とある夏の思い出
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「ヒロトさんって凄い人だったんですね!」
イナズマレジェンドジャパン対新生イナズマジャパンのエキシビションマッチ。なんていう大層な名前が付けられた試合から、数週間が経った。
前線からすっかり離れていたにも関わらず(それは豪炎寺くんも同じだけれど)、仮にも伝説という名前が付けられたチームに呼ばれた時は驚いたものだ。
時折ボールは蹴っていたものの、全盛期と比べれば体力も筋力も落ちていた。事前に集まれるだけ集まっては連携の確認をしたけど、自分の衰えには絶句せざるを得なかった。
これでも働きづめで動き回っていたし、狩屋の自主練にもたまに付き合っていたんだけどな。デスクワークに比重が傾いていたのも事実だけど。
それでも体は覚えていて、パスを受けることも出すことも直ぐに勘が戻ってきた。吹雪くんには「ヒロトくんも大概サッカーバカだよね」と言われた。それはお互い様だろう。
また彼らとサッカーが出来て、とても楽しかった。まあ、実は試合は二度していて、一度目は謎のロボットの大群が襲ってきて大騒ぎになって大変だったけど。
そして今日。"彼女"と再会した。
生まれ変わった彼女と会うのは二度目だ。会った場所が河川敷だなんて、ある意味運命を感じる。丁度俺が動きやすい私服だったものだから、尚更。
そんな彼女はあの試合を見ていたらしく、開口一番そう言った。
……確かに、吉良家に養子入りをして「基山」は置いてきてしまったから、俺がイナズマジャパンの「基山ヒロト」だということを知っているのは少ないだろう。
あの試合はこのことを公表することにもなかったから、会社に問い合わせの電話がかかってきて、緑川が捌くのが大変だったとぼやいていたっけ。
正直、基山ヒロトを知っているのは俺の家族や仲間たちだけで良いと思っていたんだけどな。少し、失敗したかもしれない。
「あ、今日はスーツじゃないんですね。サッカー、やりましょうよ!」
「うん。いいよ」
グラウンドには誰もおらず、俺と彼女の2人だけだ。
……これは他人の目から見て大丈夫だろうか。ロリコンだなんてレッテルを貼られて、スキャンダルにでもなったら困るな。
「行きますよ!」
思い切り蹴られたボールは、きちんと俺の足元に転がってきた。前はあんなに下手でふらふらだったのに、今の彼女はそうでもないらしい。
手加減をしつつ、ボールを蹴り出す。やっぱりサッカーをするのは楽しいな。韓国のプロリーグで名を馳せてる晴矢も風介も帰国中だし、誘ってみよう。
会わせたら、きっと驚くだろうな。
「そういえば、今日はアツヤ……くんはいないんだね」
「あー、アツヤはちょっと学校のテストでやばい点取っちゃって、補習が……」
「ああ……。……アツヤくんと君はどういった関係なんだい?」
「兄妹です。不服ながらもアツヤが兄で!」
思わず空振りした。……これは驚いた。2人がまさか、兄妹として生まれ変わっていたなんて。しかもアツヤが兄か……。
「君は今日はどうしてここに?」
「なーんか、河川敷に来たらヒロトさんに会えるんじゃないかと思って!」
「あたし、凄く会いたかったんです!」なんて。少し、照れた。
「本当に会えるんなら、色紙とか持ってくれば良かった……」
「ふふ。そうだ、連絡先教えるよ。それなら、いつでも会えるだろ?」
「ええっ!?いいい、いいんですか!」
「ああ。君にならね」
そんなことを言いながら苦笑する。俺はどうしても彼女とお近づきになりたいらしい。
転がってきたボールを、蹴る。それは蹴り返されることなく、彼女の横を通り過ぎていった。
どうしたのだろうか。
「……ヒロトさんは、どうしてあたしのことを名前で呼んでくれないんですか」
