お出かけ
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「・・・」
美桜は部屋の鏡の前で頭を抱えていた。その傍のベッドや床には乱雑に衣服が置かれていた。
今週の日曜日9時に駅前集合な
嬉しそうに無邪気な笑みを浮かべる青年が脳裏をよぎる。美桜は時間を確認しようと置き時計に目を向ける。すると自ずと目に入るのは、写真。その写真に映る少年に美桜は目尻を下げる。
「…よし」
美桜は気合を入れ直し部屋を飛び出した。
家を出ると広がるのは雲ひとつない快晴の空。その空のもと、美桜はサンダルで駆け出した。
「おまたせ!」
いつから待っていたのだろう。待ち合わせ人は、時間を気にするかのように腕時計にチラチラと目を落としていた。普段毎日顔合わせしているのに、格好が私服なだけで美桜は新鮮さを覚えた。
「待った?」
息を整えながら美桜は問いかける。待っていた高尾は彼女の格好に目を瞬かせた。白のトップスに前にリボンがついた淡いブルー色のキュロットスカート。マリーゴールドの髪を纏めるかのように黒のキャップを被っていた。
「俺も今来たとこ...ほら行こうぜ!」
「うん」
サッと周囲を見渡せば、彼女をチラミする視線が目についた。申し訳無さそうな美桜に、高尾は爽やかに笑いながら彼女を促す。それと同時に、彼女を見る彼らには凍りつくような冷たい眼差しを向けるのだった。
「ねぇ?これからどこ行くんだっけ?」
改札を抜けた美桜はふと足を止める。そんな彼女に高尾は目を点にする。
「え!?言ったじゃん」
「あの時の会話すっかり抜けてて」
「マジかよ~」
小さく笑う美桜に高尾は噴き出す。だが笑いながらも高尾の表情はとても柔らかく、美桜はつられるように頬を緩めるのだった。
*****
「あ、やっぱり混んでるな」
日曜ということもあり、電車は沢山の人で混み合っていた。先に乗り込んだ高尾はスペースを見つけていた。
「こっち」
そのスペースに美桜を立たせると、彼女を隠すように高尾は立った。丁度端側で美桜はホッと胸をなでおろす。しかしその束の間、電車が急発進。安堵していた美桜はその衝撃で体勢を崩してしまう。
あ...
傾いていく身体に他人事のように感じる美桜。だが、体勢を崩した事に気づいた高尾はすぐに彼女に手を伸ばした。
「おっと」
高尾の手はさり気なく美桜の肩に置かれる。彼に支えられたお陰で美桜は転ぶことを免れた。
「何してんの?」
「ごめんごめん」
転びかけた美桜に高尾は小さく笑う。そんな彼に美桜は軽く謝った。が、再び車内が激しく揺れた。その揺れで美桜はドアに背を預ける形に。対して、何も掴まっていなかった高尾は澄まし顔が崩れた。
「うわっ!」
バランスを見事に崩した高尾は、目の前に見えたドアに思わず両手を付いた。ふぅーとホッと息を付く高尾。だが、ふと視線を落とすと顔を真っ赤に染める美桜がいた。
ヤッベ…
途端状況を理解した高尾は顔を引き攣らせた。
すぐ背後はドア、目の前は高尾、そして両肩を付くすぐ上には彼の両手が置かれていた。挟まれる形になった美桜は徐々に身体が熱くなりそれに付随して心拍数が上がるのを感じた。
「…わりぃ」
慌てて高尾は両手をドアから離し距離をとった。だが、駅に停車するにつれ乗車する人が増えていく。必然的にスペースは狭まり、二人の距離は縮まった。
ちっ近い…
美桜はドアに背を預け身体を縮こませていた。
やっぱりカッコイイな...
どうしても目は高尾に向けられる。いつも見ているはずの彼の横顔。間近で見ているためか、窓の外に目を向ける高尾の横顔が恰好よく見えて仕方がなかった。そんな高尾の顔がふと美桜に向けられる。ハッと目が合うエメラルドグリーンの瞳に高尾は困ったように目尻を下げた。
「美桜ちゃん...そんなマジマジ見つめられると俺流石に恥ずい...」
「あ...ごめん」
美桜は慌てて目線を下に落とすのだった。
*****
「やっぱり人多いな」
二人が降り立ったのは渋谷駅。彼らの目の前に広がるのはTV中継でよく目にするスクランブル交差点。信号が青になった途端、雪崩込むように交差点が人で埋め尽くされていく。この光景に美桜はただただ目を奪われていた。そんな彼女を横目に高尾は気合を入れ直す。
「よし行こうぜ」
高尾は隣にいる美桜の手を取り歩き出す。
「え...ちょっ...手...」
美桜は動揺しながらもその手から離れようとする。が、そんな彼女の反応が面白く、小さく笑った高尾は握る力を少し強めた。
「ダメ」
「え、なんで?」
「だって、こんなに人多いから逸れたら大変だろ?それに...」
「それに??」
「それに今日の美桜ちゃん、いつも以上に可愛いからさ」
口を噤んだ高尾は足を止めると隣の彼女を見下ろす。そして、必然的に足を止めた美桜に少年のような無邪気な笑顔を振りまくのだった。
ポカンとしていた美桜はストレートな言葉に目を丸くする。
彼は意図して言っているのだろうか?
急激に体が火照る感じを覚えた美桜は、今の表情を見せたくなく、慌ててキャップを深く被り直す。
「え、なんで深くかぶり直したの?」
「...今は見られたくない」
「え、いいじゃん」
「ダメ」
美桜の顔を見たいと高尾は面白半分覗こうとする。美桜は必死に見られないように目深にキャップを被る。が、無意識のうちに美桜は握り返していた。そのことに高尾は一瞬驚いた顔をするが、ふっと目尻を下げ柔らかい表情を浮かべた。そのダークブルーの目は愛おしい者を見つめる眼差しになっていた。
が、すぐにその表情は消える。面白いものを見つけたかのよう、獲物を見る眼差しになる。
「やっだなー...照れちゃってんの?」
からかい混じりに高尾は問いかける。どうやらスイッチが入ってしまったらしい。美桜はこの場から逃げたくて、止めた足を踏み出す。
「照れてない」
「真ちゃんと同じツンデレ発動かよ」
「真太郎と一緒にしないで」
「美桜ちゃん、そっちじゃないって」
ゲラゲラと笑いながら高尾は軽く手を引く。引き留められた美桜はムッとした表情で振り向く。すると目に映ったのは、嬉しそうに目を細める高尾だった。
「どっち?」
「こっち」
瞬時に沸騰した感情が収まった美桜は今度こそ素直に高尾に引っ張られる。そして彼らは目的地へと到着するのだった。