インターハイ予選前
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ほら?お先にどうぞ」
余裕そうな笑みを浮かべ彼らは美桜に先行を譲る。それを美桜は素直に受け入れ、ボールを貰った。
「どうも」
随分と舐めてるくれるじゃない?
女だからって見下されるのが一番気に入らないんだよね…
どこからでもどうぞと隙だらけの構えに美桜は苛立ちを抱きながらも、心を鎮めようとゆっくりと目を閉じた。
スゥーッ…
ハァーーーッ…
大きく息を吸い込み吐き出す。
大丈夫…これを使うのは一瞬だけ…
美桜はゆっくりと目を開いた。久しぶりのこの感覚に美桜は高ぶる感情を抑え込んだ。そんな彼女の瞳を見て、高尾は目を見開き驚いた。
普段の透き通ったエメラルドグリーンから燃え上がるような緋色に変化した瞳の色に。
「じゃあいきますよ、先輩」
トーンを落とした美桜の声音は気迫があった。それだけではない。サッと構えてボールをリズムよく突く姿は一瞬の隙もなく洗練されていた。その姿に対峙した彼は狼狽えつつも慌てて身構え直した。
ヌルい…
視界に映る彼らの動きに美桜は口角を上げると、一気に加速。あっけなく彼らをパスした美桜は容易くゴールドリングを揺らすのだった。
たった一瞬の出来事
何が起こったかわからずに彼は呆然立ち尽くす。が、彼はニヤリとうす気味悪く笑っていたのだった。
「とにかく勝てばいいんだろ?」
攻防が交代し身構えた美桜に対し、対峙した彼は1on1にも関わらず、ボールを突然投げた。その投げられたボールは周囲にいた一人へ。そのボールの行方を横目で追っていた美桜はゆっくりと視線を正面へ。すると正面にいた彼はニヤリと笑っていた。
おいおい、話が違うじゃねぇーか!!
壁に身体を預け座り込んでいた高尾は悔しげに唇を噛み締めた。
いくら美桜ちゃんが上手くたって複数人相手じゃ!!
高尾は思わず身を乗り出すために重い腰を持ち上げようとする。が、そんな高尾の方へ美桜の視線が向く。まるで高尾の動きがわかっているかのように美桜は片目を瞑ると、口を動かす。
大丈夫だから
口の動きがそう言っているように見えた高尾はゆっくりと態勢を戻した。
高尾が腰を下ろしたのを確認した美桜は対峙する彼らに向き直った。
「確かにそうですね」
怖気づくと思っていた彼らは、美桜の表情に驚愕する。何故なら、美桜は怖気づくどころか、嬉しげに悪巧みを企てそうな悪い表情を浮かべた笑っていたからだ。
「何狼狽えてるんだお前らッ!!
あっ…相手はたかが女一人だぞ!!」
彼らは意を決して動き出す。が、彼らの動きなど美桜の緋色の瞳には筒抜け。身を屈め一気に距離を縮めた美桜は、床をバウンドするボールを掻っ攫った。
「なっ!?」
一瞬の出来事に呆気にとられる彼らを置き去りにし美桜はシュートを決めた。その後も、彼らがどんなに寄ってかかってきても美桜の敵ではなかった。目に留まらないスピードでボールをカットし、持ち前の俊敏さで美桜はディフェンスをパスし次々とシュートを決めていった。
そんな彼女の姿に高尾は大事な場面なのを忘れ、喰いいるように見ていた。それほどバスケをする彼女は生き生きと輝いていて、とても綺麗だった。一方で一点も取れないどころか一人の女の手により次々と点が入れられていく展開に、彼らは苛立ちを募らせていった。そしてついに痺れを切らしたのだった。
「やってらんねぇ!!」
バンッ!!
一人がボールを思い切り地面に叩きつけ、試合を放棄する。そして逃げるように彼らはその場からスタスタと足早に立ち去ったのであった。
ボールの跳ねる音がやみ体育館には静寂に包まれる。
高尾は美桜の元に駆け寄ろうと立ち上がる。だが立った瞬間急にめまいに襲われ目の前が暗くなるのを高尾は感じた。
今まで気力でなんとかしてきたのだが流石に体は悲鳴を上げたらしい。
ヤベ...ここでぶっ倒れるわけには
そう感じつつも抗うことは叶わず、身体が傾く。その姿は緊張を解いた美桜の視界の端に捉えられていた。
「高尾くん!!」
美桜は血相を変え、彼に手を伸ばす。だが、美桜の手は届くことなく、力を失った彼の身体はコート上に倒れ込んでしまう。慌てて駆け寄った美桜は必死に彼の名を何度も呼んだ。
段々と彼女の呼ぶ声が遠くなっていく。
意識を失う直前、高尾が聞いたのはかすかに震える声だった。
ど、どうしよ...とりあえず保健室?
でも私一人じゃ運べないし...
美桜は柄に合わず取り乱した。そんな中、頭の中に浮かんだのは傍若無人な彼だけ。考える間もなく、美桜は震える手で携帯を握るのだった。