インターハイ予選
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
実力通りの展開だ。
悪くはない…が、よくもない
とりあえず向こうはまだ諦めてない
後半は大坪も積極的に攻めろ
トドメを刺す
控室に戻り中谷が指示を出す。が、そのわきでは念入りに緑間は爪を研いでいた。
「おい、なにしてるの?監督の話も聞かないで」
「見たままなのだよ、爪を整えている。
俺のシュートタッチは爪のかかり具合が肝なのだよ。」
普段からテーピングで爪を保護する徹底ぶり。高尾は小さくため息を溢した。その二人の目の前で木村が何かに足をぶつける。それは、緑間の今日のラッキーアイテムである狸の信楽焼であった。
「はぁ!?前半普通にベンチにあるし、邪魔くせーんだよ」
「もう割れば?割ろう!!」
鬱憤を吐き散らす木村。それに同感だと顔を強張らせた宮地が乗ってくる。がその時、宮地はあることに気づく。
「おい、緑間の保護者はどこ行った?」
「保護者…??」
宮地の表現に緑間は首を傾げ、その背後にいた高尾は大きく噴き出した。
「美桜ちゃんのことだよ、緑間」
「おい、なんで美桜が俺の保護者になっているのだよ」
「どう見ても美桜ちゃんはお前の保護者なのだよ」
「真似をするな、高尾」
笑いすぎて目に涙を浮かべながら高尾が説明する。そんな彼を緑間は睨みつけた。その二人を呆れた眼差しで宮地達は見ていた。
「もういいお前ら、仲いいのは十分わかったから」
「とりあえず高尾、神田を探してきてくれないか?」
遠巻きに見ていた大坪が高尾を見る。それに頷いた高尾は控室を飛び出すのだった。
……美桜ちゃん
苦戦すると思いきや美桜の姿を高尾は呆気なく見つけていた。先ほどと一変して今にも雨粒が降り出しそうな曇天空。薄暗くても美桜のマリーゴールドの髪は目立っていた。ただただ、彼女は突っ立ったまま、空を仰いでいた。声を掛けていいかと躊躇する高尾。だが、視野が広い美桜は高尾が来たことに気づいていた。
「ゴメン、探させちゃった?」
空を仰ぐ視線を戻した美桜は申し訳なさそうに目尻を下げた。そんな彼女に高尾は小さく首を横に振った。
「どっかした??」
静かに近づいた高尾は彼女に寄り添うかのように美桜の隣に立った。そんな些細な彼の心遣いが美桜の心に染み渡った。
「…火神君が」
「えっ、火神??」
「恐ろしいの彼のオーラが…」
美桜の口から零れたのは他校の男の名前。呆気にとられた高尾は思わず聞き返していた。それに美桜は小さく頷くとブルっと肩を震わしたのだった。ガラリと様変わりした纏う空気は、誰かを彷彿させるほどおぞましいもの。
もう俺に纏わりつくな
誰よりもバスケが好きだった彼は誰よりも先に才能を開花する。だが、その代償にバスケ好きな少年は消えてしまった。脳裏にチラつく群青色の閃光に美桜は寂し気に目をそっと伏せた。
「…高尾君」
「ん?」
「気を付けて…
火神君がもしかしたら誰の手にも負えないくらい豹変するかもしれない」
ゾッとするほど震えあがる心が警告する、彼は危険だと。高尾に向き直り美桜は伝える。どうかこの不安が当たらないようにと思いながら。
*****
第3クォーター、黒子はベンチスタート。高尾がいる以上、打開策が見つかるまで引っ込めるほかなかったのだ。そのことに高尾は拍子抜け。対して、緑間は火神の醸し出す異質な空気を訝し気に見ていた。
こいつはなにか諦めているのとは違う
まぁいい…全力で叩き潰すまでだ
だが緑間の感じ取った違和感はすぐに現れる。
コイツいつの間に...いやそれより
シュート体勢を取り、高く飛ぶ緑間。が、その目の前には火神がいたのだ。
「ウォーー!!」
勢い良く飛んだ火神の指が先ほどは掠りもしなかったのに、今回はわずかながらボールに触れたのだ。そのことに緑間は驚愕する。
馬鹿な!?こいつありえるのか??
試合中にドンドン高くなっている!?
「おい、お前...星座は?」
「あぁ!?しし座だよ」
緑間が放ったボールは危なしく、リングの周りをグルグルと回りながらも辛うじて網に入った。それを確認した緑間は唐突に火神に正座を問いかけた。そして、火神の星座を聞いた緑間の頭にあるフレーズが駆け巡る。
1位の蟹座のあなたは絶好調!ラッキーアイテム、たぬきの信楽焼を持てば向かう所敵なし!!ただし、獅子座の方とだけは相性最悪。
出会ったら要注意!