「っ、それは……」
「あたし、何かしましたか?」
そう言う彼女――青葉ちゃんは今にも泣きそうな表情をしていて、奥歯を噛む。最低だな。例え生まれ変わりだとしても、星川青葉はもういないのに。
「……ごめんね。君が――青葉、ちゃんが、俺の大切な人にとても似ていたんだ」
「大切な、人?」
「うん。大切で、大好きだった、俺の家族と」
過去形の言葉に何かを感じたのか、青葉ちゃんは黙り込んだ。……暗い話をしてしまったな。
「あの、ヒロトさん」
「何かな」
「変な話、してもいいですか」
「?」
「あたし、ヒロトさんに会った時、この人に会ったことある?って思ったんです」
「え……」
「だ、だからっ!もしかしたら、あたしはその人の生まれ変わりだったりして!」
「……」
「な……なーんちゃって……。アハハ、そんなことない、ですよね……」
……。
「……いや、俺はそうだと思うよ」
「えっ」
「でも、いくら青葉ちゃんが俺の大切の人に似ていても、生まれ変わりだったとしても、青葉ちゃんは青葉ちゃんだ。俺の大切な人はもういない。
だから、気にしないで。俺はどこか重ねていたんだ。……全く、自分を通して他人を見られることがどれ程恐怖に思うかなんて、身に染みて分かっている筈なのにね」
「ヒロトさん……」
悲しげな青葉ちゃんに背を向ける。残念ながら、今の俺にあの子とボールを蹴る資格はない。
「じゃあね」
帰ろう。会社にでも寄ろうかな。せっかくの久しぶりな休みだけど、仕事に没頭すればこの気持ちも晴れるかもしれない。
そう思って足を踏み出しかけた俺の服の裾を、駆け寄ってきた青葉ちゃんがしっかりと掴んだ。振り払えない。……否、振り払いたくない。
でも、振り向かない。
「……何かな」
「あ、の、始めましょう!ここから!」
「!」
「前世っていうんですかね、こういうの。そういうの、なしで!またこれから!一から関係を作ろう!」
「青葉ちゃん……」
「アツヤも会ったことある気がするって言ってたし、アツヤともちゃんとまた会おう!アツヤもあたしと同じなんですよね?
それから、ヒロトさんの家族って沢山いますよね?そんな気がするんです!会いたいです!その人たちと!ていうか会わせて下さい!お願いします!」
だから、
「友達になろう!ヒロトさんと、友達になりたいです!」
ダメだ。
「ひ、ヒロトさん!?」
泣くつもりなんてなかったのに。泣きたくなかったのに。堪えきれずに流れ出した涙は、止めようにも止まらない。
ああ、ほら、青葉ちゃんが慌ててるじゃないか。余計な心配をかけてしまう。大丈夫だ。笑え。笑え。
「な、生意気言ってすみません!」
「……ううん、そんなことないよ。嬉しかった。ありがとう」
「ヒロトさん……」
「会おう。みんなもきっと喜ぶだろうから」
「はい!」
「でも、」
「?」
「今だけは、独り占めさせて欲しいな」
「わ、わわわ……!?」
その小さな体をゆっくりと、優しく抱き締める。温かな対応と、規則的に脈打つ心臓。ああ、生きてるんだ。
「ひひひ、ヒロトさん」
「さんはいらないよ」
「でも、」
「さんを付けるなら何も聞いてあげない」
「ヒロトさんっ!」
「……」
「………………ヒロト」
「よろしい」
「離れて下さい」
「敬語も嫌かなあ」
「………………離れて」
「仕方ない」
からかうように言いながら、回した腕をほどく。青葉ちゃんの顔は真っ赤で、可愛かった。
ねえ、青葉ちゃん。抱き締めて、青葉ちゃんの鼓動が早くなるのを感じたよ。これは、少なからず意識してくれてるって解釈していいのかな?
……重ねてなんかない。"今"の"君"が、とても愛おしく思えるんだ。
「これから、よろしく!」
「うんっ!」
(Restart!)
