序章
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「なぁ?美桜ちゃんと緑間ってどういう関係なの?」
居残りの自主練習の時間。
黙々とシュート練習を続ける緑間はひたむきに練習を真面目にこなす中学時代と変わっていなかった。
そのことにホッと安堵していた美桜にふと高尾は声を掛けた。
気配に気づかなかった…
美桜は先ほどまで練習していた高尾が気づかぬうちに己の近くにいたことに内心驚きながらも、彼の問いに愛想笑いを浮かべながら答えた。
「あ~...
腐れ縁だよ... 中学が一緒だっただけ」
「え!?美桜ちゃんも帝光中学校なのかよ!?」
「そうだよー」
「なんだ...
お前美桜の事知らないのか?」
美桜の口から出てきた名前に高尾は前のめりになり驚く。そんな彼にお構いなく美桜は間延びした声で返答する。そんな彼ら二人の会話が聞こえていたのか、緑間がシュートするその手を止めた。
「ノルマは終わったの?」
「いやまだだ…」
「はやく続きやりなよ…」
「え?美桜ちゃんそんなに有名なのか?」
過去に触れてほしくない美桜は、早く厄介払いしたく緑間にノルマの続きを促す。が、緑間は珍しく練習に戻らなかった。そんな彼に高尾は話に喰いつくように乗っかってきて、驚いた表情を浮かべ美桜を見るのだった。
過去に触れてほしくないんだけどな...
興味津々な彼の眼差しに耐え切れず、視線を逸らし美桜は言い淀んだ。そんな彼女に対し突如ボールが投げられる。それを反射的に取った美桜は投げてきた緑間の方を振り向いた。その美桜のジト目なぞ気にする素振りを見せることなく緑間は小さく口元を緩めた。
「なら、体験してみるといいのだよ
美桜、アイツと1on1だ」
「お!?
美桜ちゃんと1on1か...やろうぜ!負けねぇーぞ」
何気ない今の些細なボールのやり取り。だがボールが投げられた方向は彼女にとって死角だったはず。それを振り向くこともせずなんなく片手でボールを受け取った彼女に高尾は内心驚いていた。そのため、緑間が提示した提案は有難い話。すぐさま、高尾は提案に乗り、やる気満々にコートへ行った。
二人共私の意見を聞かないの...
美桜は大きく肩を落とす。だが、すでに大きく肩を回して高尾はやる気満々。緑間はジッと美桜を見つめたまま。
やるしかないのか…
美桜は諦めて渋々立ち上がりコートへ向かった。
*****
「じゃあ行くよ」
ジャンケンによりディフェンスを高尾、オフェンスを美桜がすることに。
美桜は手に持つボールを器用に回すと、床に落とす。
ダムッ
床で跳ねたボールは吸い寄せられるように彼女の手に収まる。
そのたった一瞬の瞬間に高尾の心は奪われた。
繊細なボールコントロール
加えて力強いドリブル
彼女のフォームは綺麗で全く隙がない
「さて、どうしたもんかね…」
一瞬目を奪われたもののすぐさま、高尾は目を細め好戦的な眼差しを美桜に向けた。
が次の瞬間、高尾の視界から美桜の姿が消える。
ハッと高尾が気づいた時にはボールがネットを潜る音が聞こえていた。
慌てて高尾は背後を振り返る。
すると、数m先のゴールには美桜の姿。そして、彼女の手にはネットを潜ったボールが綺麗に収まっていた。
「まじかよ…」
高尾の口からは乾いた声が漏れた。
高尾自身抜かせる気など微塵もなかった。彼は他の人とは異なり少し特殊な目を持っている。
ホークアイ
その目で高尾は360度広い視野を見渡すことができるのだ
だが実際その目でも彼女を捉えることができなかった。
…だからやりたくなかったのに
持ち前のドリブルワークと俊敏さで彼のディフェンスを回避してゴールへとシュートした美桜は、立ち尽くした高尾を見て顔を歪ませた。
試合の時でも、練習の時でも、初対面の相手とやると毎回同じ反応をされる。だが、高尾のそんな表情は見たくなかったと美桜は無意識の内、思ってしまっていたのだ。
「バカめ、何驚いてるんだ?
彼奴は全然本気ではないぞ」
静寂化した体育館。
その場に黙って見守っていた緑間の冷静な声が響く。
センスは鈍っていないようだな
緑間は自分のことのように得意げに眼鏡を押し上げた。
「まじかよ!?スゲー!!美桜ちゃん!!」
呆然と立ち尽くしていた高尾は、先ほどと打って変わって大きく目を瞬かせた。興奮気味に声を上ずらせ、高尾は美桜に駆け寄る。そんな彼に美桜はぎこちない笑みを浮かべた。
「え...あ..うん..ありがとう」
確かに緑間の言っていることはホントだ。
ボールを持つことすら久々だからと、最初は軽くと思っていた。だが、実際久しぶりにボールを持つとしっくりと自分の手に馴染んだ。身体に染み付いているものは簡単には消えないのだと美桜は思い知らされた。
「ん??」
複雑そうな美桜の表情に高尾は疑問を抱く。が、高尾が口を開く前に緑間が話を切り出す。
「美桜はな...」
「はーいストップ!そこまで!!もう時間過ぎてるから帰ろ〜」
だが、緑間の話を遮るように美桜が慌てたように声を上げた。
もうこれ以上過去の話をされたくない…
瞬時に体育館に付けられた時計を確認した美桜は、彼らに片づけをするように促した。
察したのだろう…
緑間は不服そうだが素直に口を硬く閉ざす。
それを確認すると美桜は、状況を呑み込めていない高尾の背を押した。
「ほら!
高尾くんも突っ立ってないで!!」
軽く高尾の背を押した美桜は足早にボールが入っている籠へと向かう。
急にどうしたんだ??
急な様変わりに高尾は彼女に促されるままに片づけをしようと動く。そんな彼に対し、流されそうになった緑間は思い出したように口を開く。
「美桜…
俺はまだノルマが終わっていないのだよ」
そんな彼の一声に美桜はジト目を向ける。
「真太郎が余計なことをするからでしょ?」
呆れかえった表情で返答した美桜に対し、緑間は伏し目がちに眼鏡を押し上げる。
「…余計なことではないのだよ
久々に美桜のバスケを見れたのだからな」
「…あっそ」
緑間の言葉に眉を顰めながらも、美桜は粗方の片づけを終えると、乱雑にこの体育館の鍵を緑間に渡した。
「ちゃんと鍵閉めしてよね」
「感謝するのだよ」
そして、美桜はそそくさとこの場から逃げるように体育館を後にするのだった。