「ふぅ~、全く本当によく当たる占いなのだよ」
今日のおは朝占いに対し、緑間はため息をつかずにはいられなかった。
*****
「あっぶね!」
「ってか、緑間のあんな入り方初めてだぞ。」
緑間の珍しいシュートに高尾と木村が声を上げる。その中、美桜ただ一人は深刻そうな表情を浮かべていた。
あれはミスじゃなく、邪魔されたんだ
予想を覆す火神の成長スピードの速さに美桜は不安げに試合を見つめていた。
「ご立派だねー、けどうちの緑間はもっととまんねねぇーよ!」
先ほどから一本も外さない日向に賞賛をする高尾。が、シューターとしての能力は緑間の方が上だと、すかさず緑間にボールを回した。
オールコートでボックスワン。
ボールを受け取った緑間に張り付くように火神が構える。その火神が放つプレッシャーに緑間は動けずにいた。小さく舌打ちする緑間。それを見た高尾が駆け出した。
無駄だぜ、前半黒子と二人がかりでも止められなかったろ?
しかも...
「今は2対1だぜ!」
高尾が二人の間に割り込んで緑間とスイッチする。高尾が来るのを視界の端に捉えた緑間は移動しシュート体勢へ。だが、高尾のスクリーンを火神は振り切った。
「それでも止める!!散々見せられたお陰で一つ見つけたぜ!
てめぇの弱点!!」
火神は緑間の元へ駆け寄り、床を勢いよく蹴り上げ飛び上がる。
「距離が長い程ためも長くなるってことだ!!」
また触れただと?!
緑間の手から離れたボールに火神の指先が触れる。これで2回目だ。
これには目の前で見た緑間だけでなく、高尾も驚愕していた。
確かに思いバスケットボールを20メートル以上放るだけでも普通ありえねぇ。通常より長いためが必要になる。
けど、おいおい!!一度スクリーンでマーク外したのにッ!
高く上がるボール。
だが、その軌道はいつもとは違うものだった。ボールは勢い良くリングに当たる。ゴール下にいた選手がリバウンドを取ろうと跳びあがる。が、そのボールをもぎ取ったのは、東京屈指の大型センターである大坪だった。
その大坪に誠凛サイドはダブルチームをつけてきた。
「こりゃあコッチかな」
大坪に回すのを諦め、高尾は緑間へとボールを送った。
さっきより近い分、溜めも短い
今度は行ける
そう思い、ボールを回す高尾。だが、シュート体勢を取った緑間に対し、火神が凄い形相をして走り込んできたのだった。
「緑間ッ!!」
「真太郎!!ダメッ!!!」
気づいた高尾だけでなく、ベンチにいた美桜も切羽詰まった声を上げた。次対峙したら今度こそ止められてしまう、そんな予感がしたのだ。その悪い予感は当たり、緑間の手で放たれたボールを火神が叩きつけたのだった。そのボールを伊月が拾い、そのまま楽々と決めた。
緑間のシュートのもう一つの弱点だ。
どこからでも打てる。だが、裏を返すとボールを取られたら相手側にとって絶好のカウンターチャンスになってしまうのだ。
「高尾、ボールをよこせ!!」
「でもッ!大坪さんにはダブルが…」
「構わんッ!!」
俺が決めるとばかりにダブルがついていながらもボールを大坪は要求する。高尾は躊躇しながらもボールを大坪へ。受け取った大坪はダブルチームにお構いなく勢い良く跳び上がった。それを見た火神は全速力で走りだした。
あの距離を一瞬で詰めたの!?
大坪のボールは火神により阻止されてしまった。一同が驚愕する中、美桜の脳裏にはこの間の試合が過ぎっていた。
確かに片鱗はあった。それは海常戦最後の黄瀬との一騎打ち。その時から予感はしていた。火神が成長したら緑間の天敵になることを。
彼が持つのはバスケにおいて最も大きな武器になる力、天賦の跳躍力。その力はキセキの世代と渡り合うには十分だろう。
でもこのままだと彼は…
このままだと不味い…
モヤッとした感情を試合を観ていた二人が覚えた。それは、キセキの世代のプレースタイルに違和感を覚えた美桜と黒子だった。
「監督、なにか手を打たないと…」
「…その必要はないと思います」
次々と火神の手により秀徳サイドの点が封じられていく。が、この状況下に対して美桜は対策を打つ必要はないと訴えた。
遺憾なく力を発揮していく火神はチームプレイを放棄し、1人プレーをしていた。が、才能が開き始めた火神にはそれを最後まで持たせる体力はない。
「そろそろガス欠になって跳べなくなるはずです。」
美桜は苦々しい思いで火神のプレーを見つめた。