番外編
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はぁぁぁぁ…
昼休み、教室内に漂う匂いにウンザリとしながら美桜は机にうっ潰していた。数分前まではルンルンで出ていった彼女は何があったか知らないが教室に戻ってくるときは生気を失ったような屍となり果てていた。そんな彼女の深いため息を何回も聞いていた椛は、読んでいた本を静かに置くと心底めんどくさそうに彼女に振り返った。
「ちょっと美桜」
「……」
「ウザいからどっか行ってよ」
「…お願いだから暫く放っておいて」
椛の辛辣な言葉に立ち向かう気力すらないのか美桜はウッ潰したまま答えた。そんな彼女をただ事じゃないと椛は深く長いため息を吐きだした。
「ほら、これでも食べて元気だしなさいよ」
今日のいずれかに渡そうと思っていた椛はカバンからラッピングしてある袋を美桜の机にそっと置いた。それにピクッと反応を示した美桜はむくっと顔を上げた。その途端、虚ろだったエメラルド色の瞳がキラキラと輝きだした。
「うわぁ!!くれるの!?ありがと!!」
嬉しそうに早速ラッピングを解くと、美桜は袋の中に入っていたチョコレートを1つ口の中に放り込む。途端に口内に広がる甘い味に美桜は頬を緩ませた。そんな彼女にグッと椛は詰め寄った。
「で??何があったの??」
その問いに動きを止めた美桜は顔を歪ませた。
「…渡せなかった」
「はぁ??」
「和に渡そうと思って教室行ったんだけど…」
ポツポツと美桜は怪訝な表情になった椛に話し出した。
今日は、2/14。美桜はこの日の為に部活の練習の合間をぬって準備をしていたのだ。そしていざ渡そうと教室に出向いたのだが。覗き込んだ思いもしない光景に割って入る度胸がなくそのまま泣く泣く退散してしまっていたのだ。堂々とすればいいのに彼の元に行けなかった。女子生徒が群がっている場所の中心にいる彼の元へと。
「はぁぁぁぁぁぁぁ、アンタ馬鹿でしょ
堂々とアイツのとこに行けばいいのに」
一部始終を聞き終えた椛は呆れた表情を浮かべた。アイツのことだ。そこらの女子のチョコレートよりも愛おしい彼女のチョコレートを今か今かと待っているに違いない。だが彼の性格上、時間を割いて来てくれた彼女達を追い払えないのだ。困ったように対応をしているであろう彼を思い浮かべて椛はめんどくさそうに息を吐きだした。
「ウジウジしてるんだったらサッサと渡してこい!」
「えぇ~、だって…」
「アイツが待ってるのは美桜のだよ」
未だに渋る美桜に、椛は決定打を突きつける。その言葉に美桜は目を瞬かせた。その揺らぐ彼女の瞳に、世話が焼けると思いながらも椛は席を立つと彼女の手を引っ張った。
「ほら、近くまで一緒に行ってあげるから行くよ」
グングンと引っ張られる形で教室を出る美桜は、心の準備ができぬままに彼の教室前まで着いてしまった。だが、美桜が意を決するのを待ってられないと椛はそのまま教室にズカズカと突入した。
「ちょっとどいて」
未だに群がる人々の間をすり抜けた二人はようやく渦中の存在の彼らの元まで辿り着いた。
「「…!?」」
美桜の姿を目の前にようやく捉えた高尾は少しやつれた表情で彼女を見る。対して美桜はこの場にいるのが耐え切れず目を伏せていた。
「美桜!やっと来てくれた!!」
勢いよく席を立つと高尾はすぐさま椛から掻っ攫うかのように美桜に飛びついた。そんな彼に椛は呆れた眼差しを向ける。
「アンタから来なさいよ」
「いやぁぁぁ~直ぐに行こうとしたんだけどさ
見事に抜け出すタイミングを見失っちゃってさ…」
椛の鋭い指摘に対して返す言葉がないと高尾は困ったように笑った。
「…緑間は?」
「俺放ってサッサと消えやがった…」
「あら?それは可哀想に…」
「だろ??
