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「ティッシュどうぞ」
「南部デパートです。どうぞ。」
南部デパートの前。そこにはテントを壊したペナルティーとしてティッシュ配りをする6人の姿があった。
「なんで俺が渋谷まで来てティッシュを配らなきゃいけないんだ馬鹿野郎!!」
「あんたが黄瀬に蹴りを入れるからだろ」
「俺のせいかよ」
「角度を考えろってんだ、です」
「なんだそりゃ。
にしてもあのやろうイキイキとしてやがるな。」
バッシュを買えなかった火神と笠松は不機嫌そうにティッシュを配る。その中で、黄瀬は爽やかな笑みを振りまいてティッシュを配っていた。
「婦人服コーナーでバーゲンセールでーす!」
ティッシュどうぞ」
「きゃぁぁぁ一枚ください!」
「もはや天職なんじゃね?」
「…だな」
黄瀬がティッシュを配る度に黄色い歓声が湧き上がる。どんどんティッシュを配っていく黄瀬に火神と笠松はガクッと肩を落とした。
「あの…ティッシュです。」
ティッシュを配る黒子。だが、影が薄いせいで誰にも気づいてもらえず、火神・笠松と違う意味で肩を落としていた。その彼の手に抱えられたティッシュがドサッと全て消え去る。視線を下に向けていた黒子は不思議そうに顔を上げる。するとそこにはニコッと笑う高尾がいた。
「黒子全然気づいてもらえてねーじゃん!
仕方ないから俺が代わりに配ってやるよ!」
そう言うと高尾はところどころ通りかかる人々に片っ端から声を掛けていき、ティッシュを配っていった。
「…高尾君」
「いいなぁー、私の分も代わってくれないかなぁ」
その一部始終を見ていた美桜は不服そうに声を上げた。
「美桜さん、高尾君が気になりますか?」
「えっ!?」
「さっきから高尾くんにばかり目が行ってますよ?」
「きっ、気の所為じゃないかな?」
黒子の指摘に美桜はぎこちない笑みを浮かべた。黄瀬とはまた違ったオーラで高尾の周りにも黄色い歓声が沸き上がっているのを美桜はいい気分がしなかったのだ。少しはこっちも気にしてほしい。生半可な気持ちのままで醜い感情を抱く自分自身に嫌気を覚えた。
黒子の真っ直ぐな目に耐えきれず美桜は逃げるように場所を移動する。そしてなりふり構わずティッシュを配っていった。
「ティッシュどうぞ」
そんな美桜がお目当てなのか、彼女のティッシュを受け取るのはほぼ男性の通行人だった。
「なぁ姉ちゃん
こんな仕事放り出して俺らと遊びに行かね?」
愛想よくティッシュを配っていた美桜の手が止まる。その手の中にあったティッシュを強引に取った男らはニヤリと笑っていた。
「ちょっと俺らと楽しいことしようぜ」
「そそ。
こんな仕事、周りに押し付けちゃえばいいんだよ。」
全身舐め回すような目つき、下品な笑い声に美桜の顔からは血の気が失せていく。そんな美桜に彼らは手を伸ばそうとする。あと少しで触れられる。そう思ったのも束の間、パシッと振払われた、
「あぁ、すんません」
抑揚のない低い声。どっと腸が煮えくり返そうな感情をグッと抑えた高尾は人知れず口端をつり上げる。その彼の左腕はいつの間にか美桜の肩に回されていた。
「お兄さん達、絡むのやめていただきます?」
ギュと彼女を己に引き寄せた高尾は、美桜の背後越しにダークブルーの瞳を光らせる。今にも襲われかけそうな獰猛な眼差しに彼らは一歩後ずさりした。スゥッと細まるその瞳に睨まれた彼らはヒィッと怯えた声を上げると尻尾を巻いて逃げ出すのだった。
「なぁーんだもう終わりかよ
つまんねーの」
遠ざかっていく背を面白くなさそうな目つきで見送った高尾はクルッと移動する。
「ヘーキ?美桜ちゃん」
彼女から離れ真正面に移動した高尾はころっと表情を一変させていた。普段通りの人懐っこい笑みに、美桜はホッと息を吐き出した。
「うん。ありがと。」
「いやいや。こんなもんお安い御用さ。」
高尾は嬉しそうに微笑んだ。
ティッシュ配りをしながら高尾は彼女の周囲に目を光らせていたのだ。それを知らない美桜は頬を緩めるのだった。
「どうした、黒子?」
二人仲睦まじく、ティッシュ配りを再開する彼らを黒子は遠巻きに眺めていた。絡まれていると黒子が把握したときにはすでに高尾が助けに入っていた。それほど彼にとって彼女は大切な存在になっているのだと、黒子が知れる1幕だった。
「いえ...何でもありません。」
頬を緩めている黒子に火神が不思議そうに投げかけた。それに黒子は小さく首を横に振る。がその目は遠い昔を思い起こしていた。
「ですけど...
美桜さんはてっきり青峰くんのことが好きだと思ってたんで...驚きました。」
「はぁ?あの青峰をか?」
「青峰くんと美桜さんは幼馴染で、いつも仲良く馬鹿みたいに騒いでました。」
青峰と美桜はセット。馬鹿騒ぎするときも、バスケをするときも、行き帰りも、ほとんどの時間二人は一緒に居た。彼女が絡まれたときもすぐに気づき助け出すのは青峰の役割だった。
今その立ち位置にいるのは紛れもなく高尾だ。
「俺もっすよ、黒子っち。
絶対にあの二人なんかあると思ったんすけど」
「って、黄瀬くんも好意抱いてましたよね?」
ふらっと黒子の隣に現われたのは黄瀬。さらっと自然に話に入ってきた黄瀬に黒子は直球をぶつけた。それに黄瀬は自嘲気味に笑みを浮かべた。
「今でも好きっすよ!そりゃあ...。
でも、中学の頃は全然彼女振り向いてくれないし。
今なんかはあんなに幸せそうな顔しちゃって。
隙あらばって思ったら横から掻っ攫われた感じっすわ。」
黄瀬は淋しげに目を伏せた。
練習試合後に仲良く会話を弾ませる二人。テントに激突した時に見た彼女に覆い被さっていた彼の姿。絡まれた時に咄嗟に助け出す彼の姿。その場面を目撃して、黄瀬は激情で発狂しかけそうなほど気が狂いそうだった。だが、彼女の幸せそうな表情を見てしまったら毒気が抜けてしまった。
「え?あいつらそんな関係なのか!?」
「まだ、違うと思いますけど...傍から見ると両思いですね」
「気づいてないのは本人たちだけだと思いますよ?火神っち」
「だからその呼び方やめろ」
「黄瀬くんに認められてる証拠ですよ...良かったですね」
「良くねぇーよ!」
「おい、お前らさっさと配りきろーぜ」
笠松が手を止めている彼らを見つけ声を上げる。その声で彼らは慌ただしくティッシュ配りを再開するのだった。