とある夏の思い出
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フットボールフロンティアインターナショナルは、俺たち日本代表イナズマジャパンが優勝して幕を閉じた。
その影響で、サッカー人気はうなぎ登り。高校を出た円堂くんたちがプロや海外へ行くと、また人気は爆発的に伸びていった。
それ故に社会的地位の獲得の為の道具として扱われ、サッカーの実力の優劣が、人間の優劣と同等になりつちあった。
会社や学校が強い選手を奪い合い、魔の手は嘗てイナズマジャパンだったメンバーにも伸ばされたかけた。最も、その時既に俺はサッカーから離れていたけれど。
ちなみにみんな高額な年棒を提示されても、頑として頭を縦に振らなかったそうだ。当たり前だ。不動くんは「勝敗指示がなけりゃなあ」とぼやいていた。彼らしい。
止めようにも、経済的にも政治的にも、サッカーの影響は大きくなり過ぎていて、果てはフィフスセクターという"平等"の名の元に勝敗管理組織が出来てしまった。
勿論反発の声もあった。けれどそれを揉み消すように、勝敗指示のない試合をガス抜きのように組み込み、将来を約束し、異を押し止めた。
正直、自責の念にかられなかったのかと問われれば、そんなことない、なんて返答は真っ赤な嘘になる。元を辿れば、FFIの優勝がきっかけだったから。
時間があれば、度々当時のメンバーで集まり、話し合った。特に日本のプロリーグに進んだ風丸くん、吹雪くん、壁山くんは、子供たちとのふれあいの中で、情報を集めていた。
……何人か、ある時を境にぱったりと音沙汰が無くなり、気づけばあちら側に立っていたけれど、彼らには彼らなりの考えがあるのだと、言葉にせずともみんなが思っていた。
それ程までに、共に過ごしたのだから。
フィフスセクターが出来て、2年が経った。
久遠監督からの連絡で、雷門が勝敗指示を破り、円堂くんが新監督として就任したことを聞いた。
何かが動き出そうとしていた。
ホーリーロードでの快進撃に、次々にあがる賛同の声。
俺や緑川も、フィフスセクターの裏について調べるよう頼まれ、秘密裏に動いた。前線を離れた俺たちが力になれるのが、嬉しかった。
そして雷門中がホーリーロードを制し、フィフスセクターは解散。自由なサッカーは取り戻された。
全てが、元通りになりつつあった。
「元気そうだったな」
「ああ。みんな、相変わらずだった」
二週間程経って、円堂くんからイナズマジャパンメンバーで同窓会をしようと連絡があった。
場所は雷門中。今の雷門サッカー部を交えて、1日サッカーをやろうと。もちろん参加だと返事をして、丸一日空ける為に予定を詰めて仕事を片付けた。
……が、急な取引が入って、途中からの参加が余儀なくなれてしまった。会社としては有益でも、今回ばかりは苛立ってしまう。
柄にもなく逸る気持ちを押さえきれなくて、取引先に行く前に少しだけ顔を出した。途中参加なのを改めて謝ると、逆に謝ったことを怒られた。全く、みんな変わってないな。
そのことを嬉しく思いつつ敷地内を出ると、足元にボールが転がってきた。白と黒の、サッカーボール。
「あっ、すみません!」
「それオレらのボールなんです!」
「うん。大丈夫……」
言葉を失った。
目の前にいるのは、まだ幼い、小学生くらいの男の子と女の子。それはまだいい。
俺を酷く動揺させたのは、その容姿だった。あの夏の日に再会し、出会った、俺の大切な人と友人に、瓜二つだった。
緑川もそれに気づいたようで、目を見開き、呆然と立ち尽くしている。
「あの、ボール……」
「……ああ、ごめんね。はい」
「ありがとうございます!」
「あーあ、変な方にミスキックしてさ」
「うっせー、仕方ないだろ」
口論をしたず男の子と女の子に、あの2人の姿が重なる。まさか、そんな!
「……ねえ、君たちの名前、教えてもらってもいいかな?」
「えー、知らない人に名前教えちゃダメって言われてるし……。お兄さんフシンシャ?」
「いいじゃん名前くらい。あたし的には、お兄さんたちは大丈夫だって思う!ね、お兄さんはサッカー好きなの?」
「ああ、もちろんだよ」
「これでも、結構実力あるんだからな」
「意地を張るなよ、緑川」
「流石に子供には負けないよ」
そんな俺たちの掛け合いに笑った女の子は、楽しそうに笑って、言葉を紡いだ。
「あたし、―――っていうの!」
「っ!」
胸が締め付けられるように、苦しい。目頭が熱くなって、泣きたいのを堪える。
男の子も渋々といった様子で名乗ってくれて、その名前に、息が詰まる。
「お兄さんは?」
「基山、ヒロトだよ」
「ヒロトお前……。……俺は緑川リュウジ」
「ヒロトに緑川か」
「ちょっと!呼び捨てなんかダメだって!」
「いいよ。君たちなら」
「ほら見ろ」
「えー」
「あ。……社長、時間」
「……じゃあ、俺たちはこれで」
「おう。また会った時はサッカーやろうな!」
「ああ!」
2人は俺たちの横をすり抜けて、駆けていく。
「よーし、鉄塔広場までダーッシュ!」
「あ、おい!」
「へへっ、置いてくよ!――アツヤ!」
「待てよ!――青葉!」
ああ。ああ!