酷いよなアイツ!!」
抱きつかれた固まっている美桜を他所に椛と高尾は矢継ぎ早に話題を広げていった。だが唐突に高尾は話を切り上げた。
「もーいい??」
その彼の真意を察した椛はめんどくさそうに、シッシと追い払う仕草をした。それに満足げに笑みを浮かべた高尾は美桜抱く姿勢を変えて、彼女の手を握った。
「はーい!どいてどいて!!」
「えぇ~」
「受け取ってくれないの???」
「折角来てくれたのにごめんねぇ~
俺受け取るの本命だけって決めてるからさ」
ヘラっと笑った高尾は詫びを入れながら、美桜を外へと連れ出した。そのまま彼らは人気のない場所に移動した。そこでようやく手を離した高尾は未だだんまりとしている美桜を申し訳なさそうに覗き込んだ。
「ごめんな、直ぐに行けなくて…」
そんな高尾に美桜は小さく首を横に振ると、疑問に思ったことを口にする。
「誰にも貰ってないの??」
その問いに高尾は面食らったようにポカンとしてしまった。その表情に逆に疑ってしまった美桜は後ろめたげに俯いた。
「いや…あんなに囲まれているから…
受け取っているのかと…」
顔を赤らめながらも必死に声を振り絞る美桜。そんな彼女に高尾は愛おしさが込み上げた。スウッとダークブルー色の瞳を細めると高尾は彼女の柔らかい髪に手を伸ばした。
「受け取るわけね―じゃん
美桜がいるのに」
優しい声が降ってきて、温かい彼の温もりを頭に感じて恐る恐る美桜は俯いていた顔をあげた。すると優しい眼差しで自分を見つめる彼がいた。その不安気に見つめてくる美桜に高尾は満面の笑みを向けた。
「美桜のだけで俺は十分!」
その屈託のない笑みに美桜の不安は一気に吹っ飛んだ。パッと花を咲かせたように笑顔になった美桜に、で??と高尾は催促する素振りを見せた。
「俺はいつになったら貰えるのかなぁ~」
その言葉にハッとした美桜は慌てたようにラッピングした袋を手渡した。オレンジ色をベースにした袋を渡された高尾は途端に目をキラキラと輝かせる。
「おっ!待ってました!!」
そして、開けていい?と尋ね、目の前の彼女から承諾を得るとすぐに一粒口に放り込んだ。その彼の反応を美桜は固唾を呑んで見守った。
「おっ…美味しい??」
「すっごく美味い!!」
その問いに対して高尾は声を高ぶらせて答えた。その彼の様子に美桜はホッと安堵したように胸を撫でおろした。そんな彼女の目の前にチョコレートを掴んだ手を高尾が伸ばす。
「美桜も食う??」
「えっ…わ…私は…」
「遠慮すんなって!」
ケラケラと笑いながら高尾は渋る彼女の口にチョコレートを放り込む。途端に口内に広がる味に困惑しながらも、ご厚意に甘えようとした。だが、彼の真意は別にあった。
「……!?!?」
食べるのを楽しんでいたはずの高尾にいつの間にか美桜は引き寄せられていた。その状態に唖然とする美桜に微笑した高尾はグッと顔を近づけた。
軽く下唇を啄むことで彼女の閉じた唇が少し開く。その隙間にすかさず高尾は舌を捻じ込んだ。当然甘い刺激から逃れようと身じろぐ彼女。だが、逃さないとばかりに後頭部に回している彼の手に阻まれた。彼が与える刺激に美桜の吐息が漏れる。
「んっ……」
腰が砕け身体の力が抜けた彼女をしっかりと支えながらも高尾は堪能するかのように口内を舐めまわし、最後にお目当てのものを絡めとるとゆっくりと彼女から離れた。
「いっただき~」
ペロッと唇を舐めた高尾は少年のような無邪気な笑みを浮かべた。ようやく彼の魂胆を理解した美桜は恥心で顔が徐々に赤くなっていった。
「ちょっと!和!!」
「あ~美味しかった!
ありがとな、美桜」
潤んだ瞳で睨みつけてくる彼女などどこ吹く風の高尾は声を上げる美桜にお構いなく嬉しそうに笑った。そんな彼の表情を見てたら毒気が一気に抜かれてしまった美桜は小さく息を吐いた。
これも惚れた弱みかな…
未だに不服だが、こんなに嬉しそうな彼を見れてよかったと美桜は困ったように目尻を下げるのだった。