゾーンだ。
お前は確かに強い。でも俺に勝つことはできねぇーよ。
俺に勝てるのは...俺だけだ」
美桜に現実を突きつける青峰の一声。気怠そうに言葉を吐き捨てた彼の群青色の目は、あの頃の輝きを失っていた。美桜はその虚空な瞳に戦慄した。
嫌だ、こんな大輝は
『美桜、バスケやろうぜ!』
心の底からバスケを楽しむ大輝を取り戻したい
美桜は沸々と湧き上がる感情にギュッと目を瞑った。すると目の前には頑丈そうな大きな扉が立ちふさがっていた。まるで己の侵入を拒むかのように。美桜は躊躇なく扉に手を置くと、ありったけの力を込めた。すると意外にもあっさりとその扉は開いた。開いた扉から零れる神々しい光。その光を見た美桜は未知の計り知れない力がみなぎるのを感じた。美桜はその光を迷うこと無く受け入れた。
*****
なにか予兆を感じさせるように吹き付ける風。その風に違和感を覚えた青峰はハッと振り返り彼女を見た。鋭く研ぎ澄まされた空気を身に纏い始める美桜。目蓋を開けると覗かせるのは橙色の光の筋をチラつかせる緋色の瞳。
ふっ、おもしれー
お前も開けるか、ゾーンの扉を
彼女の変化を感じ取った青峰は悪相顔を浮かべ楽しげに口角を上げて笑った。
「いいねー...やってみろよ!」
「決めたんだ、もう逃げないって!!」
二人は同時に駆け出す。橙の閃光と青の閃光が激しくぶつかりあった。
青峰は久々に高鳴る高揚感を覚える。だが、それも一瞬。青峰は残念そうに小さく息を零した。
だが、やっぱりお前じゃ無理だ
ブランクの差がデカすぎる
時間が立つごとに美桜の息の粗さは増し、ハンドリングの繊細さ、スピードもジワジワと欠けていった。いつも以上に軽い身体、普段より繊細に見える視野、現実離れしたゾーンの力の消耗は激しかったのだ。
全く決められなかったシュートが思い通りに入る。が、やり返すように青峰がシュートを決めていく。
もっともっとやりたい
美桜はこの時間が長く続いて欲しくて、体力の限界を超えても必死に青峰を追い続けた。だが、美桜の身体は悲鳴を上げた。身体から感覚が抜け落ちていく。途端に身体が重くなり、美桜の膝が地面についた。
「お前はよくやったよ...
でもやっぱり俺に勝てるのは俺だけなんだよ」
寂しそうに青峰は美桜を見下ろした。
私じゃやっぱり大輝には勝てない
悔しそうに美桜は彼を見上げた。青峰はただ欲しいだけなのだ。本気でバスケをできる相手を。
「…そんなこと無い」
美桜の脳裏に浮かぶのは赤髪の青年。黒子の新しい光である火神だった。
まだ底が見えない秘められた力...
急成長を遂げていく彼のバスケ...
彼だったら...もしかしたら
「私じゃ、大輝の欲求には答えられない。でも、火神君だったら...
きっと、大輝の願いを叶えてくれる!」
「はぁ?火神がか?そりゃあねぇーだろ。
まぁ、あいつの超人的な跳躍力は認めてやるがな」
「きっと強くなる...火神君もテツヤも。
そして、大輝に教えてくれるはず...昔の感覚を」
「そうだといいがな。
お前もテツも夢見過ぎだな...火神に」
青峰は鼻で笑うと、地面に置いた荷物を手に取り彼女に背を向けた。だが、ふと青峰は足を止めた。
「じゃあな...久しぶりに美桜とできて楽しかったぜ」
今にも風に消されてしまいそうな小さな声。だが、その言葉はしっかりと美桜の耳に届いたのだった。