誠凛対陽泉(WC準々決勝)
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第4クォーター...
誠凛は陽泉と同じ2-3ゾーンディフェンスをとった。スリーポイントゾーンを火神君が守るディフェンスフォーメーションだ。
「いくら火神でもスリーポイント全範囲止めるのは無理だろ?」
「無理だろうね。...何考えてんだろ?」
「あいつの考えてることなんて手を取るようにわかるさ。」
無謀な作戦だ。火神が紫原と同じように守ることなんて不可能だ。一体何を考えてんだと声を上げる高尾と美桜。だがじっと見ていた青峰だけは火神がやろうとしていることがわかっていた。だからこそ馬鹿じゃないか彼奴と舌打ちするのだった。
妙な威圧感を放つフォーメーションだが、陽泉にとっては無意味。なぜなら、パスを出せば紫原が入れてくれるからだ。福井からボールは紫原に渡り彼はそのまま火神を押しのけアリュープをした。
「のぼせるのも大概にしなよ…火神」
「ぜぇてーに止めてやる!!」
ステルスオールコートマンツーマンディフェンスを繰り出す誠凛。対して、陽泉は氷室にボールを渡し走り出した。フェイクを繰り出し火神を抜かす氷室。そのまま駆け抜けたいところだが、紫原が声をあげる。呼ばれたことで氷室は察知してボールを背後に下げた。彼が察知したのは黒子だったのだ。氷室のボールをスティールしようとしていたのだが、黒子の目論見は不発で終わってしまう。
誠凛はあくまで火神にスリーゾーン全範囲を守らせるスタイルを取る中、氷室に沸き起こるのは火神に対する憤り。もともと火神が無茶することは知っている氷室だが、これはいくらなんでもやりすぎだ。火神のこの行動は氷室には勇敢には見えなかった。舐めている風にしか見えなかった。
気に入らねーよ…
誰をマークしようと勝手だが、一人でみんな止めようなんて虫良い考えは心底気に入らねぇ…
日向をかわし、氷室は陽炎シュートを繰り出す。だが、火神は先ほどのプレーでこのシュートのからくりを見抜いていたのだ。空中で2回ボールをリリースしている。1度目は最高点に達する前に、スナップを効かせてボールを放る。そしてそれをキャッチしてボールを放っていた。ただのフェイクすら本物に見えるほどの洗練されたスキルを持つ氷室だからこそできる技なのだ。一度目のリリースが陽炎を生み、2度目に放たれた実体を覆い被す。
よって火神が出した答えはブロックするタイミングを1テンポ遅らすことだった。
「知ってるよ…バレてることは」
火神の目論見は外れ、氷室は一度目のリリースでボールを打ったのだ。氷室は相手の飛ぶタイミングを見てどちらでも打てるのだ。
「陽炎シュート…誰にも止められない」
一方、観覧席では美桜達が一斉に青峰を見ていた。火神の考えがわかると言った彼に火神が何をしようとしてるのか聞いていたのだ。
「ゾーンに入ろうとしてるんだろうがこのままだと一生入れねぇーよ」
気怠けにため息混じりに吐かれる青峰の言葉に3人は顔を見合わせる。皆わけがわからないと困惑顔を浮かべ代表して「え?なんで?」と美桜は聞き返した。
「ゾーンっていうのは1回目より2回目のほうが入るのが難しくなる。なぜなら1度体験して知っちまったからだ。あの何でも思い道理になる状況を知ってしまえば、もう一度という感情が湧く。けど、それは雑念だ。集中状態のゾーンに入るのに一番あっちゃなんねーもんだ。ゾーンに入るためには、ゾーンに入ろうとしたらだめなのさ」
ゾーンに入ろうと考えてる今の状態では誠凛は負けだなと青峰から捨て台詞のように吐かれるのだった。
「そうだったんだ!!」
「って、お前知らなかったのかよ!!美桜!!」
「だって入りたいと思った事ないし…」
