あるところに、とても心優しい少女がいました。
ところが父親が事業に失敗し、彼は自殺。
母親も愛人と夜逃げをし、少女はひとりぼっちになってしまいました。
父親の借金を清算する為、家も財産も全て売り払いましたが、それでも僅かに足りず、彼女は自分の身ひとつで村を出ることにしました。




翌朝、少女は家族ぐるみで仲が良かった近所のおばさんと出会います。


「おや。今朝は早いんだねぇ」


にこやかに言うおばさん。
その笑顔が眩しくて、直視出来なくて、少女は帽子のつばを下ろして顔を隠した。
もうこの村に居られないことが胸が張り裂けるように悲しくて、涙が出てくる。


「……そうか。両親とも、居なくなっちゃったんだもんねぇ」


おばさんは少女を抱き締めていた。


「…はぃ……。ごめんなさい。お礼もなんにも出来なくて…」


今彼女に伝えたいことを、少女は腹の底から振り絞った。
涙のせいで上手く言えないけれど。


「なんでアンタが謝るんだい？申し訳ないのはあたし達の方さ。アンタがこんな辛い目に遭ってるってのに、何にもしてあげられなくてごめんね…」


おばさんは少女から身を離すと、一切れのパンを取り出しました。


「こんなもんしかないけど、持ってお行き。」

「……有難うございます。おばさん」


パンを握り締めたまま、少女は深々と頭を下げた。





やがて少女は森の中へ入り込んだ。
その小さな背中を、おばさんは見えなくなるまで見つめていた。