番外編
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「たっだいま〜」
疲労困憊の身体を引きずりながら高尾は自宅の玄関の扉を開ける。そして普段どおりにスポーツバックを乱雑に置いて靴を脱ぎ始める。が、その時下を向いた高尾はあれっと目を見開いた。母親の靴、父親の靴、妹の靴、合計3足並んでいるはずの場所に何故かもう一足の靴が几帳面にその隣にちょこんと並んで置かれていたのだ。こんな時間にお客さんか??と不思議に思いながら高尾は靴を脱ぎ終えると、我がもののように居座る靴の隣に並べて靴を置き直した。
そして、スポーツバックをかけ直すと自室に戻る前にリビングに顔を出すのだが、顔を覗かせた途端高尾は驚きで足を止めるのだった。いつもと変わらぬ食卓。なのにそこに普段ならいるはずのない人物が異様なくらいその中に溶け込んでいたのだ。
「はぁ??なんでいんの??」
「あっ!!おかえり!和!!」
キョトンとその光景を見たまま固まる高尾は思わず心のなかで思っていることを口に漏らした。それでようやく彼の帰路に気づいた家族がおかえりと声をかける中、マリーゴールドの髪を一つに纏めている少女が高尾に振り向き満面の笑みを浮かべて出迎えた。その人物の正体は、紛れもなく彼女である美桜だったのだ。
「た…ただいま」
「兄ちゃん、片言になってるよ!!!」
「しょーがね〜だろ!!何も聞いてないんだから!!」
「あら?お母さんはちゃんと事前に聞いてるわよ」
「なんでだよ!!
ってかいつ連絡先交換したんだ!!」
愉快そうに笑う妹と母親に切れのいいツッコミを入れた高尾は、げんなりとしながら美桜を見る。が、当の本人はニコニコと笑みを絶やさぬままあっけからんと答えるのだった。
「ついこの前だよ〜」
「美桜!!部活は!?!?」
「今日は珍しくお・や・す・み!!」
高尾の追求に、美桜は悪戯が成功したかのように意地悪く答える。そんな美桜の小悪魔ぶりにガクリと肩を落とす高尾を他所に明るい声が飛び交う。
「一先ず、兄ちゃんはサッサと着替えてきなよ」
「今日は美桜ちゃんが夕飯作るの手伝ってくれたのよ」
「お義母さんのお陰でいいものができました」
「そう!それは良かったわ」
いつの間にこんなに親しげになってるんだとこの光景を見て思いながらも妹に言われたこともそうだなととりあえずリビングを後にしようとする高尾。そんな彼の背に思い出したように美桜が声をかける。
「あっ!和!!」
「なんだ??」
「今日、泊まってくからね」
満面の笑みを浮かべる美桜が落とした爆弾発言。それに高尾は目を白黒させるともう帰宅してから何度目かわからない素っ頓狂の声を上げるのだった。
「はぁ〜!?聞いてね〜ぞ!!」
「だって今言ったもん」
「言うの遅すぎだろ!!」
「まぁまぁ兄ちゃん、そうカリカリしなさんなって」
家に戻ったのに、練習以上に疲労感を覚える高尾は妹に宥められながらリビングを後にする。
とりあえず荷物片して着替えて…部屋の掃除を…
前もって一言言ってくれればいいのにと思いつつ高尾は自宅の階段を上るのだった。
*****
「はぁぁぁぁぁ…」
「随分とお疲れですね?」
「誰のせいだと…」
違和感満載の夕飯を終え、順次に風呂に入った高尾と美桜はようやく二人っきりになる。大きくため息を吐く高尾を見て美桜は口元を緩めながら彼に凭れ掛かる。そんな彼女に高尾は苦労をわかれと言わんばかりにジト目を向けた。
が、高尾のそんな訴えなど美桜は見て見ぬふりだった。
「いいじゃん!!サプライズ!!ってやつだよ!」
大げさに両手を上げてアピールをする美桜。だが、高尾の反応が悪いことに気づき悲しそうな表情を浮かべた。
「それとも……
和は嫌だった??迷惑だった??」
「んなわけねーだろ!!
