とある夏の思い出
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フットボールフロンティアインターナショナル。通称FFI。つまりは、世界大会。
雷門の監督である響木に呼び出されたヒロトと緑川を待っていたのは、3ヶ月前までは敵として戦っていた円堂たちと、自分たちが日本代表候補であるという事実だった。
理由があったとはいえ、日本中を騒がせたのだ。まだ子供、なんて、言い訳にならない。責められて、当然のことをしたのだから。
実際、ボロボロに叩き潰された挙げ句、校舎を破壊された木戸川清修の武方は、緑川に突っ掛かってきた。
口元ひきつらせながらも、笑顔を保ちながら謝罪をする緑川の本心に気づいたのは、ヒロトだけだ。
つまるところ、表面には出さずとも、2人はどこか後ろめたかった。
といっても、誰もが責めた訳でもなく、大半はとっくに流してしまったらしく、2人を受け入れ、歓迎した。
それすらも、僅かに息苦しくもあったのだが。
が、そんなことなど知ってか知らずか、まるで最初から仲間だったのかのように接する円堂たちに、いつしか心を開いていた。
選考を通り、イナズマジャパンとして、ヒロトと緑川はアジア予選を勝ち抜いていった。
決勝では、韓国代表にアフロディが所属していた上、エイリア学園時に鎬を削り合ったバーンとカゼル――否、南雲晴矢と凉野風介もいた。
お互いを知り尽くしていると言っても過言ではないこの試合は、一進一退、熾烈を極めた。
日本代表としての誇りと誓い。候補にすら選ばれなかった悔しさと執念。それぞれの思いと、極めた必殺技がぶつかり合う。
結果、勝ったのは日本代表イナズマジャパンだった。
力は出し尽くした。そして、負けた。韓国代表に、南雲と凉野にどうしようもない悔しさはあったものの、嫉妬やわだかまりはなかった。
勝った者は、負けた者の思いを背負っていく。彼らから託された思いを、円堂たちは確かに受け取った。
本大会予選リーグに向けて、イナズマジャパンは別名サッカーアイランドとも呼ばれるライオコット島へ発つ。
そのメンバーの中に、緑川はいなかった。チームから、外れたのだ。
同じく吹雪も韓国戦で負った怪我が重く、離脱を余儀なくされ、松葉杖を突きながら見送りに来ていた。
「緑川」
「ん?」
「一緒に行きたかったな……」
「……すまん。だけど、やれるだけのことはやった。後悔はしていない」
辛そうなヒロトの気持ちを吹き飛ばすように、緑川は返す。悔しいものは悔しい。でも、ここで立ち止まっている訳にはいかない。
本大会でも選手の入れ替えは認められている。悔しがっている暇があるなら、その分練習に費やすのだ。合流する為に。
「頑張ってね、ヒロトくん」
「ああ! ……!」
励ましの言葉をかける吹雪に、ヒロトは一瞬驚きに目を見開いた。その姿が、アツヤと重なって見えたのだ。
無論、目の前にいるのは吹雪士郎であり、別人を重ねて見るなど、2人の吹雪に対する冒涜行為だ。
ヒロト自身も、自分を通して別の人間を見る目がどれ程恐ろしく感じるか、身をもって知っていた。
だとしても、長い人生の中で見れば僅かな期間ではあったが、共に過ごし、ボールを蹴り合ったアツヤのことを、忘れられる筈がなかった。
それと同時に思い出したのは、自分にとって大切な人。もう二度と会えない。それでも、ずっと自分は思い続けるであろう人。
「(俺は元気でやってるよ、青葉)」
この最高の仲間たちと、世界一を掴み取って見せる。
「ヒロトくん?」
「ああ、ごめん」
苦笑したヒロトは、ユニフォームの裾で汗を拭った。
深夜。宿舎を抜け出したヒロトと吹雪は、必殺技を編み出そうとしていた。
持ち掛けたのヒロトの方だ。吹雪アツヤではなく吹雪士郎に、似たような境遇を持つ彼と、必殺技をやりたかった。
その後、吹雪からも必殺技を提案されることになるのだが、それはまだまだ先のことである。
地面に寝転がり、満天の星空を見上る。そんな中、吹雪は口を開いた。
「大分形になってきたね」
「そうだね。ブラジル戦に間に合いそうで良かった。……あと少しだ!」
「そうだ、名前どうしよっか」
「……ちょっと気が早いんじゃないかな」
「その方がやり易いよ」
のほほんと、マイペースさを感じさせる吹雪に、改めてアツヤとの違いを感じる。父さんと慕うあの人も、そう感じる時があったのだろうか。
「……似てるよね、俺たち」
「え?」
「形はどうであれ、演じてたようなものじゃないか」
「まあ、そう、だね……」
"吉良ヒロト"を重ねられたヒロトは、緑川たちとは別種の愛情を注がれ、それに応えようとした。吹雪は"吹雪アツヤ"を自身の中に作り出した。
今でこそもう気にしていないからとヒロトは言ったものの、吹雪の返答の歯切れは悪い。しまった、とヒロトが思った時「……確かに」吹雪は言葉を紡ぎ出した。
「僕たちは似てる。だから、君は僕を誘ったのかもしれない。でも、僕たちは違うよ。ちょっと似てるだけで、全然違う。ね、ヒロトくん」
もしかして、アツヤに会った?
