インターハイ予選前
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高尾君の様子がおかしい...。
スタメンの発表から数日、美桜は違和感を抱いていた。
本人はなんともないように振る舞っているのだが動きがぎこちない。どこかかばってるかのような動きをするし、前に比べて肩で息をしている頻度が高く思えた。直接本人に聞きたいのだが踏み込んでいいのかわからず聞けずじまいで、美桜はモヤモヤした気持ちを抱いたままズルズルと日が過ぎていっていた。
そんなある日のこと
「...神田、ちょっとこい」
英語の授業が終わり伸びをしていた美桜を目に留めた中谷が声をかける。それに美桜は不思議げに立ち上がった。こうして職員室に呼び出された美桜は自席に深く腰掛けた中谷に問いかける。
「なんですか?」
「そろそろIH予選のトーナメント表が出ているはずなんだ。
刷ってきてくれ」
8月に行われるインターハイ。その出場をかけた予選会が迫っていることに、美桜は目を瞬かせた。
「はい、わかりました」
すぐに了承の返事をした美桜は、職員室を後に。そして美桜はパソコンがある部屋に入り画面を立ち上げると、トーナメント表を探した。そして目的のトーナメント表を見つけた美桜は、この組み合わせに驚きながらも印刷をした。
早く帰ろ…
美桜は早く戻るために普段使わない通路を通った。そして、人が滅多に立ち入ることがない体育館の裏手へ。その時、美桜の耳に思わず立ち止まらざる得ない鈍音が入った。
ガン!!
なにかが叩きつけられたような音。不思議に思った美桜は恐る恐る音がした方へと歩み寄り覗き込んだ。
「くっ!!」
腹を殴られ勢いよく壁に激突する青年。彼は呻き声を上げながら力なくズルズルと壁に背を預け座り込む。痛む腹を抑えながら青年は薄っすらと目蓋を開け、ダークブルーの瞳を鋭く尖らせた。
クソッ…
舌打ちをしたい衝動を抑えながら、せめてもの抵抗だと青年…高尾和成は楽しげに笑みを浮かべ自分を囲む彼らを睨みつけた。
コイツら、わざと見えない部分を殴りやがって…
呼び出される度に暴力を受けた高尾の身体は痣だらけ。その痣は服を着れば見えない箇所に付けられていたのだ。
「これでしまいか?高尾」
「サッサと立てよ」
ざけんな
悔しげに高尾は痛む身体を起こそうとする。
だが、そんな高尾と彼らの間に割って入るかのように綺麗な長いマリーゴールド色の髪が靡いた。
「こんなとこで何してるんですか?先輩方...」
「...なんでいるんだよ!美桜ちゃん!」
高尾は目を大きく見開き驚く。そんな彼に振り向くことせず、美桜は目の前の彼らを睨んでいた。
確か正面の人は高尾くんと同じポジションだったよね…
そして周りの人はポジションは違うけど同じバスケ部員…
ある一つの仮設にたどり着いた美桜はふつふつと腸が煮えくり返るのを感じた。
「彼の躾に決まってるだろ?」
「スタメンになれなかったことへの腹いせでは?」
怒りを押し殺しながら美桜は核心をつく言葉を浴びせる。案の定、美桜の言葉に彼らの形相がみるみると変わっていった。
「それの何が悪いんだ!!こいつさえいなかったら俺だったのにッ!
どうせ緑間のおまけだろ?」
「先輩の努力が足りなかったからでしょ?
何も知らないのに...あーだこーだ言わないでもらえますか?」
開き直り喚く彼に美桜は冷徹な眼差しを向けた。
何も知らないくせに…
部活の時間が終わった途端に真っ先に帰る彼らに対して、高尾は毎日遅くまで残って自主練をしていた。
こんなの誰が見たってどちらがスタメンを取るかは明らかだ。
だからこそ美桜は許せなかった。知りも知らない癖にテキトーなことを言う彼らのことを。
「どうせバスケで勝てないからって彼に手を出したかもしれないですけど...やめてもらえませんか?」
「あー!?うるせーなッ!マネージャの癖に横から口出しやがって!!」
「じゃあ、こうしましょ?私と1on1してください。」
おいおい!1on1って何考えてんだよ!
蚊帳の外に置かれていた高尾は、とんでもない提案をする美桜に愕然とする。そんな彼を置き去りに話は続いた。
「私が勝ったら彼にこれ以上手を出さないで下さい。そして二度と私達の視界には入らないで頂きたい」
「で?俺達が勝ったらどうしてくれるんだ?神田さんよ〜」
美桜の話を黙って聞いていた彼らはニヤリと笑みを浮かべた。その目は美桜の胸元から足元まで、全身を舐め回していた。その視線を感じ取った美桜は嘲笑する。
「私を煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
「よし!!のったぜその勝負!!さぁ、さっさと始めようぜ」
彼らは美桜の申し出を受け入れると、ギャハハと笑いながらバスケコートへと歩いていった。すでに勝敗は決まっていると云わんばかりの笑い声に高尾の苛立ちは込み上がる。
「ちょ!!美桜ちゃん!!何してるんだよ!」
慌てて高尾はコートに向かおうとする美桜の腕を掴んで引き止めた。
引き止められた美桜は振り返る。するといつになく不安そうな表情を浮かべる高尾がいた。そんな彼に美桜は満面な笑みを向けた。
「大丈夫だって!」
「だって、もし...」
「なに?高尾君は私の事信用できないの?」
「そんなわけ無いじゃん!!」
「じゃあ...待っててよ...ギャフンと言わせてくるからさ」
高尾君を痛めつけた仕返しはたっぷりしてやる!
美桜は自信満々にコートへと向かった。
美桜と対峙したことある高尾は、彼女の実力をわかっているつもりだ。だが万が一がもしあったら。想像しただけでゾッと背筋が凍るのを高尾は感じた。
ここでジッとしていることしかできねーのかよ、俺は
目の前で起ころうとしている勝負をただ見守ることしかできない自分の立場に高尾は凄く歯がゆさを感じ、唇を噛み締めた。