青峰の説明を聞き思わず美桜は声をあげた。それに対し、即座に青峰は反応した。美桜がゾーンの扉を開いてからだいぶ経つのになんでこいつは気づかなかったのだと内心呆れてしまっていたのだ。だが、美桜は試合に出るわけでないし…純粋にバスケをしたいだけ…ゾーンに入りたいとは思ってなかったのだ。
「じゃあさ…どうすればゾーンに入れる??」
「そうだな…お前の場合だったら…」
美桜のゾーンのトリガーは一体何なのか青峰は考え始めるのだった。
止めることができない陽泉の攻撃。対して、黒子の幻影シュートは絶対入るシュートでない。少しずつ誠凛のオフェンスは崩れて行っていた。
コート端では、次の試合に備えて青のジャージを羽織った者が続々と現れた。それは海常のメンバーだ。
「お!なんとか食いついてるじゃないですか。誠凛。うちの明日の相手はどっちになるすかね?」
「まだ俺らの試合残ってるだろ?油断すんな。しばくぞ!」
黄瀬の目の前のコート上では火神が真ん中のディフェンスフォーメーションをとっていた。そして黄瀬から見て今の火神の様子はおかしく見えた。何かにすがってるような火神を見ていて黄瀬は反吐が出そうだった。足元に転がってきたボールを拾うと黄瀬は取りに来た火神に言うのだった。
「なんすか?その体たらく。....あれ?知り合いかとおもったら違ったっすね...あんた誰?なにかにすがってバスケをするようなへたれ、知らねぇーよ!」
黄瀬は火神にボールを放ると近くにいた紫原に顔を向けた。
「どうやら準決は紫原っちとやることになりそうっすね。よろしくっす」
「そうだね...ってかいま試合中なんだからあんま話しかけないでよ」
「なんだかな...こんなんだったら練習試合の時の誰かさんのほうが怖かったすわ」
背を向け黄瀬が火神に吐き捨てるように言った言葉は火神の胸にズシリと刺さった。
いつ何にすがってバスケをしたってんだ…
あの時はただがむしゃらに戦ってただけ
今よりも体力が足りなかったし、ゾーンに入るなんてとても無理だった
むしろそれが当たり前で…それでもなんとか…
火神はハッとし隣にいた黒子に尋ねた。ゾーンに入ったことがあるかと。だが黒子は火神にそんなのホイホイ入れたら苦労しないと返すのだった。そこで火神は気づく。ゾーンに入ろうと考えてはダメなのだと。どんなに苦しくても今できる最善のプレーをすることが必要なのだと火神は自分に言い聞かせるのだった。
誠凛がタイムアウトをとった。そこで誠凛は火神の守備範囲をペイントエリアに縮小させ、氷室に黒子・伊月・日向のトリプルチームをつけた。中が一気に手薄になる作戦だが、誠凛は目的を氷室の攻撃を少なくさせる手に出たのだ。指示を聞いている時の火神は反論することもせずただ淡々に指示を受け入れた。思わず日向はいつもと違う火神の様子に疑問を抱くが、黒子は違った。
「なんとなく今の火神君はあの人に似ています。」
コートに出ていく火神の背中を黒子は誰かと摺り合わせてみていた。その人物は一番乗っている青峰の姿だった。
黄瀬に何か言われたのか美桜から見て火神は吹っ切れた顔をしていた。いつもの彼のバスケが戻っていたように感じたのだ。そして火神は遂にゾーンに入った。
「ふん...やればできるじゃねぇーか」
青峰がそれを見て笑った。なんだかんだ火神君の事認めてるんだなと美桜は思わずクスリと笑うと「何笑ってんだ!美桜!」と小突かれるのだった。
次々とシュートを決め、陽泉の攻撃を防ぐ火神...。今の彼は誰にも止められない。もし止められるとしたら...ゾーンに入った人だ。
でも、陽泉にはゾーンに入れる人はいないだろうと美桜と青峰は考えていた。ゾーンに入るために必要な最低限の条件はバスケが好きで全力をかけていることだ。紫原は素質から考えたらキセキの世代で一番あるが、バスケを好きではないのだ。一方の氷室はそれ以前の問題だ。おそらくゾーンに入るための域に到達していないのだ。最初はただならぬ雰囲気を感じた美桜と青峰だが、違うと悟ったのだ。氷室は確かにキセキの世代と実力は限りなく近いといっていいが、秀才止まりなのだ。いくら氷室が頑張ってもその領域に届くとこはないのだ。
