インターハイ予選決勝リーグ
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「みおっち、バスケしないっすか?」
すべての試合を見終わった黄瀬は気づけば美桜に電話を掛けていた。
『俺より..黒子の心配をしたほうがいいのだよ..』
帰り際に緑間が残した言葉が重くのしかかる。あの時意味がわからなかった黄瀬だが、現実を目の当たりにしてようやく理解する。
予選を勝ち上がったチームの勢いが消え、窮地を救っていた黒子のパスは繊細さを失っていた。火神が抜け、頼みの綱の黒子は精神的ダメージを負ってしまった誠凛は、2年生だけの力ではすぐ立ち直れなかったのだ。
結果、誠凛はリーグ4位。インターハイ本戦へと進めなかった。
「急にどうしたの?」
突然の黄瀬からの電話。珍しくワンコールで出てしまった美桜は不思議そうに問いかける。
「なんか試合見てたら無性にバスケしたくなっちゃったすわ」
「いいよ...やろうか」
ふと紡がれる言葉。その言葉は少し前の黄瀬では出なかったものだろう。美桜は嬉しさを噛み締めながら了承した。対してダメ元で尋ねた黄瀬は、美桜とバスケができる事に舞い上がった。
「なんか久しぶりだね...涼太とこうやって向き合うの」
美桜は懐かしむように目を細める。が、黄瀬はというと悲しげに目尻を下げていた。
「ほんとっすよ...勝手にいなくなって」
「ごめんごめん」
「まぁ...いいっすよ...終わったことだし。
じゃあ俺から行くっすよ」
心がウズウズする。黄瀬は待ちきれずボールを突き始める。対して、美桜は姿勢を低くする。
これは簡単に抜かせてくれなそうっすね
どうしたらいいすかね
黄瀬は考えあぐねる。が、その間に美桜は能力を解放していた。瞬時に瞳は緋色に変貌する。美桜はその瞳で黄瀬の持つボールの動き手の動き体重移動を確認するとタイミングを見計らいスティール。
「あぁ!」
左手にあったボールの感触がいつの間にか消えてしまった。黄瀬は驚きの表情で美桜を見る。するとすでに彼女の手にボールが収まっていた。
「みおっち〜」
黄瀬は縋る声で彼女の名を呼んだ。ようやく気づいたのだ。美桜の瞳がエメラルドグリーンから緋色に変わっていることに。
「本気になるの早くないっすか?
まだ動いてすらいないんすけど!!」
「だってさ、ブランク2年目対現役バリバリだよ。
最初から全力で行くしかないじゃん!
それに...」
キャンキャンと吠える黄瀬に美桜は軽快に笑った。が、すぐにその笑顔は消える。勿体ぶるように口を噤んだ美桜は微笑する。
「キセキの世代って呼ばれてる人相手なんだから生半可にやれるわけ無いじゃん」
緋色の瞳が黄瀬を射抜く。メラメラと闘争心を燃やす緋色の瞳に黄瀬は胸の高鳴りを覚え、口端をつりあげる。
「確かに...そうっすね」
騒ぐのを止めた黄瀬は獲物を捕えるような目つきをし笑みを浮かべた。
「本気で行くっすよ...
手加減無しでみおっちに勝つ!」
黄瀬はアクセル全開で駆け出す。負けじと美桜も全速力で駆け出した。そこから両者一歩も譲らない一進一退の攻防戦が始まる。ボールを追いかけ回す彼らは純粋にバスケを楽しんでおり、笑顔が溢れだしていた。
美桜は久しぶりにする黄瀬とのバスケにいつの間にか夢中になっていたのだった。
「はぁ...もう限界」
「みおっち...ホントにやってなかったんすか...」
美桜はついに地べたに座り込む。その隣に黄瀬は仰向けに寝転ぶ。軽くするつもりが気づけば互いに熱くなっていた。互いに汗だくで呼吸がおぼつかない。そんな状態まで無我夢中でボールを追いかけてしまったのだ。
黄瀬は荒い息をしながら脳裏に残る美桜の姿に頬を緩める。
時折彼女は...悪巧みをしそうな笑みを浮かべたり驚いた顔をしたり楽しそうに笑ったり...と心からバスケを楽しむ美桜は見ていて飽きない。
ボールに必死に喰らいつく彼女の姿はやはり昔と変わっておらず、綺麗で眩しかった。
「やってないって!...やったのは中2以来だよ...
あ...でもつい最近やった」
「やってるじゃないですか?」
美桜は大きく手を横にふる。がふと高尾とやったバスケを思い出すと、美桜は愛想笑いを浮かべた。そんな彼女に黄瀬はげんなりとするのだった。
「ねぇ...涼太...」
息を整えた美桜は勢いをつけ立ち上がると黄瀬を見下ろした。その表情はとても嬉しそうだった。
「今の涼太の方が十倍も百倍もカッコイイよ」
はにかんだ美桜は大切にその言葉を紡いだ。風に乗せられた言葉を耳にした黄瀬は黄金の瞳を瞬かせた。太陽のようにキラキラ輝く美桜に黄瀬は目を奪われていたのだ。そんな彼の心情など知らない美桜は時計を仰ぎ見ると血相を変えた。
「やばい、もうこんな時間!じゃあね!!」
慌ただしく美桜は荷物を手に持つ。がふと思い出したように黄瀬に振り返った。
「涼太!またバスケしようね!!」
忘れたかったのに...
なんで忘れさせてくれないんすかね...