イナズマレジェンドジャパン対新生イナズマジャパンのエキシビションマッチ。なんていう大層な名前が付けられた試合から、数週間が経った。
前線からすっかり離れていたにも関わらず(それは豪炎寺くんも同じだけれど)、仮にも伝説という名前が付けられたチームに呼ばれた時は驚いたものだ。
時折ボールは蹴っていたものの、全盛期と比べれば体力も筋力も落ちていた。事前に集まれるだけ集まっては連携の確認をしたけど、自分の衰えには絶句せざるを得なかった。
これでも働きづめで動き回っていたし、狩屋の自主練にもたまに付き合っていたんだけどな。デスクワークに比重が傾いていたのも事実だけど。
それでも体は覚えていて、パスを受けることも出すことも直ぐに勘が戻ってきた。吹雪くんには「ヒロトくんも大概サッカーバカだよね」と言われた。それはお互い様だろう。
また彼らとサッカーが出来て、とても楽しかった。まあ、実は試合は二度していて、一度目は謎のロボットの大群が襲ってきて大騒ぎになって大変だったけど。
そして今日。"彼女"と再会した。
生まれ変わった彼女と会うのは二度目だ。会った場所が河川敷だなんて、ある意味運命を感じる。丁度俺が動きやすい私服だったものだから、尚更。
そんな彼女はあの試合を見ていたらしく、開口一番そう言った。
……確かに、吉良家に養子入りをして「基山」は置いてきてしまったから、俺がイナズマジャパンの「基山ヒロト」だということを知っているのは少ないだろう。
あの試合はこのことを公表することにもなかったから、会社に問い合わせの電話がかかってきて、緑川が捌くのが大変だったとぼやいていたっけ。
正直、基山ヒロトを知っているのは俺の家族や仲間たちだけで良いと思っていたんだけどな。少し、失敗したかもしれない。
「あ、今日はスーツじゃないんですね。サッカー、やりましょうよ!」
「うん。いいよ」
グラウンドには誰もおらず、俺と彼女の2人だけだ。
……これは他人の目から見て大丈夫だろうか。ロリコンだなんてレッテルを貼られて、スキャンダルにでもなったら困るな。
「行きますよ!」
思い切り蹴られたボールは、きちんと俺の足元に転がってきた。前はあんなに下手でふらふらだったのに、今の彼女はそうでもないらしい。
手加減をしつつ、ボールを蹴り出す。やっぱりサッカーをするのは楽しいな。韓国のプロリーグで名を馳せてる晴矢も風介も帰国中だし、誘ってみよう。
会わせたら、きっと驚くだろうな。
「そういえば、今日はアツヤ……くんはいないんだね」
「あー、アツヤはちょっと学校のテストでやばい点取っちゃって、補習が……」
「ああ……。……アツヤくんと君はどういった関係なんだい?」
「兄妹です。不服ながらもアツヤが兄で!」
思わず空振りした。……これは驚いた。2人がまさか、兄妹として生まれ変わっていたなんて。しかもアツヤが兄か……。
「君は今日はどうしてここに?」
「なーんか、河川敷に来たらヒロトさんに会えるんじゃないかと思って!」
「あたし、凄く会いたかったんです!」なんて。少し、照れた。
「本当に会えるんなら、色紙とか持ってくれば良かった……」
「ふふ。そうだ、連絡先教えるよ。それなら、いつでも会えるだろ?」
「ええっ!?いいい、いいんですか!」
「ああ。君にならね」
そんなことを言いながら苦笑する。俺はどうしても彼女とお近づきになりたいらしい。
転がってきたボールを、蹴る。それは蹴り返されることなく、彼女の横を通り過ぎていった。
どうしたのだろうか。
「……ヒロトさんは、どうしてあたしのことを名前で呼んでくれないんですか」
「っ、それは……」
「あたし、何かしましたか?」