火神に圧倒されていく陽泉はタイムアウトをとった。紫原はベンチに座りこむ。もう紫原はこの試合に出るやる気は失せていた。火神を止められないのに試合にこれ以上出る必要はないと紫原は思ったのだ。
「もういいや…おれやーめた。交代してよ」
駄々を捏ねる紫原に対し、お前が抜けたら勝てるものも勝てないと岡村は言い聞かすが、紫原が意見を変えるわけがなかった。そんな紫原を氷室は殴った。氷室は悔しかった。ずっと火神の才能に対し嫉妬してきた。自分では到底到達できないラインにいる彼に。だが、今目の前にいる紫原は氷室が喉から手が出るほど欲しい才能をもっている。なのに勝負を放棄しようとしている。思わず手が出てしまうほど氷室は腹だっていたのだ。紫原の胸倉を掴み、涙を流し熱いセリフを言う氷室を見ていて逆に紫原はうざく感じるのだった。だけどそんな紫原の中に真逆の気持ちが生じる。
「うゎー…引くはそういうの心底ウザい。てか、ありえないわ泣くとか。なんとなく気づいていたけどここまでとは思わなかったよ。
っか、初めてだよ。
ウザすぎて逆にスゲーと思うのは…」
立ち上がり、雅子夫人…と監督の名を呼ぶと紫原はヘアゴムを借りて長い髪を結うのだった。
「タイムアウト中見てましたけど。正直諦めたんじゃないかと思いました。」
「うん。そうしようと思ったけどやめた。やっぱ捻り潰すわ。面倒臭くなりそうでいやだけど、負けるのはもっと嫌なの!」
「良かった。けど負けるのが嫌なのは僕も同じですから」
いつもの紫原ならもう出てこないと黒子は思っていたのだが、実際出てきたことに黒子は驚いた。最初確かに紫原はやめようと思っていた。だが、氷室の気持ちを聞いてどうしても勝ちたい…負けたくないという思いが勝ったのだ。
60対64…残り3分
誠凛は陽泉と同じ2-3ゾーンディフェンスをとった。スリーポイントゾーンを火神君が守るディフェンスフォーメーションだ。
「いくら火神でもスリーポイント全範囲止めるのは無理だろ?」
「無理だろうね。...何考えてんだろ?」
「あいつの考えてることなんて手を取るようにわかるさ。」
無謀な作戦だ。火神が紫原と同じように守ることなんて不可能だ。一体何を考えてんだと声を上げる高尾と美桜。だがじっと見ていた青峰だけは火神がやろうとしていることがわかっていた。だからこそ馬鹿じゃないか彼奴と舌打ちするのだった。
妙な威圧感を放つフォーメーションだが、陽泉にとっては無意味。なぜなら、パスを出せば紫原が入れてくれるからだ。福井からボールは紫原に渡り彼はそのまま火神を押しのけアリュープをした。
「のぼせるのも大概にしなよ…火神」
「ぜぇてーに止めてやる!!」
ステルスオールコートマンツーマンディフェンスを繰り出す誠凛。対して、陽泉は氷室にボールを渡し走り出した。フェイクを繰り出し火神を抜かす氷室。そのまま駆け抜けたいところだが、紫原が声をあげる。呼ばれたことで氷室は察知してボールを背後に下げた。彼が察知したのは黒子だったのだ。氷室のボールをスティールしようとしていたのだが、黒子の目論見は不発で終わってしまう。
誠凛はあくまで火神にスリーゾーン全範囲を守らせるスタイルを取る中、氷室に沸き起こるのは火神に対する憤り。もともと火神が無茶することは知っている氷室だが、これはいくらなんでもやりすぎだ。火神のこの行動は氷室には勇敢には見えなかった。舐めている風にしか見えなかった。
気に入らねーよ…
誰をマークしようと勝手だが、一人でみんな止めようなんて虫良い考えは心底気に入らねぇ…
