インターハイ予選前
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「高尾君のバカ!」
泣きつかれると思った高尾は美桜に怒られていた。
起きていた高尾を見た時最初に抱いたのは安堵。だが、すぐにそれは苛立ちへと変わった。
どうして1人で抱え込んだりしたのよ
美桜はその感情のまま第一声を高尾に向けたのだ。
え?なんで俺怒られてる?
状況を呑み込めない高尾は驚く。その姿に、彼がまだ自覚していないのだと把握した美桜は彼の両肩を持ち無理やり自分の方へ上半身を向かせた。
「なんで言ってくれなかったの!!私怒ってるんだよ」
「...ゴメン」
真正面で言われた美桜の一声。その言葉でようやく高尾は理解した。何故彼女がこれだけ怒っているのかを。
思わず高尾は、真っ直ぐに向けられるエメラルドグリーン色の瞳から背けるように目を伏せた。
「緑間や美桜ちゃんまで手を出されたくなかったんだ」
「...っ..それでも話してほしかった。」
美桜はゆっくりと彼から手を下ろす。その彼女の肩はわずかに震えていた。そして瞳から涙が流れ出していたのだ。美桜は涙を拭いながらも高尾に向け口を開く。
「お願いだからもう一人で抱え込まないで。
もうこんな思いするのはイヤだ」
嗚咽混じりに美桜が紡いだのは本音だった。
そんな彼女に高尾は手を伸ばした。
「...ゴメン!悪かった...
だからもう泣かないでくれよ」
高尾は美桜を腕の中に閉じ込めた。
覚悟しといたほうがいいのだよ
緑間が言っていた真意を今になってようやく理解する。彼女が怒り泣きじゃくる姿は見るに堪える。
もう泣かないでくれ
高尾はギュッと美桜を抱く力を強めた。
そんな彼に対して気づいたら彼の腕の中にいた美桜は、彼から伝わってくる温もりに大事に至らなくて良かったとホッと一安心していた。
「ねぇ、このまま聞いてくれる?」
気づいたら美桜は無意識のうちに口を開いていた。
今まで誰にも話したことがないことを。
「私もね...同じ様なことされたことあるんだ
...だから高尾君の考えすごくわかるんだよ」
それは美桜が中学1年の頃。
ほんの少し前まで小学生だった美桜はいきなりのスタメン入りを果たしたものの、それに不服な人達に影でひどい仕打ちを受けていたのだ。だがある日、それに気づいた幼馴染が助けてくれた。
「何やってんだ馬鹿野郎!!」
「もっと人に頼れって言ってんだよ」
今まで見たことがないくらい必死な表情だった彼は、周囲を一掃いた後、美桜を叱り飛ばしてくれたのだ。それでようやく美桜は周りに頼ることの大切さがわかった気がしたのだ。
でも…教えてくれたアイツは…
「...なぁ?それって緑間じゃないんだよな?」
「真太郎とはまだ知り合ってなかった頃だからね...
私の小学校の頃からの腐れ縁ってやつ...」
「そうか...やっぱりどこ行ってもあるんだな?」
「ホントだよね」
懐かしげに話す美桜。だが、時折美桜から滲み出ていたのは悲愁感だった。それが顕著に表れたのは、高尾が疑問を投げかけた時だった。
「なぁ..あの時眼の色変わったよな?」
話題を変えようと、高尾はあの時気になっていた事を口にする。その切り返しに美桜はビクッと身体を震わした。
「え...う...うん」
美桜はこの目が嫌いだった。
皆が奇異な目で見てくるから。
それでも彼が掛けてくれた言葉で救われていた。
「いいじゃねぇーか?
俺は好きだぜ、美桜の瞳。
綺麗で見てて飽きねーだろ?」
目を逸らすこともせず真っ直ぐに群青の瞳を向ける彼が無邪気に笑う。
その姿を思い出した美桜は気まずそうに目を伏せる。そんな美桜を見て、申し訳無さそうに高尾は後頭部を掻いた。
「やっぱダメかな?もっと間近で見てみたかったんだけど…」
「....良いよ...特別だよ」
高尾くんになら良いかな
美桜は目を閉じると能力を開放した。
「...私ね元々視野は広いほうなんだ..ってまぁ高尾君程ではないけど..でもね…この目にすると相手の先の動きをよめるんだよ」
ゆっくりと目蓋が開けられ、緋色の瞳を覗かせる。その瞳を高尾はマジマジと見つめた。
彼女の内に秘めている意思を表しているかのように輝いて光る緋色。その瞳は光と反射して更に輝いていた。
そんな魅惑的な瞳に高尾の心は吸い込まれていた。
「スゲーな、美桜ちゃん!!それにその眼の色好きだぜ。
普段のエメラルドグリーンも透き通っていていいけど、こっちの緋色は内なる高鳴る感情っーの?が上手く表れてる気がして...なんかうまく表現できないけどさ...どっちの色も美桜ちゃんを際立させていてさ!
...とっても綺麗だぜ」
高尾はほんのりと頬を赤く染めながらも、なんとかこの感情を言葉として伝える。そのまっすぐに向けられるダークブルーの瞳に美桜は照れくさそうに頬を染めた。
「ありがとう...
おかげでこの目を好きになれそうだよ」
美桜はふんわりと笑う。だが彼女の心情は穏やかではなかった。
ズルいよ、私だけこんなにも感情が乱れるなんて...
ドックンドックンッと美桜の鼓動は高ぶっていたのだった。
美桜は内心恨めしげに高尾を見上げる。が、そんな美桜の心情など知らない高尾は小さく笑うとベッドから抜け出し立ち上がる。
「よっと」
「もう大丈夫なの?」
「お陰様でな...そろそろ帰ろうぜ!」
「うん!」
各々、緑間が持ってきてくれた荷物を持つと帰路につく。時間は経過していて空は鮮やかな茜色に変わっていた。
そして沈もうとしている夕日は優しく彼らを照らすのだった。