インターハイ予選決勝リーグ
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「よぉテツ久しぶりだな
どんな顔するかと思えば…
いいじゃん、やる気満々って面だな」
「はい
桃井さんと美桜さんと約束しましたから」
「言いたいことはだいたいわかるけどな
それはプレーで示すことだろ?
まぁどっちにしろ、勝ってから言えよ
できるもんならな」
久々に見る空色の瞳。その瞳は逸らされずことなくまっすぐ己に向いていて青峰は口角を上げた。その黒子の口から発せられた約束。それは青峰にも容易に想定できた。
大輝!!バスケやろ!!
ね、なんで練習こないの?
...ッ大輝!!
フワッと揺れるマリーゴールドの髪が脳裏をよぎる。が、青峰はその残像を振り切るように黒子の横を通り過ぎるのだった。
再開初っ端、アイソレーション。特定の選手がスペースを使いやすいように他の選手達が片側によるディフェンスフォーメーションになっていた。そのフォーメーションには目的は色々ある。が、今回の場合は明白。青峰と火神、エース二人の1on1だ。
青峰がニヤリと笑うとあっさり火神をかわしてダンクをするため跳び上がる。が、火神はそれを阻止した。その事実に、観ていた美桜らは目を丸くした。崩されたあの体勢から止めたことに。
「今だ!速攻!!」
日向の一声で誠凛が動き出す。が、すでに目の前には桐皇が構えていた。ボールを回す伊月は一瞬不意を突かれる。が、すぐに視界の端に入った黒子へとボールを送った。黒子は目の前に来たボールに駆け寄ると掌底で押し出すイグナイトバスを繰り出す。押し出されたボールは加速し火神の掌に収まる。
「ウォォ!!」
火神は跳び上がる。が、すでに青峰は戻っていた。ダンクシュートをする火神のボールを青峰は弾いたのだ。その瞬間第2クォーター終了を知らせるホイッスルが鳴るのだった。
「すげぇーな!青峰」
「あいつまだ全然本気じゃない」
たった一瞬。それだけでも青峰のプレーは観客を魅了していた。高尾もその1人で目を輝かす。が、その隣では暗い表情の美桜がいた。
*****
「黒子、ベンチか。大丈夫かよ」
「…仕方ないね」
第3クォーター、誠凛は黒子をベンチに下げることに決めた。不安げに高尾は眉を顰め、美桜は小さく息を零した。
誠凛にとってこれは大きな賭けだった。前半、青峰がいない状況で黒子を外すことができないほど手が一杯だった。本来なら黒子を出したい。だが実際、黒子のミスディレクションは効果が切れかけていた。
どちらをとってもリスクが高い。相田は究極の2択の中で、火神の気合いを買ったのだった。
とても黒子抜きで凌げるとは思えない。それでも今までキセキの世代との試合で急成長を遂げてきた火神の成長を美桜は信じたかった。
俺に勝てるのは俺だけだ
美桜は祈るように手を握りしめる。そのエメラルドグリーンの瞳ははるか遠くを映していた。
青峰のプレーしている姿がドンドン幼い少年に変わっていく。
やろうぜ!美桜!!
無邪気な笑みで彼はボールを突いた。
場所はとあるストバスコート。美桜は物心つく頃にはそこで大人と混じってバスケをしていた。その中に突如として現れた少年は大人と対等にバスケをし始めた。その頃から青峰にはボールハンドリング・天性のスピード・自由奔放なバスケットスタイルを持っていた。美桜は同い年の彼に憧れを抱いた。全身でバスケが楽しいと言っている彼のプレーする姿に。
誰よりも青峰のバスケに触れてきた美桜はわかっていた。まだ彼が本気でないことに。
美桜の目に映る姿が青年へと戻る。
帝光でなく桐皇を背負った黒のユニホームを着た彼はニヤリと口角を上げた。
「やっぱ性に合わねーわ。生真面目なバスケは」
途端、青峰が纏っている雰囲気をガラリと変える。そのオーラに皆呑み込まれた。
本来の青峰は型にはまらないトリッキーな動きをするプレースタイル。今まで型のあるプレーをしている方が異常だったのだ。リズムもテンポも不規則な青峰の動きは並大抵の者には予測困難。アンストッパブルスコアラーである青峰は誰にも止められない。
火神が喰らいつこうとするがいとも簡単に止められていった。
「そうじゃねーだろテメェーらのバスケは。
俺に勝てるのは俺だけだ。
テメェだけじゃ抗えねーよ」
「出てこいよテツ、決着をつけよーぜ」
火神を鼻で笑った青峰は誠凛ベンチに座る黒子の前へ。そして、出てくるように促すのだった。
差は20点。相田は覚悟を決め、黒子を送り出した。
黒子が入ったことで誠凛に点が入り始める。このまま流れが傾けばと美桜は願った。が、現実はそこまで甘くなかった。
青峰大輝は黒子テツヤにとって昔のヒカリ。そして中学時代一番黒子のパスを受け取ってきたのは青峰だ。
切り札として使ってきたイグナイトパスは意図も簡単に青峰は受け取めた。
「なぁ?!俺が取れなかったボールをッ」
「慣れれば高尾くんも取れるようになるよ」
悔しそうに高尾は顔を歪める。そんな彼に美桜はふわりと笑いかけた。そんな美桜を見て高尾は目を瞠る。彼女が儚い笑みを零していたから。
青峰大輝
写真に映る少年が彼だと高尾は確信した。青峰のプレーが美桜のバスケと重なる。きっと長い時間彼とバスケをしていたのだろう。青峰と美桜の型にはまらない変幻自在のプレースタイルは酷似していた。
なんでそんな辛そうな顔すんだよ
青峰を見るエメラルドグリーンの瞳は霞んでおり、彼女は何処か心苦しそうに高尾は見え、胸が引き裂かれる思いだった。
俺ならそんな顔させねーのに
思わず抱きしめたい衝動に駆られる。高尾はそれをグッと堪えると、前を見据えた。
「...火神くん」
美桜は目の前の光景に青ざめる。その彼女の耳に交代を知らせるブザーが聞こえてきた。
火神は痛めた足を庇うために逆の足で無理をしすぎたのだ。これを目の当たりにした相田も動揺する。が、背に腹は変えられない。苦渋な思いで相田は火神を一喝しベンチに戻した。
「火神が抜けちまった誠凛に勝ち目はねーな。
残念だけど」
「...そっ、そうだね」
はぁーと張り詰めていたものを吐き出した高尾は身体の力を抜くと背もたれにもたれかかった。
火神が抜け、ドンドン点差は開き最終クォーター残り5分で40点差...戦況は絶望的。観客側も勝敗は決まったと目の前の試合から興味が薄れていた。だが、黒子は諦めなかった。
「諦めるのだけは絶対…嫌だ!」
黒子の一声に頭を殴られたかのように誠凛は再び息を吹きかえす。そして誠凛は最後まで諦めずに喰らいついた。
「…一つだけ、認めてやるわ。諦めの悪さだけは」
中学から何一つ変わっていない黒子を青峰は無情に見下ろした。
バスケには一発逆転はない。
112対55、誠凛は完膚なきまでに叩きのめされたのだった。