日向をかわし、氷室は陽炎シュートを繰り出す。だが、火神は先ほどのプレーでこのシュートのからくりを見抜いていたのだ。空中で2回ボールをリリースしている。1度目は最高点に達する前に、スナップを効かせてボールを放る。そしてそれをキャッチしてボールを放っていた。ただのフェイクすら本物に見えるほどの洗練されたスキルを持つ氷室だからこそできる技なのだ。一度目のリリースが陽炎を生み、2度目に放たれた実体を覆い被す。
よって火神が出した答えはブロックするタイミングを1テンポ遅らすことだった。
「知ってるよ…バレてることは」
火神の目論見は外れ、氷室は一度目のリリースでボールを打ったのだ。氷室は相手の飛ぶタイミングを見てどちらでも打てるのだ。
「陽炎シュート…誰にも止められない」
一方、観覧席では美桜達が一斉に青峰を見ていた。火神の考えがわかると言った彼に火神が何をしようとしてるのか聞いていたのだ。
「ゾーンに入ろうとしてるんだろうがこのままだと一生入れねぇーよ」
気怠けにため息混じりに吐かれる青峰の言葉に3人は顔を見合わせる。皆わけがわからないと困惑顔を浮かべ代表して「え?なんで?」と美桜は聞き返した。
「ゾーンっていうのは1回目より2回目のほうが入るのが難しくなる。なぜなら1度体験して知っちまったからだ。あの何でも思い道理になる状況を知ってしまえば、もう一度という感情が湧く。けど、それは雑念だ。集中状態のゾーンに入るのに一番あっちゃなんねーもんだ。ゾーンに入るためには、ゾーンに入ろうとしたらだめなのさ」
ゾーンに入ろうと考えてる今の状態では誠凛は負けだなと青峰から捨て台詞のように吐かれるのだった。
「そうだったんだ!!」
「って、お前知らなかったのかよ!!美桜!!」
「だって入りたいと思った事ないし…」
青峰の説明を聞き思わず美桜は声をあげた。それに対し、即座に青峰は反応した。美桜がゾーンの扉を開いてからだいぶ経つのになんでこいつは気づかなかったのだと内心呆れてしまっていたのだ。だが、美桜は試合に出るわけでないし…純粋にバスケをしたいだけ…ゾーンに入りたいとは思ってなかったのだ。
「じゃあさ…どうすればゾーンに入れる??」
「そうだな…お前の場合だったら…」
美桜のゾーンのトリガーは一体何なのか青峰は考え始めるのだった。
止めることができない陽泉の攻撃。対して、黒子の幻影シュートは絶対入るシュートでない。少しずつ誠凛のオフェンスは崩れて行っていた。
コート端では、次の試合に備えて青のジャージを羽織った者が続々と現れた。それは海常のメンバーだ。
「お!なんとか食いついてるじゃないですか。誠凛。うちの明日の相手はどっちになるすかね?」
「まだ俺らの試合残ってるだろ?油断すんな。しばくぞ!」
黄瀬の目の前のコート上では火神が真ん中のディフェンスフォーメーションをとっていた。そして黄瀬から見て今の火神の様子はおかしく見えた。何かにすがってるような火神を見ていて黄瀬は反吐が出そうだった。足元に転がってきたボールを拾うと黄瀬は取りに来た火神に言うのだった。
「なんすか?その体たらく。....あれ?知り合いかとおもったら違ったっすね...あんた誰?なにかにすがってバスケをするようなへたれ、知らねぇーよ!」
黄瀬は火神にボールを放ると近くにいた紫原に顔を向けた。
「どうやら準決は紫原っちとやることになりそうっすね。よろしくっす」
「そうだね...ってかいま試合中なんだからあんま話しかけないでよ」
「なんだかな...こんなんだったら練習試合の時の誰かさんのほうが怖かったすわ」
背を向け黄瀬が火神に吐き捨てるように言った言葉は火神の胸にズシリと刺さった。
いつ何にすがってバスケをしたってんだ…
あの時はただがむしゃらに戦ってただけ
今よりも体力が足りなかったし、ゾーンに入るなんてとても無理だった
むしろそれが当たり前で…それでもなんとか…
