番外編
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ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ
薄暗い一室で目覚まし時計が甲高く鳴り響いた。耳障りなその音に、ムクッとベッドの膨らみが動く。そして、もっこりとした布団から出たのは片手。その手は何度か空振りを繰り返すと叩きつけるような形で目覚まし時計を止めた。
「…んっ」
身じろぎながらも布団の中から眠りから起こされた彼は顔を覗かせた。
「もう朝…」
寝起き特有の掠れた声を発した彼は眠たそうに瞼を擦りながらベッドサイドに置いてある端末に手を伸ばして、画面を明るくした。するとその画面には数件のメール受信を知らせる文字がポップアップで現れた。それを確認した彼は不思議そうに届いたメールを開いた。最初は焦点が合わないまま目で内容を黙読していた彼。だが、全部のメールに目を通し終えた彼の表情は嬉しげに頬が緩みきっていた。
「ハハッ…んだよこれ…」
完全に覚醒しきった頭でもう一度目を通しきると彼はベッドに端末を投げ出して軽笑した。
高尾っち!
誕生日おめでとうっす!!
おめでとうなのだよ
高尾君
お誕生日おめでとうございます
高尾!今日誕生日なんだって?
おめでと!
水くせぇじゃないか、和
今日誕生日なんだって?
そんな大事な日は前もって教えやがれ、バカ!
高尾君
お誕生日おめでと〜
ちなみに大ちゃんには私から伝えといたよ〜
高ちん〜、おめでと〜
今度、お菓子ちょうだいね〜
高尾、誕生日おめでとう
ウインターカップでリベンジできる日を楽しみにしているよ
投げ出された端末の画面には彼の誕生日を祝福する言葉が並んでいたのだった。
*****
「おはよ、和」
身支度を慌てて整えて慌ただしく玄関の扉を開ける。するとそこには待ち構えていたかのように美桜がいた。軽く手を上げて挨拶をしてくれた彼女に高尾は駆け寄った。
「はよ〜!美桜」
「あれ?なんか今日上機嫌だね?」
「おっ!わかっちゃいます??」
駅に向けて肩を並べて歩き出した美桜は今にも鼻歌を歌いだしそうな彼を不思議そうに見上げた。その投げかけに待ってました!とばかりに高尾は満面の笑みを振りまいた。
「わかっちゃう、わかっちゃう!!
いいことでもあった〜?」
そんな彼に美桜は嬉しそうに相槌をした。
「いやぁ〜俺ってば
皆に愛されてんだなぁ〜って思ってよ」
ヘラヘラと頬を緩ませながら高尾はさっき見たメールを美桜に見せた。それを美桜は興味津々に一文一文目を通していった。
「メール送らなそーな、大輝やあっくんからも来てるの?!
というか私、大輝からそんなメールもらったことないんだけど!!」
「えっ!そーなの!!」
美桜からの衝撃的な発言に高尾は驚きの声を上げた。だが、なんとなく彼の真意がわかってしまった高尾はケラケラと笑い出す。
「わかった!
敢えてメール送らないでとぼけて忘れた素振りをみせておいて、さり気なくプレゼント上げるパターンだろ!」
「え?凄い!よくわかったね」
「いやぁ〜それ単に大ちゃんの照れ隠しだって!」
ズバッと言い当てた高尾に美桜は目を丸くする。だが、好意を持つ相手に素直ではなさそうだと把握していた高尾は大したことじゃないとゲラゲラと笑うのだった。だがふと思い出したように笑いを止めると美桜をマジマジと見た。
「え…なに??」
「いや…
そーいえば美桜から貰ってねーなぁって思ってよ」
その鋭い指摘に美桜はギクッと顔を強張らせた。もちろん美桜はメールを送る気があった。だから疲労困憊な身体を奮い立たせて睡魔と戦った。だが気づいた時には既に日が昇ってしまっていたのだ。それを悟られたくなくて美桜はぎこちない笑みを浮かべた。
「直接言ったほうが和、嬉しいかなって…」
「まぁそりゃあそーだけど…」
その言葉に目を泳がし言い噤んだ高尾は足を止めるとグッと彼女に身を乗り出した。その彼のダークブルーの瞳は獲物を捉えた獰猛のようだった。その見透かすような眼差しに美桜は金縛りにあったかのようにビクリとも動かなかった。
「ホントは??」
「……」
「俺を騙しきれると思ったら大間違いだぜ」
身体を少し屈めて美桜の耳元に囁かれたのははとても艶がかり色っぽい声だった。その声だけで力が抜けてしまいそうだと美桜は赤面させた。
「……怒らない??」
「怒んねーよ
どーせ寝落ちして送信するタイミングを失ったんだろ?」
不安げに揺らぐエメラルドの瞳に高尾はヤレヤレと肩を大げさに竦めた。一方で言い当てられた美桜は驚きで大きく息を呑んだ。
「どーしてわかったの?」
「わかるに決まってるだろ、馬鹿」
困惑する彼女の頭を高尾は乱雑に撫でて小さく笑った。それを美桜はムッと頬を膨らませながら軽く振り払った。
「ちょっと!折角髪整えてきたのに!!」
「いいじゃねーかよこんくらい
十分美桜は健気で可愛いよ」
「…そんな事をサラッと言っちゃう和がズルい」
悪い悪いと笑いながらグシャグシャになった髪を高尾は梳いて直していく。その彼が自然に口にした言葉に美桜は何も言い返せず、頬を染め俯いていた。
「大丈夫だよ…
美桜が頑張って早起きして髪型を整えてきたのも、早く祝おうとしてくれたことも知ってるから」
その語りかけてくる優しい声音に美桜は顔を上げる。すると愛おしそうに美桜を見つめる高尾がそこにはいた。
全てお見通しだったのか…
敵わないなぁ〜と肩を竦めた美桜はそっと彼の胸元を掴んで引っ張った。そして少し体勢を崩して傾いた彼に美桜は背伸びして接吻した。
「誕生日おめでと、和」
驚く高尾の目の前では美桜は柔らかく微笑んでいた。そんな彼女が可愛すぎて高尾は思わず彼女を腕の中に閉じ込め、ギュッと抱き寄せた。
「ありがと、美桜
最高に俺、幸せ」
嬉しそうに肩元に頬ずりしてくる高尾に、美桜は頬を緩ませながらそっと彼の背に手を回すのだった。