そう言う彼女――青葉ちゃんは今にも泣きそうな表情をしていて、奥歯を噛む。最低だな。例え生まれ変わりだとしても、星川青葉はもういないのに。
「……ごめんね。君が――青葉、ちゃんが、俺の大切な人にとても似ていたんだ」
「大切な、人?」
「うん。大切で、大好きだった、俺の家族と」
過去形の言葉に何かを感じたのか、青葉ちゃんは黙り込んだ。……暗い話をしてしまったな。
「あの、ヒロトさん」
「何かな」
「変な話、してもいいですか」
「?」
「あたし、ヒロトさんに会った時、この人に会ったことある?って思ったんです」
「え……」
「だ、だからっ!もしかしたら、あたしはその人の生まれ変わりだったりして!」
「……」
「な……なーんちゃって……。アハハ、そんなことない、ですよね……」
……。
「……いや、俺はそうだと思うよ」
「えっ」
「でも、いくら青葉ちゃんが俺の大切の人に似ていても、生まれ変わりだったとしても、青葉ちゃんは青葉ちゃんだ。俺の大切な人はもういない。
だから、気にしないで。俺はどこか重ねていたんだ。……全く、自分を通して他人を見られることがどれ程恐怖に思うかなんて、身に染みて分かっている筈なのにね」
「ヒロトさん……」
悲しげな青葉ちゃんに背を向ける。残念ながら、今の俺にあの子とボールを蹴る資格はない。
「じゃあね」
帰ろう。会社にでも寄ろうかな。せっかくの久しぶりな休みだけど、仕事に没頭すればこの気持ちも晴れるかもしれない。
そう思って足を踏み出しかけた俺の服の裾を、駆け寄ってきた青葉ちゃんがしっかりと掴んだ。振り払えない。……否、振り払いたくない。
でも、振り向かない。
「……何かな」
「あ、の、始めましょう!ここから!」
「!」
「前世っていうんですかね、こういうの。そういうの、なしで!またこれから!一から関係を作ろう!」
「青葉ちゃん……」
「アツヤも会ったことある気がするって言ってたし、アツヤともちゃんとまた会おう!アツヤもあたしと同じなんですよね?
それから、ヒロトさんの家族って沢山いますよね?そんな気がするんです!会いたいです!その人たちと!ていうか会わせて下さい!お願いします!」
だから、
「友達になろう!ヒロトさんと、友達になりたいです!」
ダメだ。
「ひ、ヒロトさん!?」
泣くつもりなんてなかったのに。泣きたくなかったのに。堪えきれずに流れ出した涙は、止めようにも止まらない。
ああ、ほら、青葉ちゃんが慌ててるじゃないか。余計な心配をかけてしまう。大丈夫だ。笑え。笑え。
「な、生意気言ってすみません!」
「……ううん、そんなことないよ。嬉しかった。ありがとう」
「ヒロトさん……」
「会おう。みんなもきっと喜ぶだろうから」
「はい!」
「でも、」
「?」
「今だけは、独り占めさせて欲しいな」
「わ、わわわ……!?」
その小さな体をゆっくりと、優しく抱き締める。温かな対応と、規則的に脈打つ心臓。ああ、生きてるんだ。
「ひひひ、ヒロトさん」
「さんはいらないよ」
「でも、」
「さんを付けるなら何も聞いてあげない」
「ヒロトさんっ!」
「……」
「………………ヒロト」
「よろしい」
「離れて下さい」
「敬語も嫌かなあ」
「………………離れて」
「仕方ない」
からかうように言いながら、回した腕をほどく。青葉ちゃんの顔は真っ赤で、可愛かった。
ねえ、青葉ちゃん。抱き締めて、青葉ちゃんの鼓動が早くなるのを感じたよ。これは、少なからず意識してくれてるって解釈していいのかな?
……重ねてなんかない。"今"の"君"が、とても愛おしく思えるんだ。
「これから、よろしく!」
「うんっ!」
(Restart!)
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