火神はハッとし隣にいた黒子に尋ねた。ゾーンに入ったことがあるかと。だが黒子は火神にそんなのホイホイ入れたら苦労しないと返すのだった。そこで火神は気づく。ゾーンに入ろうと考えてはダメなのだと。どんなに苦しくても今できる最善のプレーをすることが必要なのだと火神は自分に言い聞かせるのだった。
誠凛がタイムアウトをとった。そこで誠凛は火神の守備範囲をペイントエリアに縮小させ、氷室に黒子・伊月・日向のトリプルチームをつけた。中が一気に手薄になる作戦だが、誠凛は目的を氷室の攻撃を少なくさせる手に出たのだ。指示を聞いている時の火神は反論することもせずただ淡々に指示を受け入れた。思わず日向はいつもと違う火神の様子に疑問を抱くが、黒子は違った。
「なんとなく今の火神君はあの人に似ています。」
コートに出ていく火神の背中を黒子は誰かと摺り合わせてみていた。その人物は一番乗っている青峰の姿だった。
黄瀬に何か言われたのか美桜から見て火神は吹っ切れた顔をしていた。いつもの彼のバスケが戻っていたように感じたのだ。そして火神は遂にゾーンに入った。
「ふん...やればできるじゃねぇーか」
青峰がそれを見て笑った。なんだかんだ火神君の事認めてるんだなと美桜は思わずクスリと笑うと「何笑ってんだ!美桜!」と小突かれるのだった。
次々とシュートを決め、陽泉の攻撃を防ぐ火神...。今の彼は誰にも止められない。もし止められるとしたら...ゾーンに入った人だ。
でも、陽泉にはゾーンに入れる人はいないだろうと美桜と青峰は考えていた。ゾーンに入るために必要な最低限の条件はバスケが好きで全力をかけていることだ。紫原は素質から考えたらキセキの世代で一番あるが、バスケを好きではないのだ。一方の氷室はそれ以前の問題だ。おそらくゾーンに入るための域に到達していないのだ。最初はただならぬ雰囲気を感じた美桜と青峰だが、違うと悟ったのだ。氷室は確かにキセキの世代と実力は限りなく近いといっていいが、秀才止まりなのだ。いくら氷室が頑張ってもその領域に届くとこはないのだ。
火神に圧倒されていく陽泉はタイムアウトをとった。紫原はベンチに座りこむ。もう紫原はこの試合に出るやる気は失せていた。火神を止められないのに試合にこれ以上出る必要はないと紫原は思ったのだ。
「もういいや…おれやーめた。交代してよ」
駄々を捏ねる紫原に対し、お前が抜けたら勝てるものも勝てないと岡村は言い聞かすが、紫原が意見を変えるわけがなかった。そんな紫原を氷室は殴った。氷室は悔しかった。ずっと火神の才能に対し嫉妬してきた。自分では到底到達できないラインにいる彼に。だが、今目の前にいる紫原は氷室が喉から手が出るほど欲しい才能をもっている。なのに勝負を放棄しようとしている。思わず手が出てしまうほど氷室は腹だっていたのだ。紫原の胸倉を掴み、涙を流し熱いセリフを言う氷室を見ていて逆に紫原はうざく感じるのだった。だけどそんな紫原の中に真逆の気持ちが生じる。
「うゎー…引くはそういうの心底ウザい。てか、ありえないわ泣くとか。なんとなく気づいていたけどここまでとは思わなかったよ。
っか、初めてだよ。
ウザすぎて逆にスゲーと思うのは…」
立ち上がり、雅子夫人…と監督の名を呼ぶと紫原はヘアゴムを借りて長い髪を結うのだった。
「タイムアウト中見てましたけど。正直諦めたんじゃないかと思いました。」
「うん。そうしようと思ったけどやめた。やっぱ捻り潰すわ。面倒臭くなりそうでいやだけど、負けるのはもっと嫌なの!」
「良かった。けど負けるのが嫌なのは僕も同じですから」
いつもの紫原ならもう出てこないと黒子は思っていたのだが、実際出てきたことに黒子は驚いた。最初確かに紫原はやめようと思っていた。だが、氷室の気持ちを聞いてどうしても勝ちたい…負けたくないという思いが勝ったのだ。
60対64…残り3分