インターハイ予選前
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太陽の日差しがさしこめる教室
その窓辺の席では読書をしている人が唯一人。いつも彼の隣には絡む人物が居るのだが、今は一人で本を読んでいた。だが彼は、日常的になりつつあったあいつが最近居ないことに違和感を覚えずにはいられなかった。そんな矢先の事だ。突然携帯の着信音が教室に鳴り響いたのであった。携帯を取り出し画面をみて驚く。なんとディスプレイに表示されていたのは美桜の名前。
何事か?
読書する手を止めた緑間は通話に出る。その途端、電話越しに己の名を悲痛な声で呼ぶのは美桜だった。
『真太郎!!』
「落ち着け美桜...どうしたのだよ」
『...っ..どうしよう..高尾君が..』
電話越しでもわかるほど美桜は噎び泣いていた。このままでは状況把握ができない。美桜の状況を瞬時に把握した緑間は、すぐさま行動を移した。
「どこにいけばいい」
『...体育館』
「すぐ行くから待ってるのだよ」
すすり泣きながらも美桜は何とか居場所を答える。そんな彼女に優しく声を掛けた緑間は通話を切る。そして珍しく慌てて教室を飛び出すのだった。
一体なにがあったのだよ…
体育館についた緑間は己の目を疑った。最近体調が悪いのかと思うほどパフォーマンスが悪かった高尾はボロボロの状態でうつ伏せに倒れていて、その傍では美桜が蹲っていた。
緑間はゆっくりと近づく。
その足音に気づいた美桜は顔を上げると緑間の方に振り向いた。その美桜の表情に緑間は珍しく狼狽する。何故なら、彼女にいつもの威勢はなく今にも消えてしまいそうだったからだ。
急いできてくれたのだろう。
肩で息をする緑間に縋るように美桜は震える唇を開いた。
「...真太郎..助けて」
細く震えた声。
そして美桜の緋色の瞳から一粒の涙が流れ落ちていく。
久々に見たのだよ…
緋色の瞳の状態の美桜を
緑間は驚きながらも、彼女の前で屈むとあやすように美桜の頭を優しく撫でた。
「…頑張ったな、美桜」
「うっ…うん…」
「とりあえずこのバカを保健室に連れてくぞ」
とりあえず話は後だ。
緑間の言った言葉に美桜は小さく頷く。それを確認した緑間は彼女を取り乱す根源である高尾を抱え込んだ。
「ほら行くぞ美桜」
緑間は美桜を促し、保健室へと高尾を運び込んだのだった。
*****
「お前は相変わらずだな」
緑間は小さくため息を零す。
保健室に移動する頃には、美桜はだいぶ落ち着きを取り戻し話ができる状況になっていた。そんな彼女から、高尾をベットに横たわらせた後、緑間は一部始終を聞いた。
まさか、高尾が酷い目にあっていたとは...
席が前後にも関わらず全く気づかなかった緑間は負い目を少し感じる。が、目の前の彼女に対する呆れの方が緑間の中では上回っていた。
心底呆れ返りながら自分を見る緑間に美桜はぎこちない笑みを浮かべた。
「考える前に体が動いたんだ。
真太郎も同じ境遇に直面したら同じことするでしょ?」
ホント危なっかしいのだよ
何度目かわからないため息をついた緑間はその美桜の投げかけに答えることなく踵を返し扉へ向かった。
「...荷物をとってくるのだよ。」
扉のノブに手を据えた緑間は振り向くことせず、扉を開ける。その彼の言葉に、私もと美桜は腰をあげようとする。が、それを阻止するかのように言葉を続ける。
「お前はここにいろ。きっとあいつが目が醒めたときに一番に目にするのがお前だったら嬉しいだろうからな」
え?
緑間の言葉に美桜は不思議そうにキョトンとする。
「どういうこと?」
「とりあえずここでこのバカを見張っとくのだよ」
一々説明するのすら面倒だと緑間は、早々に保健室を出た。そして扉を後ろ手で閉じると緑間は深く息を吐きだした。
たく...二人揃って面倒くさいのだよ。
******
「...ん」
重たい瞼をゆっくりと開ける。すると高尾の目には見覚えのない白い天井が見えた。
ここは...
記憶を思い起こしながら、高尾は身体を持ち上げようと手を置く。すると先程の冷たい体育館の床ではなく、反発性のあるベッド。
あれ?確か体育館でぶっ倒れたよな?
ようやく意識が飛ぶ直前の記憶を思い出した高尾は、重たい身体を頑張って起こした。すると高尾の視界に真っ先に映ったのはマリーゴルド色。つきっきりで傍にいた美桜が椅子に腰掛けて頭をベッドに預けて眠っていたのだ。
俺が起きるの待ってくれてたのか…
なんか迷惑かけちまったな
最初に抱いたのは後ろめたさ。
だが、目を醒まして最初に視界に入ったのが彼女だったことに高尾は心が暖かくなるのを感じた。
高尾は無意識のうちに美桜の柔らかそうな髪に手が伸びそうになる。が、それをまるで遮るかのように呆れ返った声が高尾の鼓膜を揺らした。
「やっと起きたか」
ビクッと高尾は身体を震わし手を止めると、声の方向に顔を上げる。すると壁に身体を預けて腕を組んでいる緑間がいたのだった。
「真ちゃんいたのかよ?」
いるなら声掛けてくれたっていいだろ…
黙って見ていた緑間に、高尾は恨めしげに見上げた。そんな高尾に緑間はため息を吐き出した。
「さっきからな。」
荷物を取って戻ってきた頃にはすでに美桜はこの状態。起こすのも憚れて、緑間は扉側の壁に身を預けて待つことにしたのだ。
「たく...面倒事を持ち込まないでもらいたいのだよ。」
「え?俺被害者じゃねぇーの?」
面倒事に身を覚えがないんだけど
緑間の言葉に不服そうに高尾は口を尖らす。そんな高尾に緑間は今まで以上に深い息を吐き出した。
「....あいつがこんなにも気を取り乱したのを見たのを俺は見たことがないのだよ」
そう言った緑間の目線はスヤスヤと眠っている美桜へと向けた。
え!?
高尾は慌てたように彼女の顔を覗き込む。すると、涙を流した後が残っており少し疲れた表情に見えた。
「...俺のせい?」
高尾は恐る恐る聞く。そんな彼に突きつけるようにバッサリと緑間は言い切る。
「そうなのだよ!...覚悟しといたほうがいいのだよ」
「どういうことだよ?」
「今にわかるのだよ...じゃあな。」
もう面倒事はゴメンだと、意味深な言葉を言い残し緑間は踵を返し扉を半開きにする。
「...さっさとその身体治すのだよ」
人を気遣う言葉を掛けられるんだな…アイツ
躊躇したのか、だいぶ間を開けた後に発せられた一声に高尾は呆ける。その呆けた一瞬の隙に、緑間の姿は消えていた。代わりに聞こえてきたのは小さな呻き声。
ん?
ムクッとマリーゴールド色が動く。眠りから美桜が醒めたのだ。ゆっくりと起き上がる美桜に高尾は視線を落とした。顔を上げた美桜の瞳は先程の緋色ではなく、エメラルドグリーン色。
トロンとしていた眼差し。だが、美桜は高尾が起きていることに気づくと目の色を変えた。
げっ!!
高尾は思わず仰け反った。
何故なら、美桜は瞳を震わせ凄い形相で睨んでいたからだ。