その問いに、ヒロトは体を強張らせた。何故彼が知っているのだろう。その疑問は、直ぐに解けることとなった。
「薄々、感じてたんだ、アツヤが僕を見守ってくれてること。ちゃんと見えたのは一度だけ。富士山麓で、僕の中のアツヤとお別れした時。
本当にびっくりしたなあ。少し恥ずかしかったし。アツヤ、ほっとした顔してたから、今まで心配かけてたんだろうら、謝っても謝りきれないや。
その時ね、もう1人女の子がいたんだ。その子はヒロトくんたちのことをずっと見てた。だから、僕にとってのアツヤみたいな子がいたんじゃないかなあって思って」
つらつらと話す吹雪に、ヒロトは内心舌を巻いていた。そこまで知られていたのか。
もしかすると、アツヤのことを考えていたことも、バレていたのかもしれない。それを吹雪は咎めもせず、特に感情にも出さなかった。
ヒロトは人の感情を読むのが得意だった。環境がそうさせた。それは吹雪も同じだったようで、彼は、本心を隠すのが上手かった。
「……ごめん」
「気にしてないよ。でさ、アツヤはどうだった?」
「吹雪くんに似てた。でも、大雑把だし、がさつだし、全然違う」
「あはは、それでいいんだよ。同じ人間なんていないんだから。
重ねることが必ずしもいけないことなんて、思ってないよ。ある意味、仕方ないことだし」
「吹雪くん……」
ズボンについた砂埃を払いながら立ち上がった吹雪は、パンッと手を打った。
「……あ、必殺技の名前、思い付いた!ねえ、ザ・バース、なんてどうかな?」
「ザ・バース……」
バース。誕生を意味する言葉。復唱してみれば、すとんと落ちる。ずっと前からそうだったように、しっくりきているように思えた。
ヒロトは立ち上がり、吹雪と向かい合う。穏やかな微笑みに見え隠れするのは、冷たく、熱い、静かな闘志。
「……うん!いいと思う。絶対に完成させよう!」
「一緒に、世界一になろう!」
顔を見合わせて笑い合ったヒロトと吹雪は、次こそはとボールを蹴り出す。
2人が赤と青の螺旋を描くまで、あと数十分。彼らの距離は、縮まっていた。
世界一まで、あと少し――――
「……本当にいいのか、ヒロト」
「ああ。俺は―――」
.
雷門の監督である響木に呼び出されたヒロトと緑川を待っていたのは、3ヶ月前までは敵として戦っていた円堂たちと、自分たちが日本代表候補であるという事実だった。
理由があったとはいえ、日本中を騒がせたのだ。まだ子供、なんて、言い訳にならない。責められて、当然のことをしたのだから。
実際、ボロボロに叩き潰された挙げ句、校舎を破壊された木戸川清修の武方は、緑川に突っ掛かってきた。
口元ひきつらせながらも、笑顔を保ちながら謝罪をする緑川の本心に気づいたのは、ヒロトだけだ。
つまるところ、表面には出さずとも、2人はどこか後ろめたかった。
といっても、誰もが責めた訳でもなく、大半はとっくに流してしまったらしく、2人を受け入れ、歓迎した。
それすらも、僅かに息苦しくもあったのだが。
が、そんなことなど知ってか知らずか、まるで最初から仲間だったのかのように接する円堂たちに、いつしか心を開いていた。
選考を通り、イナズマジャパンとして、ヒロトと緑川はアジア予選を勝ち抜いていった。
決勝では、韓国代表にアフロディが所属していた上、エイリア学園時に鎬を削り合ったバーンとカゼル――否、南雲晴矢と凉野風介もいた。
お互いを知り尽くしていると言っても過言ではないこの試合は、一進一退、熾烈を極めた。
日本代表としての誇りと誓い。候補にすら選ばれなかった悔しさと執念。それぞれの思いと、極めた必殺技がぶつかり合う。
結果、勝ったのは日本代表イナズマジャパンだった。
力は出し尽くした。そして、負けた。韓国代表に、南雲と凉野にどうしようもない悔しさはあったものの、嫉妬やわだかまりはなかった。
勝った者は、負けた者の思いを背負っていく。彼らから託された思いを、円堂たちは確かに受け取った。
本大会予選リーグに向けて、イナズマジャパンは別名サッカーアイランドとも呼ばれるライオコット島へ発つ。
そのメンバーの中に、緑川はいなかった。チームから、外れたのだ。
同じく吹雪も韓国戦で負った怪我が重く、離脱を余儀なくされ、松葉杖を突きながら見送りに来ていた。
「緑川」
「ん?」
「一緒に行きたかったな……」
「……すまん。だけど、やれるだけのことはやった。後悔はしていない」
辛そうなヒロトの気持ちを吹き飛ばすように、緑川は返す。悔しいものは悔しい。でも、ここで立ち止まっている訳にはいかない。
本大会でも選手の入れ替えは認められている。悔しがっている暇があるなら、その分練習に費やすのだ。合流する為に。