堪えきれなくなった涙を拭う。
溢れ出した感情は、抑えられそうにない。これから取引だっていうのに。
嬉しくて嬉しくて、仕方がないんだ。
口元は、自然と弧を描いていた。
「――また、会えたね」
青葉、アツヤ。
fin
その影響で、サッカー人気はうなぎ登り。高校を出た円堂くんたちがプロや海外へ行くと、また人気は爆発的に伸びていった。
それ故に社会的地位の獲得の為の道具として扱われ、サッカーの実力の優劣が、人間の優劣と同等になりつちあった。
会社や学校が強い選手を奪い合い、魔の手は嘗てイナズマジャパンだったメンバーにも伸ばされたかけた。最も、その時既に俺はサッカーから離れていたけれど。
ちなみにみんな高額な年棒を提示されても、頑として頭を縦に振らなかったそうだ。当たり前だ。不動くんは「勝敗指示がなけりゃなあ」とぼやいていた。彼らしい。
止めようにも、経済的にも政治的にも、サッカーの影響は大きくなり過ぎていて、果てはフィフスセクターという"平等"の名の元に勝敗管理組織が出来てしまった。
勿論反発の声もあった。けれどそれを揉み消すように、勝敗指示のない試合をガス抜きのように組み込み、将来を約束し、異を押し止めた。
正直、自責の念にかられなかったのかと問われれば、そんなことない、なんて返答は真っ赤な嘘になる。元を辿れば、FFIの優勝がきっかけだったから。
時間があれば、度々当時のメンバーで集まり、話し合った。特に日本のプロリーグに進んだ風丸くん、吹雪くん、壁山くんは、子供たちとのふれあいの中で、情報を集めていた。
……何人か、ある時を境にぱったりと音沙汰が無くなり、気づけばあちら側に立っていたけれど、彼らには彼らなりの考えがあるのだと、言葉にせずともみんなが思っていた。
それ程までに、共に過ごしたのだから。
フィフスセクターが出来て、2年が経った。
久遠監督からの連絡で、雷門が勝敗指示を破り、円堂くんが新監督として就任したことを聞いた。
何かが動き出そうとしていた。
ホーリーロードでの快進撃に、次々にあがる賛同の声。
俺や緑川も、フィフスセクターの裏について調べるよう頼まれ、秘密裏に動いた。前線を離れた俺たちが力になれるのが、嬉しかった。
そして雷門中がホーリーロードを制し、フィフスセクターは解散。自由なサッカーは取り戻された。
全てが、元通りになりつつあった。
「元気そうだったな」
「ああ。みんな、相変わらずだった」
二週間程経って、円堂くんからイナズマジャパンメンバーで同窓会をしようと連絡があった。
場所は雷門中。今の雷門サッカー部を交えて、1日サッカーをやろうと。もちろん参加だと返事をして、丸一日空ける為に予定を詰めて仕事を片付けた。
……が、急な取引が入って、途中からの参加が余儀なくなれてしまった。会社としては有益でも、今回ばかりは苛立ってしまう。
柄にもなく逸る気持ちを押さえきれなくて、取引先に行く前に少しだけ顔を出した。途中参加なのを改めて謝ると、逆に謝ったことを怒られた。全く、みんな変わってないな。
そのことを嬉しく思いつつ敷地内を出ると、足元にボールが転がってきた。白と黒の、サッカーボール。
「あっ、すみません!」
「それオレらのボールなんです!」
「うん。大丈夫……」
言葉を失った。
目の前にいるのは、まだ幼い、小学生くらいの男の子と女の子。それはまだいい。
俺を酷く動揺させたのは、その容姿だった。あの夏の日に再会し、出会った、俺の大切な人と友人に、瓜二つだった。
緑川もそれに気づいたようで、目を見開き、呆然と立ち尽くしている。
「あの、ボール……」
「……ああ、ごめんね。はい」
「ありがとうございます!」
「あーあ、変な方にミスキックしてさ」
「うっせー、仕方ないだろ」
口論をしたず男の子と女の子に、あの2人の姿が重なる。まさか、そんな!
「……ねえ、君たちの名前、教えてもらってもいいかな?」
「えー、知らない人に名前教えちゃダメって言われてるし……。お兄さんフシンシャ?」
「いいじゃん名前くらい。あたし的には、お兄さんたちは大丈夫だって思う!ね、お兄さんはサッカー好きなの?」
「ああ、もちろんだよ」
「これでも、結構実力あるんだからな」
「意地を張るなよ、緑川」
「流石に子供には負けないよ」
そんな俺たちの掛け合いに笑った女の子は、楽しそうに笑って、言葉を紡いだ。
「あたし、―――っていうの!」
「っ!」
胸が締め付けられるように、苦しい。目頭が熱くなって、泣きたいのを堪える。
男の子も渋々といった様子で名乗ってくれて、その名前に、息が詰まる。
「お兄さんは?」
「基山、ヒロトだよ」
「ヒロトお前……。……俺は緑川リュウジ」
「ヒロトに緑川か」
「ちょっと!呼び捨てなんかダメだって!」
「いいよ。君たちなら」
「ほら見ろ」
「えー」
「あ。……社長、時間」
「……じゃあ、俺たちはこれで」
「おう。また会った時はサッカーやろうな!」
「ああ!」
2人は俺たちの横をすり抜けて、駆けていく。
「よーし、鉄塔広場までダーッシュ!」
「あ、おい!」
「へへっ、置いてくよ!――アツヤ!」
「待てよ!――青葉!」
ああ。ああ!
堪えきれなくなった涙を拭う。
溢れ出した感情は、抑えられそうにない。これから取引だっていうのに。
嬉しくて嬉しくて、仕方がないんだ。
口元は、自然と弧を描いていた。
「――また、会えたね」
青葉、アツヤ。
fin