黄瀬は1人になったコートで自嘲気味に声を零した。
「最後の反則だろ...小悪魔っすか!?みおっちは...」
愚痴った黄瀬はふと初対面の出来事を思い起こしていた。彼女と出会ったのは中2の春。黄瀬がバスケ部の1軍として馴染み始めた頃だった。
「青峰っち、1on1するっすよ!」
「えー...またかよ」
いつも部活が終わると黄瀬は懲りることなく青峰に1on1を挑んでいた。そして青峰も黄瀬との1on1を楽しんでいた。
「また負けたっす!!」
「へへ...俺に勝とうなんて...まだまだ早いんだよ」
項垂れる黄瀬の前で、青峰は口角を上げるとボールを右手人差し指に乗せて回すスピニングボールをし始めた。そして遠くに目を向ける。が、何かを見つけたのか青峰はニヤリと笑みを浮かべた。
「お?珍しいじゃないか...」
そんな青峰を不思議そうに思い黄瀬は後ろを見る。すると体育館の入り口の扉付近に人影が見えた。
「ヤッホ!久しぶりに来ちゃった!」
「ホントに久しぶりだな...美桜...」
段々と見えてきた姿に黄瀬は顔を顰めた。運動着を来た少女は破顔する。その彼女のマリーゴールドの髪は小さく揺れた。
「青峰っち...誰すか?この子?」
青峰と親しげな女の子。黄瀬はギョッと目を見開き驚く。その反応に青峰はしまったとめんどくさそうに頭をかいた。
「そういや...お前知らないのか..」
「知らないっす!俺だけ蚊帳の外はヒドイっすよ!!紹介してほしいっす」
「ぎゃあぎゃあうるせぇーな...」
「あれ?」
詰め寄る黄瀬にようやく少女は彼の存在に気づく。マジマジと見つめてくるエメラルドグリーンの瞳。無意識のうちに黄瀬の背筋は伸びる。
「モデルしてる子じゃん?
えっと...名前なんだっけ??」
が、彼女の予想外の反応に黄瀬は激しくズッコケた。
「黄瀬涼太っす!!知らないんすか!?」
「いや〜...そこら辺興味なくて...
いつも囲まれてて大変だなーって遠くから見えたくらい?」
「マジすか!?」
「はは!しょうがねぇーよ...
こいつの頭の中バスケしかないんだからさ」
困ったように少女は愛想笑いする。そんな彼女に黄瀬は驚きで目を丸くした。そんな彼らのやり取りに青峰が腹を抱えて笑いだした。
「はぁ!?大輝に言われたくないんだけど!」
「いや、だってお前...実際バスケは何割占めてんだ?」
「う~ん...5か6割くらい?」
「あながち間違ってねぇーじゃないか」
「う...大輝はどうなの??」
「10割じゃねぇーか?」
「私よりバスケバカの大輝に言われたくない!!」
「...仲いいっすね」
痴話喧嘩みたいなやり取りに黄瀬はついていけずポカンとする。なんとか正気を取り戻した黄瀬は唖然としながらも思ったままを口にするとピタッと喧騒が収まった。
「あ...黄瀬いるの忘れてた...」
「黄瀬くんいるの忘れてた…」
「忘れないでほしいっす!」
言い合いをやめた両者は揃いも揃って黄瀬を見る。そんな彼らは本当に忘れていたようでポカンとした表情だった。黄瀬は思わず叫び声を上げるのだった。
「えーとな...こいつは神田美桜だ...一応女バスのスタメン...」
「一応ってひどくない!」
場が一段落したところでようやく青峰は黄瀬に紹介する。気だるそうに少女を指差す青峰に美桜はジト目を向ける。が、青峰はどこ吹く風。美桜は小さく息を吐き出すと黄瀬に向き直った。
「まぁ良いや...ご紹介預かりました。神田美桜です。
よろしくね黄瀬くん」
ふんわりと微笑む美桜が差し出す手。無意識のうちに黄瀬はその手に手を伸ばしていた。
「おい、美桜」
青峰は持っていたボールをおもむろに放り投げる。背後から放られたボールを美桜は難なく受け取った。が、なりげないやり取りに黄瀬はえ?と違和感を抱いた。何故なら、彼女は投げられたボールの方を見ずにとっていたのだ。まるで後ろに目があるかのように。
「ほら..やるだろ?1on1...」
「...取り込み中だったんじゃないの?」
「あ~...黄瀬の事は気にすんな。ほぼ毎日やってることだからよ」
「えー..終わりすか」
が、当の彼らは気にすることなく話しを進めていた。どうやら美桜は青峰とバスケをしに来たらしい。美桜が来たことで青峰は黄瀬との1on1を切り上げようとする。そのことに黄瀬は不服そうに口を尖らせる。が、青峰はニヤリと嬉しそうに眼光を光らせた。
「別にいいじゃねぇか...
それに..見たくなねぇのか?こいつのバスケ」
その言葉に黄瀬は口を噤む。青峰とバスケをしたい気持ちはもちろんある。が、それ以上に気になった。青峰相手に彼女がどんなバスケをするのかを。
黄瀬の目の前で1on1が始まる。
黄瀬は目を瞠った。青峰が彼女相手に中々振り切れないのだ。
目まぐるしく変わるオフェンスとディフェンス。
青峰の型にはまらないのびのびとしたプレーに対し彼女のプレーは繊細だった。型にはまらない動きは青峰と同じ。だが、彼女の場合その一つ一つの動きが華麗で滑らか。まるで風のようにコート上を駆け巡っていた。
黄瀬はそのプレーに息を呑むほど見惚れてしまった。
あーでもないこーでもないとギャアギャアと二人が騒いでいる音が近くにいるはずなのに遠くに黄瀬は感じた。
まるで自分一人だけ別の空間に取り残されてしまったかのように...
もしかしたらその時から俺は彼女に惹かれてたのかもしれない
出会った時からずっと俺は...
閉じた目蓋を空けた黄瀬は、昔を懐かしむように茜色に染まる空を仰いだ。