「頑張ってね、ヒロトくん」
「ああ! ……!」
励ましの言葉をかける吹雪に、ヒロトは一瞬驚きに目を見開いた。その姿が、アツヤと重なって見えたのだ。
無論、目の前にいるのは吹雪士郎であり、別人を重ねて見るなど、2人の吹雪に対する冒涜行為だ。
ヒロト自身も、自分を通して別の人間を見る目がどれ程恐ろしく感じるか、身をもって知っていた。
だとしても、長い人生の中で見れば僅かな期間ではあったが、共に過ごし、ボールを蹴り合ったアツヤのことを、忘れられる筈がなかった。
それと同時に思い出したのは、自分にとって大切な人。もう二度と会えない。それでも、ずっと自分は思い続けるであろう人。
「(俺は元気でやってるよ、青葉)」
この最高の仲間たちと、世界一を掴み取って見せる。
「ヒロトくん?」
「ああ、ごめん」
苦笑したヒロトは、ユニフォームの裾で汗を拭った。
深夜。宿舎を抜け出したヒロトと吹雪は、必殺技を編み出そうとしていた。
持ち掛けたのヒロトの方だ。吹雪アツヤではなく吹雪士郎に、似たような境遇を持つ彼と、必殺技をやりたかった。
その後、吹雪からも必殺技を提案されることになるのだが、それはまだまだ先のことである。
地面に寝転がり、満天の星空を見上る。そんな中、吹雪は口を開いた。
「大分形になってきたね」
「そうだね。ブラジル戦に間に合いそうで良かった。……あと少しだ!」
「そうだ、名前どうしよっか」
「……ちょっと気が早いんじゃないかな」
「その方がやり易いよ」
のほほんと、マイペースさを感じさせる吹雪に、改めてアツヤとの違いを感じる。父さんと慕うあの人も、そう感じる時があったのだろうか。
「……似てるよね、俺たち」
「え?」
「形はどうであれ、演じてたようなものじゃないか」
「まあ、そう、だね……」
"吉良ヒロト"を重ねられたヒロトは、緑川たちとは別種の愛情を注がれ、それに応えようとした。吹雪は"吹雪アツヤ"を自身の中に作り出した。
今でこそもう気にしていないからとヒロトは言ったものの、吹雪の返答の歯切れは悪い。しまった、とヒロトが思った時「……確かに」吹雪は言葉を紡ぎ出した。
「僕たちは似てる。だから、君は僕を誘ったのかもしれない。でも、僕たちは違うよ。ちょっと似てるだけで、全然違う。ね、ヒロトくん」
もしかして、アツヤに会った?
その問いに、ヒロトは体を強張らせた。何故彼が知っているのだろう。その疑問は、直ぐに解けることとなった。
「薄々、感じてたんだ、アツヤが僕を見守ってくれてること。ちゃんと見えたのは一度だけ。富士山麓で、僕の中のアツヤとお別れした時。
本当にびっくりしたなあ。少し恥ずかしかったし。アツヤ、ほっとした顔してたから、今まで心配かけてたんだろうら、謝っても謝りきれないや。
その時ね、もう1人女の子がいたんだ。その子はヒロトくんたちのことをずっと見てた。だから、僕にとってのアツヤみたいな子がいたんじゃないかなあって思って」
つらつらと話す吹雪に、ヒロトは内心舌を巻いていた。そこまで知られていたのか。
もしかすると、アツヤのことを考えていたことも、バレていたのかもしれない。それを吹雪は咎めもせず、特に感情にも出さなかった。
ヒロトは人の感情を読むのが得意だった。環境がそうさせた。それは吹雪も同じだったようで、彼は、本心を隠すのが上手かった。
「……ごめん」
「気にしてないよ。でさ、アツヤはどうだった?」
「吹雪くんに似てた。でも、大雑把だし、がさつだし、全然違う」
「あはは、それでいいんだよ。同じ人間なんていないんだから。
重ねることが必ずしもいけないことなんて、思ってないよ。ある意味、仕方ないことだし」
「吹雪くん……」
ズボンについた砂埃を払いながら立ち上がった吹雪は、パンッと手を打った。
「……あ、必殺技の名前、思い付いた!ねえ、ザ・バース、なんてどうかな?」
「ザ・バース……」
バース。誕生を意味する言葉。復唱してみれば、すとんと落ちる。ずっと前からそうだったように、しっくりきているように思えた。
ヒロトは立ち上がり、吹雪と向かい合う。穏やかな微笑みに見え隠れするのは、冷たく、熱い、静かな闘志。
「……うん!いいと思う。絶対に完成させよう!」
「一緒に、世界一になろう!」
顔を見合わせて笑い合ったヒロトと吹雪は、次こそはとボールを蹴り出す。
2人が赤と青の螺旋を描くまで、あと数十分。彼らの距離は、縮まっていた。
世界一まで、あと少し――――
「……本当にいいのか、ヒロト」
「ああ。俺は―――」
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