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五人目、代役

随分疲れきった顔の若い男性が、吐き出すように話していた。
彼が首元に付けているチョーカーが更に締め付けて吐き出させている様にも見えて仕方ない。

彼は最近、代役を任されたというのだ。

「いつまで任されているんです?」
「…いや、まだ…代役を任されてからまだ数ヶ月ですけど、もう駄目だなぁ、なんて。」

「何故、引き受けたのですか?」
「可哀想…だったんですよ、その人がいない世界が。」

それを聞いて、藍色の液体の中に氷を落とした。

「私はてっきり舞台の話かと思ってたのですが、それはあなたの住む世界の話ですか。」

藍色の飲み物を彼の目の前に置く。躊躇いもなく彼は受け取り、一口飲み込んだ。

「普通の舞台ならきっと、代役の期間だってそんなに長くないはずです。…これは現実なんです。もう本当の自分を忘れるくらい…僕は本当に彼になってしまいそうだ。」

代役を任され、更に本来の役を演じながら生きなければならない。と彼は笑った。

「ひとつ、お伺いしても?」そう聞くと、代役の彼はびくりとした様子で私を見た。

「は、はい、なんですか?」

「仮に代役のあなたがなくなった場合、代わりに演じてくれる方はいるのですね?」

「…そうなりますかね、代役をやりたいと宣言するか、選ばれた場合に。」

「あなたは宣言を?それとも選ばれて?」

「…宣言しました、ええ。家族が代わりを募集してたんです、とても寂しく思ったんでしょう。それを見て可哀想だと思って、それで…」

代役の表情が変わり、にやりと笑って私を見る。
「本当は亡くなったその人の代わりになれば金が貰えると聞いて、それで近づいたんですよ、でもそこの父親が金を渡さないって、ほんとに参ったよ。え、…?」

これは成功だ。

「続けて下さい?本心は?」

「兄が居ることは聞いたんだ、それで今日やっと見つけて、こっちは保険金も目当てだからそのうちに一家心中を装って皆殺すつもりなんだけど。兄が帰ってこないからなかなか計画も進まなくて、帰ってくるように仕向けようとしてるんだ」

ざっと話した彼は口を抑える。
焦っている姿を見るのは、とても愉快だ。


「ありがとうございます、弟の代わりを演じて下さって。」

口を抑えたまま、顔を赤くして涙目になっている弟の代役。必死で言葉を出さないようにしている。

やはり弟の代わりなんていない。
偽物には変わりない。

「本心なんて筒抜けですから、気をつけなさい。今度は本当の弟として来てください、待ってますから。」

「…ッ!二度と来るもんかっ!!代役なんて辞めてやる!!」

代役は怒鳴り散らし、涙をボロボロと落としながら店を出て行った。

「…あれでは、成りきれやしないな。」

彼が出てすぐ、店の外から叫び声が聴こえてきて、様子を見ると通行人達は怯えていた。

…それもそうだ、”頭の無い体”が道に横たわっていたのだから。

その後病院に代役を連れて行った。
「怒りで爆発したということで、代わりの頭を付けてもらってます。入院の手続きがあるのですが…」
そして代役の家族が呼ばれ、いろいろ聞いたところ、チョーカーは爆発を防ぐ為のものだったらしい。

…彼の頭はどこへ行ったのでしょうか。
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