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零人目、透明人間。

「いらっしゃいませ、来てくださったんですね。」
その日、初めて喫茶店に入りました。
店内は数人の客がいるだけで、とても静かな印象でした、内装は和モダンというのでしょうか、明治から大正の雰囲気。カウンター席の近くの本棚には古い本も並べられていました。
店員は彼と、もう1人若い男性。その男性は右頬に傷痕があったのを覚えています。

「あなたが来てくれるとは、今日は早く仕事が終わったんですか?」
カウンター席に案内され、そこで彼と色々話したのを覚えています。幸せでした。とても、幸せな時間でした。

でも、そこで注文した料理も飲み物も、何も思い出せないんです。

気づいたら私はどこかの薄暗い部屋にいて、動けなかった。その部屋に彼が入ってきたので、聞いたんです。怖くて。いっぱい、恐怖で何を聞いたか覚えてないんです。
ひと通り私の質問を聞いた彼は、あの私の恋した笑顔で言いました。

「君が飲んだのは、『透明な恋』…だったかな?」

微笑む彼を見つめたのが本当に最期、私はこの世界から消えました。

要するに、彼に殺されたのです。
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