すっげぇー嬉しかった」
しょんぼりする美桜に高尾はやりすぎたと慌てふためいて弁明を行った。実際嬉しくないわけがない。疲労困憊な状態で家に戻って真っ先に視界に入ったのが愛しの美桜だ。家族がいなかったら有頂天になって頬が緩みっぱなしだったに違いない。が、家族の前と言う建前上なのに加えて嬉しさよりも驚きの方が上回ってしまったのだ。
「ホントに??」
「ホントホント!!
練習後に美桜に会えたのに加えてお手製の料理食べれるし、一緒に寝れるなんて、嬉しくないわけね―じゃん!!」
不安そうに見つめてくる美桜にグッとくるものを感じ、高尾は思わず彼女に触れるだけの口づけを落とすと照れ臭そうに笑った。
「…不意打ちズルい」
彼の言葉も、行為も、表情も、美桜にとってはズルいもので、ジワジワと来る恥心に美桜は彼と目線を合わせられず顔を紅潮させて俯いた。
そんな美桜も見て形勢を逆転させた高尾は嬉しそうに喉を鳴らした。
「先に不意打ちしたの美桜じゃん…
だから今回はお互い様ってことで…」
そう言いながら視線を一向に合わせてくれない美桜の顎に高尾は指を乗せると半場強引にコッチに顔を向かせて今度は深い口づけをした。
「なんか…和ズルいよ」
「なにが??」
「知らないうちに主導権握ってるし…」
「あったり前だろ!!
俺、美桜の彼氏様なんだから…
カッコつけたいじゃん」
ようやく息ができると懸命に肺に酸素を送り込みながら美桜は拗ねたように声を出す。いつもそうなのだ。最初はこちら側にあった主導権が知らないうちに彼の巧みな技によって移動しているのだから。そんな美桜の心情の吐露に最初はキョトンとする高尾だったが、可愛らしい美桜の言葉に高尾は胸を張って答えるのだった。
そんな彼に美桜は今日もときめいてしまうのだった。
*****
その後なんだかんだ、久々にゆっくりとできる二人の時間を楽しんだ二人はベッドに仲良く横になっていた。そして時計の針の長針と短針が12を指したタイミングで美桜が高尾になぞかけするように意味深なセリフを吐くのだった。
「さて、問題です。
今日は何の日でしょうか??」
「え?今日は…11月21日…」
キョトンとしながらも高尾は日付を確認するように言葉にする。そして言葉にすることで、あっ…と思い出したように息を呑むのだった。
「…俺の誕生日」
「ピンポーン!!」
「もしかして…これ全部…」
「せっかく誕生日前日が休みだったから、一番に言いたくて
和のご家族様に協力していただきました~」
途端に高尾の脳裏で点と点が線で繋がっていく。ようやく全ての事情を呑み込んだ高尾に美桜は無邪気な笑みを浮かべて種明かしをするのだった。
そして、呆気にとられる高尾を放っておいて美桜は寝転がっている体勢から座りなおす。それを見習って高尾も慌てて飛び起きる。そんな彼にクスクスと笑いながら美桜は大切に持っていた袋を手渡すのだった。
「誕生日おめでと!!和」
「…ありがと、美桜」
まさかプレゼントが出てくるとは思わなかった高尾は驚きながらも嬉しそうに袋を受け取った。そして、開けていい??と尋ねて了承を得ると恐る恐るその袋を開けた。
「おぉ!!リストバンドじゃん!!」
そこに入っていたのはオレンジ色のリストバンド。それを手に取ると高尾は嬉しそうに声を上げた。そんな彼の反応を見て美桜もつられるように頬を緩めた。
「どう??秀徳の色でいいでしょ!!」
「めっちゃいい!!
秀徳の色だし、何より美桜の色だから!!」
「……え!?」
「美桜の綺麗なマリーゴールド色の髪!!
これしてれば、美桜が常に傍にいる気がする!!」
高尾の口からスラスラと述べられた言葉に美桜は目を見開いた。全くそんなこと考えもせずに購入したからだ。だが、高尾にとってはオレンジ色=美桜だったのだ。
嬉しそうに頬を緩めた高尾は未だに固まっている美桜をありったけの力を込めて抱きしめた。
「…ありがとな、美桜
大切に使わせてもらう」
その日以降、大切な試合の日には必ず高尾の右手首にはオレンジ色のリストバンドが見られるようになるのだった。