序章
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ハァーーーッ...
1年生のとある教室
ホームルームが終わり、早速できた友達と共に教室の外へと次々クラスメイトが消えていく中、少女が一人大きなため息を吐き出し、机に身を預けていた。
そんな彼女が頭を悩ませている原因は、今彼女自身が持つ一枚の紙切れ。
その紙切れの正体は部活希望届だった。
「あぁ...ホントにどうしよ...」
新年度早々で心踊らしている雰囲気とは場違いなほどドンよりとした気持ちで、彼女...神田美桜はヒラヒラとさせている紙切れを眺めていた。
高校に上がったら部活に入ろうとは微塵たりとも考えていなかったのだ。だが、残念なことにこの秀徳高校は強制的に何かしらの部活に加入しなければいけなかったのだ。
そのことを知らなかった美桜は、伝えられた初日に愕然とした。その後どうしようかと悩んでいるうちに仮入部期間は過ぎ、入部届の提出期限が迫ってきていた。
「まぁとりあえず、適当に...」
文化部の名前を書いて提出してしまおう
そう思い立つと善は急げとボールペンを手に取る。が、書こうとした瞬間彼女の目の前から突如その紙が視界から消え去った。
「えっ...」
慌てて美桜は顔を上げる。
するとそこには見覚えのある人物が呆れて返っていた。
「久しぶりなのだよ...たく...なにしてるのだよ」
幻かと思ったが彼の発した言葉で美桜は現実なのだと叩きつけられた。
特徴的な語尾
緑色の髪
左手にテーピングを巻いている
こんな人物が複数人いたらたまったものではない。
彼の名は緑間真太郎
元帝光バスケ部副主将で、「キセキの世代」随一の3pシューターである。
忘れてた...
美桜は完全に見落としていたのだ。
秀徳高校は確かに都内随一の進学高であると同時にバスケにおいては前年度全国ベスト8、11年連続WC出場の実績を持つ三大王者の一角、東の王者。
通称「歴戦の王者」
こんな高校にキセキの世代が来ないわけがない...
秀徳高校の監督は彼を引き抜いたのだ...
「久しぶり...真太郎...
よく私がここにいるってわかったね」
軽い目眩を覚えながら美桜は尋ねた。そんな彼女に対して、緑間は表情を変えることなく眼鏡を押し上げる。
「赤司の情報網を舐めるのではないのだよ」
「あーなるほど...
あいつの仕業か」
納得した美桜は脱力しながらも「その紙返してよ」と手を伸ばす。だが取り戻せるわけがなく、緑間はその中身に勝手に目を通し始める。その行為に美桜は椅子から慌てて立ち上がった。
「ちょっと待って!!」
「...バスケ部には入んないのか」
静止は間に合わず、まだ何も記載されていない紙から慌てふためく美桜に視線を戻した緑間はまっすぐ彼女を見据えて尋ねた。その彼のまっすぐな視線に耐えきれず、美桜は視線を下に向けて答える。
「入んないよ...もうバスケには関わらないから」
「バスケ部のマネージャーになってほしいのだよ」
...?
脈絡がない唐突な言葉に美桜の思考は停止する。聞き間違いであろうかと恐る恐る美桜は視線を上げる。が。聞き間違いではなかったようで、彼の表情は真剣なものだった。
私の話を聞いてた?
バスケに関わりたくないと言ったのになんでバスケ部のマネージャー??
そんな彼に若干の苛立ちを覚えながら、美桜は緑間に詰め寄る。
「ちょっと!話ちゃんと聞いてた?
私はもうバスケとは関わらない!
だからマネージャーもやる気はない」
「頼む!!マネージャーと聞いてお前しか顔が思い浮かばなかったのだよ...
美桜...
やってほしいのだよ」
そう言うと緑間は深く頭を下げた。
緑間の端からの目的は彼女の勧誘だったのだ。
赤司から話を聞いた時は、緑間自身驚いたものだ。忽然と姿を消した彼女がバスケ部のある、しかも強豪校に進学するとは思えなかったのだ。
だからこそ緑間は思った。
もしバスケ部に入る気がないならば、マネージャーとして彼女を引き止めようと。このまま彼女をこの世界から遠ざけるのが惜しいと緑間は思ったのだ。
そして緑間は彼女を見つけるため、虱潰しに教室を覗いて探した。ようやく見つけた彼女は、ショートだった髪を長く伸ばしていたが、緑間は見落とさなかった。
当然素直に頷いて貰えるとは思っていない。
緑間は彼女が頷くまで、頭を下げ続けるつもりだった。
そして緑間の目論み通り、目の前の彼女はあたふたとし始める。
何故なら、緑間が頭を下げるなんて姿は美桜の記憶の限りではないのだ。
そのため、完全にパニック状態に陥った美桜は無意識のうちに口を開いてしまっていた。
「わ...わかった..やる..
やるから顔上げて」
...言ってしまった
美桜はやってしまったと青褪めた。
今更やっぱりやりませんは、彼に通用しないだろうと冷静になった頭で考える美桜の目の前では、すぐさま緑間がその返事を待ってましたとばかりに頭を上げたのだった。
「感謝するのだよ。じゃあ早速行くぞ」
思い通りに事が進んだと緑間は内心ほくそ笑みながら放心状態の美桜の手を掴み引っ張った。
「わかった..行くから...
荷物まとめさせて!!」
このまま教室の外へと引きづられそうになった美桜は声を荒げて彼に待ったをかけ、慌てて荷物を纏めた。
関わる気がなかったのに...
バスケ部のマネージャーに...
この怒涛の展開に整理がつかないまま、美桜は体育館に入る。
が、そこには思いもよらぬ人がいて、美桜は大きく目を見開くのだった。